妖精
夜になり、三人で庭に出る。初めて暗くなってから家の外に出たが、昼間の森とは違い、暗い森はやはり怖いと思った。
「さて、闇魔法の適正を見るよ。初級として闇魔法は自分の姿を隠す事が出来る。正確には魔力の膜で自分の姿を他人に見えないと錯覚させる魔法なんだ。こんな風にね」
ルイが言い終わって指をパチンと鳴らすと、ルイの姿が消えた。
「えっ!? ルイが消えちゃった!!」
私はびっくりして、辺りをキョロキョロと見渡すが、ルイの姿はどこにもない。
またパチンと音がして、ルイは先程と同じ位置に立っていた。
「姿が見えなくなるだけで、実際はここに立っていたし、気配や魔力を見れる人には気づかれちゃうんだけどね。闇魔法の適正がある人間は偵察とかの仕事をする人が多いかな。カナもやってみよう。魔力の膜で自分を包む事を想像して《ハイド》と唱えてごらん」
ルイに頷いてから、魔力を体を包み込むように集中させる。
「《ハイド》」
上手く魔力が体を包んでる感覚はあるが、あまり自分では実感もないので、二人を見るとニコニコと笑顔になっている。
「カナ、成功してるよ。姿は消えてる。解除するなら《リリース》って唱えてごらん」
「闇魔法にも適正があるとはな。カナは魔法の才能がかなり優秀だ」
ルイに教えてもらって魔法を解除してると、ダイアは頷きながら関心してるように私を見つめている。
「才能ある? 魔法を使うのは初めてやるし、他の人と比べたりした事もないから分からないんだけれど」
「ダイアの言う通りだね。普通は付加魔法は2つ使えればいい方なんだ。それが4つも適正があるのは凄い事なんだよ。これでカナの使える魔法が分かったから、各魔法の勉強を少しずつやっていけば使える魔法も増えていくよ」
首を傾げた私に、ルイが笑顔で言いながら頭を撫でてくれる。
ルイの手は温かくて、自分が少し認められた気がしてとても嬉しかった。
『こんばんは』
家に戻ろうとした時に、ふいに声が聞こえて振り返ると、そこには手のひらに乗るくらい小さな羽がある女の子達が飛んでいた。
「……妖……精?」
『やっと私達が見えたみたいね』
『愛し子の弟子なんて興味あるわ』
『やっと魔力が馴染んだのね』
私は驚いて妖精達を見ながら呟くしか出来ないが、妖精達はそれぞれ話しかけてくる。
「……カナ? この子達が見えてるのかい?」
ルイが驚いたように問いかけてきた。
「……見えるよ。声が聞こえたから振り返ったらこの子達がいたの」
『愛し子ほどではないけどいい魔力ね』
『そうね。愛し子ほどじゃないけど落ち着くわ』
小さな妖精達はそう言いながら私の回りをくるくると飛んでいる。
彼女達の一人が私の肩に座って話しかけてきた。
『初めまして愛し子の弟子。私達はこの森に住んでいるのよ。あなたの魔力が上がったから私達を見る事が出来るようになったみたいね。声をかけてみて良かったわ』
「初めまして。カナと言います。愛し子って?それに私シルキーさん以外の妖精さんは初めて見るけど、会話が出来るのね」
『普通の人は私達と話したりしないわ。私達を見るだけの魔力がないと気づいてくれないもの。愛し子はルイの事よ。カナの魔力が魔法を使うようになって、いきなり膨れ上がったから試しに会いにきたの。カナの魔力は好きよ。もっと体に魔力を流す練習をすればもっと上がるわ』
「魔力を流す練習……頑張ってみる。ありがとう」
『どういたしまして。私は風の妖精のニルよ。また会いにくるわ。カナともっとお話したいもの』
肩に座った妖精ニルと話をしていると、ルイが驚きながら妖精達に話しかける。
「これはどういう事だい?」
『我らの愛し子。ニルがこの子の魔力が上がったからって見に来たんだよ。見てるだけはつまらなかったけど話せたから面白かった。今日は挨拶だけ。またねぇ~』
別の妖精がルイにそう言うと、妖精達は笑いながら手を振って森に向かって飛んでいくと見えなくなった。