【番外】ルイとダイア
カナが静かに寝息をたて始めたのを見ると、二人は安心して部屋を出る。
二人がいつものテーブルの椅子に座ると、シルキーがハーブティーを持ってきた。
「ありがとう。しかし、まさか結界魔法が使えるとは驚いたな」
ダイアがシルキーにお礼を言ってから、ルイに向かって話しかける。
「あぁ。あたしも驚いた。光魔法は魔力の質から使えるような気がしたが、結界魔法まで適正があるとなると……あの子を欲しがる奴はかなりいるだろうね」
「カナを見つけたのは偶然だったが良かったな。カナは魔法に対して才能がある。この森以外で適正が分かっていたら、善人も悪人も注目しただろう。前者ならばいいが、後者であった場合、権力の糧として使い潰されていたかもしれん」
「偶然……ね。あたしには別の何かがあるような気がしてならないんだがね」
「別の何かとは?」
「この森は妖精達の力が強くて、魔力も濃い聖域に近い場所だ。子供が一人で入口から入れば妖精達が騒ぐはず。 あたしは妖精の加護がある異質な存在よ? 王族ならば噂くらい聞いた事あるでしょう?」
「……あぁ。妖精に愛された者と聞いていた。やはり本当なんだな」
「まぁね。あたしがこの森に居られるのは妖精達が力を貸してくれるから……でもカナは、どうやってここに来たのかも分からないと言っていた。あの木が喚んだのかと思って妖精達に聞いても教えてくれないし」
「私達の一族も妖精達は見る事が出来るが……カナを見つけた時は、妖精達は静かだったな。今はカナの事を喜んでる気がするが」
「昔からケット・シーの一族は魔力が多いからね。結局カナの事を守れって事なのか、育てろって事なのか……何故突然現れたのかは分からないが、どちらにせよあの子が一人立ちするまでは、力の使い方を教えてあげないと危なそうだね」
時折ハーブティーを飲みながら、真剣な表情で話をする二人。
少しの間、それぞれがカナ事を考えていて無言だった二人だが、ダイアが意を決したようにルイに問いかける。
「ルイ……貴殿は一体いつから生きている?」
「……まだカナには言わないでね。きっと1000年くらいかしらね。本当は長い生の中で誰かと関わるのは、自分が異質だと実感してしまうから嫌なんだよ。ヒト族に生まれながら、他者とは違う異質な存在。気味が悪いでしょ?」
ダイアの問いに、ルイは少し目を伏せ悲しげな笑みを浮かべる。
「いや。私からすれば、我らもヒト族よりは長命だからな。だからヒト族でごく稀に生まれつき魔力量が膨大な者がいる事は聞いた事がある。その中で長命な者がいるという話もな」
「そう。何故自分がそうなのか、あたしも育ててくれた先達も、呪いみたいなものだと思っているよ。さらにあたしは妖精達に愛された特別異質な存在。街で生活をすれば、あまりに老いないと気味悪がられるものだ。他人と関わらなければ、顔が知られる事がなければ……代替りしたとかで誤魔化せるから、この森に住むようになって長いんだけどね」
「言いたくない事を言わせてしまったか。申し訳ない」
「いや、言ったろう。ダイアには手伝って貰いたい事があるってね。近々あんたには話すつもりだったんだ」
「それは一体?」
「それはまた今度だね。どうやらカナが起きたようだ」
二人の会話は、ハーブティーの入ったカップをもう1つ持ってきたシルキーによって終わった。
シルキーがそれを用意したのは、カナがこちらに向かっているという事。
二人は部屋の入口に目を向けるのだった。