第一章:第六話:二人の旅立ち
今回はいつもより長い、3倍位の量です。
頑張って長くして、グダグダになってないか、心配です…変だと思うところなどありましたらご指摘お願いします。作者
第一章:第六話:二人の旅立ち
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森に静寂が戻る。
「悪かったな、アプリル。だから、そんなに怒るなって、そもそもお前が噛まなければ俺もここまで笑わなかっただろうに。
それにしても、王子に向かって“コノ意地悪王子っ、そのまま笑い死んじゃえぇぇぇ〜〜〜〜”と叫ぶとは、長い歴史の中を紐解いてもいるかどうか…きっといないだろうな?しかし、からかって笑っただけでこの言われよう、いやはや…」
―――うっ…そっ、そんな事言ったって…ムカついたんだから仕方ないじゃない!でも私、王子に向かってあんな事言ってしまって死刑になったらどうしよう…お母さんに薬買って行けないよ…うぅ
アプリルはうつむき瞳に涙を溜め、また泣きそうになる。
―――やっべ〜、やりすぎたかな…さっきまで大変な目に遭ってたんだからもう少し優しくすれば良かったな、ちょっと可哀相なことしたか…
「本当に悪かったな、アプリル。だから泣きそうにならないでくれ。俺ってさ、普段はこんな風に他人と話す(揶揄う)ことが無くて、つい調子に乗って(巫山戯て)さ…言い過ぎ(虐め過ぎ)たな」
そう言って、ヴィントはアプリルの顎に手を添えて顔を上げさせ顔を覗く。
―――なんか含みのある言い方だな…って、ヴィント王子様の顔が目の前にっ!?うっ、でも眼をそらす事が出来ない。吸い込まれそうなほど綺麗な紅い眼に見つめられてると頭がなんかぼぉっとして、とろけそうになってくる…
「ほら、せっかくの綺麗な顔が台無しに…は、ならないな。美人はどんな顔でも綺麗だから美人っていうのかもな。泣きそうな顔も儚くて綺麗だな…」
「!?」
―――えっ、何?私が美人っ?王子様が私に綺麗って言った?
「そういえば俺、まだお前の笑顔を見てないんだよな。幸せそうな可愛い寝顔なら見たんだけどな…なぁ、アプリル、君の笑顔を見せてくれないか?」
アプリルはヴィントにそう言われて、泣きそうなのを我慢した。
そして、ぎこちなさそうに泣き笑顔を浮かべる。
―――っつう、ヤバい。凄くイイ、初めてこんな顔見た。アプリルのこの笑顔(泣き笑顔だけどそれはそれで…)。もっと見ていたい。それに、こいつ危なかしいし、ちょうどいい!
「なぁアプリル、俺もこれからシェントゥルム共和国に行くんだ。で、行き先が同じなんだし、俺と一緒に行かないか?
お前一人じゃ危ないし、何があるかわかんないしな。
ただ、俺の話し相手になってくれるのが条件だけどな…」
―――えっ、ヴィント王子様と一緒に二人旅…どうしよう…緊張してまた噛みそう…でも、私一人じゃなんにも出来ないし、また危ないめに遭うかもしれない…。
うん、王子様がそうしようって言ってくれてるんだし…
「はい、不束者ですが、どうかよろしくお願いします。ヴィント王子様」
アプリルは花が咲いたような満面の笑顔でヴィントにそう告げた。
―――この満面の笑顔は反則だろ!可愛い過ぎるっ、満面の笑顔だと歳相応のあどけない少女になるんだな…
「あぁ、こちらこそよろしくな、アプリル。あぁあとさ、かしこまった喋り方じゃなくていいぞ。
シェントゥルム共和国に行ったら王子の身分は隠すから、自然に話しかけてくれた方が俺としては、有り難いから。」
「はい、んっ、うん!わかったよ。
私のことも“リル”って呼んで下さ…いいよ。」
「わかった、リル。なら俺のことも…そうだな、“ヴィオ”って呼んでくれ。
ヴィントっ名前でオステン王国の王子様ってバレても厄介だしな!」
「わかったよ、ヴィオ!」
「よし、行くか!」
ギュルルルゥ〜
「・・・」
「・・・」
「その前に腹ごしらえするか?太陽も真上過ぎてるしな…」
「はぃ、お願いします…」
―――恥ずかしぃ〜〜〜、どうして私は、こう締まらないの?
「よし、じゃあ食い物でも出すかな〜」
「えっ、食べ物を出すって?」
「まあ、見てなって【ウン・エントリッヒ・シャハテル】(無限の箱)」
ヴィントが魔法を唱えると大きさが縦60cm、横90cm、高さ、80cmほどの木造の宝箱のようなモノが何もない空間から出てきた。(※ 想像しにくいと思うので、補足です。大人が二人、横隣でくっついて体育座り出来るぐらいの大きさです。)
「これは、何?箱?」
「そう、【ウン・エントリッヒ・シャハテル】(無限の箱)って魔法で出現させる箱なんだ。
この箱の中は無限大に広がっていて、さらにこの箱自体が時の流れの外にあるから食べ物とかが腐ったりしない優れものだ。」
「スッゴ〜イ!何でも入るんだ。しかも腐らないんだ、便利〜!」
「いや、何でも入るわけじゃないんだ。
この箱にもいくつか制限があるけどな、その制限が
・生きているものは容れられない
・箱の体積より大きいものは容れられない(そもそも箱の入り口に入らない。例、ベッドなどの家具類)
・固形物でなければいけない(液体、ダメ。その場合は蓋が閉まるモノに入ってれば大丈夫。例、瓶など)
・術者が何が入ってるか覚えてなければならない。(無造作に詰め込むと容れたモノを忘れて一生出せない。対策、小物とかは一つの袋にまとまめて容れておくと楽に取り出すことができる)
・術者が死ぬと箱の中身は永遠に取り出すことが出来なくなる。
こんなところか、それでも便利な方かな〜」
「そうだよっ!手ぶらで旅が出来るじゃない!」
「あぁ、リルの荷物も仕舞うか?その位の大きさなら余裕で入るしな…」
「私の荷物をその箱に仕舞ったの、忘れないよね?」
「それぐらいは覚えてられるって…そもそも、この箱に全部で200種類以上入ってるけど、ちゃんと全部把握してるぞ」
「それなら安心だね!でもって、そんなに何が入ってるの?」
「それは…企業秘密だ」
「えぇ〜なんで?」
「まぁ、冗談だ。
そんなに大したモノは入って無いよ。
せいぜい食糧、水、衣服、野宿用の道具、後は……本、かな?と、その他多数ってところだ。」
「まぁ必要性のある物ばっかしかぁ〜
でも本ってなんで?」
「さっきから質問ばかりだな…」
「だって気になって仕様がないんだからっ!で、なんで?」
「いいけどさ、本が入ってるのは、暇潰しの為だ。
宿で泊まってる時とか、雨で先に進めない時とかに読む為だ。まぁお前がいるから必要になるかどうかは微妙だな…
お前って文字読めるのか?」
「多少は…」
「なら本を読め!本は人間性を豊かにするからな…」
「機会があったらね…」
〜・〜閑話休題〜・〜
「そろそろ飯にするか…とりあえずパンとクリームシチューでいいか?」
ヴィントはパンとクリームシチュー、それと馬の餌に袋に入った干し草を箱から取り出す。
「うん!もうお腹ペコペコだよぅ」
「そうだな、ではいただくとしようか…」
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「美味かった…流石、王宮コックの料理だ。」
「うん!こんな美味しい料理初めてだよ♪」
箱から出した紅茶セットで、優雅に食後の一服中……?
ちなみに食器は箱から出したタライと水で洗って箱に仕舞ってある。
「いやぁ〜なんかピクニックみたいだな…紅茶も美味しいし♪」
「ご機嫌だな…もう少ししたら出発するぞ。
日が暮れる前に国境を越えてアンファング街に行かないと、野宿になっちまう…」
「そうだね、ちょっと野宿は嫌だな…」
「いつかはすると思うけどな…その前にお前の分も用意しないといけないしな〜」
「えっ?其処までしてくれるの?」
「旅は道連れ、世は情けってな…まぁ、毒を食らわば皿までに近いな…気分的に」
―――酷いっ、私は毒かっ?
「冗談はこのぐらいにして」
―――またですかっ?この人は、なんでこんな意地悪ばかり…うぅ、可哀相な私…
その場に崩れる演技をするアプリル
「寸劇はそのぐらいにしとけ、拾ったら最後まで責任とるのが飼い主の責任だろ?」
「私はっ、犬猫かっ!」
「似たようなものだろ?食事の用意してやって」
「うっ」
「寝床の準備してやって」
「それはまだわかんないじゃん!そのぐらい私にだって出来るよっ」
「お前、金は?毎回宿に泊まってたら金額、馬鹿にならないぞ?野宿だって危険だし、あんな雑魚にやられるようじゃすぐ死ぬぞ」
「あぅ」
「冗談だ。お前を虐めるのはこれぐらいにして…」
「酷いっ!?」
「聞けってっ、寝床の部分は結構、本気だぞ?お前にとっては深刻な問題だろ?」
「えぅ」
「呻いてばっかだな...お前、っと、そうじゃなくて、拾ったってのは比喩だが、助けたのは俺なんだし最後までしっかり面倒みるぞ」
「ありがとう...ございます...?」
「疑問系かよっ!まあいい、紅茶片付けていくぞ」
「はい!」
二人は片付けを済ませ、準備をして馬に乗る。
ヴィントは馬の前にアプリルを乗せ、その後ろからアプリルを抱きかかえるようにして、手綱を取り出口へ歩を進ませた。
第一章、完
第二章へ続く…
今回は、特に新しい言葉は無いですね…
登場人物の名前の由来を説明する時、あの種明かしのような感覚が大好きなので残念です…
あぁ、あとヴィオとリルは、愛称なんで意味は無いです。
次回に間章を挟んで第二章、シェントゥルム共和国編に入ります。
では、失礼します。