キュレーター推薦賞③
キュレーター推薦賞受賞作
鶲原ナゴミ 「ナッツ売りの子猫」
※転載不許可作品のためURLのみ記載
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=4562
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選評執筆者 杜琴乃
全体をとおして温かさを感じられ、読んでいて気持ちが穏やかになりました。
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滲む夕暮れ
旅立つ草原
生きる痛み
翡翠は揺れる
軋みながら昇る朝日が
沸き立つ体温の赤いろの
片胸をのせ
鼓動の眠る丘に
あがったの・・・
本文より
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とくに「軋みながら昇る朝日が/沸き立つ体温の赤いろの/片胸をのせ/鼓動の眠る丘に/あがったの…」この表現は詩でしかできません。映像や絵画ではなく詩だからこそできる素晴らしい表現だと思いました。
またこの連の「生きる痛み」だけ他と比べて直接的な表現なのですが、前後にある幻想的な情景描写にさりげなく差し込まれていて良いスパイスになっていると思いました。
「生きる」ことに「痛み」を感じているが故に朝日はぎこちない動きでやっとの思いで昇っている。その朝日が「体温の赤いろ」を「鼓動の眠る丘」にもたらす…、この「痛み」と「温もり」についての繊細な表現には作者の「生きること」への真摯な姿勢が伺えるかと思います。
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ほどけてしまった
よ る
と
ぼくの心の
ぱっけーじ
本文より
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ここは「よ る/と」の配置が「ほどけてしまった星座」(=星)みたいで印象的でした。
ところで、子猫が売っているナッツとは一体何なのでしょうね。やっぱり「夏」なのでしょうか。某アニメのように庭に撒くと夜中に不思議な体験ができるような木の実でしょうか。正直に言うと、作者が具体的に何を思ってこの作品を書いたのか、読み解くことはできませんでした。しかし、作者が何かを思って書いたこの作品を通して見えた風景の数々を、心から味わい、楽しむことができました。自身が見たもの・感じたことを、独自の表現をもって適切に書き表せる技術とセンスの高さを感じました。