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第四章:第五話:穏やかな昼下がり

 昨夜は早めに就寝し、日の出とともに町をでたヴィントたちは次の町へと向かう為、帝国中に張り巡らせられた街道を歩く。


 今回は盗賊や魔物にも遭遇しておらず、幾度か休憩を取りながらも歩みは順調に進み、まもなく太陽は真上へと昇ってきた。


「そろそろ昼食を取るとしようか。」


 先頭を歩くヴィントは後ろを振り返って昼食を取ることを提案する。


 ヴィントはもちろんのこと、メートヒェン、カッツェはそこまで体力を消耗してないがアプリルとライン、ローザは少々疲れ気味のようだったので昼食の知らせを聞くと顔に安堵の色を浮かべた。


「どこで取るの?」


「あそこの木陰はどうかな?」


 アプリルの言葉にカッツェはヴィントの頭に飛び乗ると街道から少し外れた先に見える大きな木の下を前足で示す。


「いいんじゃないか? 太陽の日差しも強くなってきたし丁度良い。」


 一行は緑の葉が生い茂る大きな木を目指して再び歩を進めた。


・・・・・・


「ふゥ、ごちそうさまでした。」


「お粗末様。」


 昼食を最後までかき込んでいたラインの挨拶にアプリルが返事をする。


「私たちも向こう行こうか?」


 アプリル以外はみな日向ぼっこをしながら食休みを取っている。


「うん。」


 木の陰から日向へ出ると、そこには胡座をかいたヴィントと父の膝を枕にスヤスヤと眠るメートヒェンがいた。


 そして、ローザの膝の上にはカッツェが丸くなって気持ち良さそうにしていた。


「メーヒ…気持ち良さそうに寝てるね。」


「あぁ、この天気だし、それに朝早かったからな。」


 微笑を浮かべたアプリルが小声で話し掛けるとヴィントはメートヒェンの頭を優しく撫でながら空を見上げる。


 アプリルも同じように空を、見上げれば終わりを見たこともない目眩を覚えるようなあお、が広がっていた。


「リルも座ったらどうだ?」


「…うん。」


 アプリルはそっとヴィントの隣に腰を下ろし、静かにヴィントの肩へと頭を乗せた。


「…珍しいな、リルが甘えてくるなんて。」


「……うん、最近はあまりヴィオと2人っきりってなかったから…それに、私だってメーヒみたいに甘えたい時だってあるよ。」


 アプリルの普段は取らない行動にヴィントは少々驚きながらもそれを優しく受け入れる。


 最近はカッツェとニーズヘッグ、ラインとローザと一気に仲間が増えたので2人っきりになる時間はますます減り、アプリルは少し不満なようだった。


「確かに夜の…アタッ。」


 アプリルがヴィントの頬を捻る。


「もうっ…ただこうしてのんびりするのが良いときだってあるでしょ?」


「そりゃな…でもっ!!」


「っ!?」


 ヴィントは膝にメートヒェンを寝かしたまま器用にアプリルの唇を奪う。


 しかし、いつものように激しいキスでなく、ただ唇を合わせるだけのキスだが、今はこれで十分だった。


「これぐらいはしても良いよな?」


「もう…ヴィオったら。」


 キスを終えたヴィントはいたずらを成功させたような少年の顔でアプリルに問いかけると、アプリルも口では呆れた風に言葉を紡ぐが顔は恋する少女の顔だった。


 その後、ヴィントとアプリルは久しぶりの2人っきりの時間を穏やかに過ごす。


『お前たち、我のことを忘れるでないぞ。』


「「あ…」」


・・・・・・


 カッツェside


「気持ちいいね…」


「『そうですね、先生。』」


 ローザの膝の上でひとつ欠伸をしたカッツェはしみじみと呟く。


 そんなカッツェを右手で撫でながらローザは左手で文字を綴る。


 魔力の扱い方を教わったローザはカッツェを尊敬し、先生とカッツェのことを呼ぶ唯一の人間である。


 ちなみにニーズヘッグとカッツェは良き友として親好を深めている。


「君もそう思わない? ライン。」


「ふん…」


 ローザの後ろで静かに怒気(またの名を嫉妬と言う)を滲み出しているラインに向けてカッツェは話を振る。


「『あ、ライン! お腹は一杯になった?』」


「おう。ローザは何してたんだ?」


「『日向ぼっこしてたの! ラインも一緒にしない?』」


 カッツェの言葉でラインの存在に気づいたローザは無邪気な笑顔でラインに文字を綴るとラインも年相応な笑顔でローザに話し掛ける。


「隣座るぞ。」


「『どうぞ。』」


 ローザの隣にドカッと座ったラインはカッツェに睨みを利かせる。

 目には“消エロ”とわかりやすい主張が浮かんでいたがカッツェは素知らぬ顔で再び欠伸をしている。


「気ぃきかせろよ、カッツェ。」


「え〜」


「『どうしたの? 2人とも?』」


 厳密には1人と1匹である。


「何でもないよ。…それより僕メーヒに用があるから失礼するよ。」


 なんだかんだで結局は折れるカッツェだった。


 別にカッツェも2人の恋を邪魔したいわけでもないのであっさりと身を引き、ついでにもう片方の2人の為に一肌脱ぐカッツェだった。


「『先生、またあとで。』」


「うん、またあとで。ライン、頑張りな。」


「うるせえ。」


 2人を背にトコトコと歩いて行くと仲睦まじいヴィントとアプリルの背中が見える。


 結局メートヒェンは寝ていたのでカッツェはニーズヘッグの入った漆黒の宝玉を預かって木の下で語り合うことにしたのだった。


 カッツェside end


・・・・・・


 時は夕暮れ。


 空は茜色に染まり、太陽は西へと身を沈めていき、あと幾許もしない内に空には夜の帳が下りるだろう。


 ヴィントたちはそろそろ野宿するのに丁度良い場所をと、街道を外れて小高い丘へと登り今夜の寝床を探し始める。


 しかし、それがいけなかった…小高い丘は見晴らしが良く、地上からの敵の接近を警戒するのには適していたが、空を飛ぶ敵からの襲来には無防備であった。


 敵は音も無く空を滑空してくるとローザを鷲掴みして再び空へと舞い上がる。


「なっ!?」


「ローザっ!?」


 あまりの不意打ちにヴィントもカッツェも為す術がなかった。


「ローザァァァ!!」


 最初に我に返り地を蹴ったラインはローザの名前を叫びながら怪鳥を追いかける。


 そして、すぐにヴィントたちも追いかける。


「どうする、ヴィオ? 今ならギリギリ魔法の射程範囲だけど?」


「いや、ダメだ。ローザが危ない。それよりカッツェ、俺をあの怪鳥の真上に転移出来るか?」


 ヴィントの横を併走するカッツェが魔力を練りながら提案する。


 しかし、ヴィントはその案を却下し、すぐに次の案を上げる。


「出来なくはないけど…大丈夫なの?」


「あぁ、頼む!」


「わかった。」


 カッツェはヴィントの足下に魔法陣を展開させると、するとヴィントは光に包まれて消え、同時に空を飛ぶ怪鳥の前方上空に魔法陣が展開され、そこから剣を構えたヴィントが現れた。


 そのまま重力により空中落下していくと、怪鳥の背中へと着地した。


 怪鳥は全長5mほどもあり、ヴィントが飛び降りてきても多少フラついたぐらいで、飛ぶのを止めない。


「ローザ! 今助けるからな!」


 そして、ヴィントは剣を逆手に持つと勢い良く怪鳥の背中へと突き刺す。


「キィェェェェェェッ」


「(!?)」


 怪鳥は体に剣を突き刺せられた痛みでもがきながら地上へと落下していく。


 ヴィントは剣を引き抜くと器用に怪鳥の背中から爪に掴まれたローザを助ける為に行動を始めた。


「ローザ、大丈夫か?」


「(コクッ)」


「よし、なら目を瞑ってろ!」


 ヴィントはローザの安否を確認すると再び剣を構え、怪鳥の足を断ち切る。


「クケェェェッ」


「(!!?)」


 足を切断したヴィントは緩くなった爪からローザを救い出すと左腕で抱き込み、すぐさま風の魔法を発動させ、落下速度を緩和させる。


「怪我は無いか?」


「『大丈夫です。』」


 ヴィントは腕に抱えたローザに怪我の有無を訊ねるとローザは左手で文字を綴る。


「そうか、良かった…ならあとは着地に…」


 そこでヴィントは異変に気づく。


 怪鳥の飛んでいた高度はたかが知れている筈なのにいくら落下速度を緩和しているとはいえ、地面にいまだ辿り着かない。


 すでに夜の帳が下りきり、空に浮かぶ星の光だけでは周囲の様子が見えず、現状把握が出来ない。


「まずは辺りの確認しないとな…【フィンスターニス・ベロイヒテン・ゾネ・グレンツェン】(暗闇照らす太陽の輝き)」


 宵の空に擬似太陽が浮かび、周囲を照らすとそこには…


「壁? いや、崖か…」


 どうやら丘の先は崖になっていた様で、ヴィントたちは崖の下へと降りていく。


 下の方を見るとそこには森が広がっており、見渡せる範囲は木々しかなかった。


 程なくして地面に足を着けた2人は周囲を見渡す。


 崖の中腹辺りに擬似太陽が浮かんではいるが、木に邪魔されあまり日の光が届かず、森は不気味な雰囲気を醸し出している。


 一刻も早く森を抜け出したいヴィントは崖の上を眩しそうに見上げるが…


「崖の上に登る手段は無いしな…」


「『私たちこれからどうなるんですか?』」


 ヴィントの呟きにローザは不安そうな顔で今後のことを訊ねる。


「助けを待つしかないかな…カッツェの転移魔法かニーズヘッグでしか登れそうもないしな…」


「『わかりますかね?』」


「アレが浮かんでるからわかるだろう。」


 ヴィントは空に浮かぶ擬似太陽を指さしていると…


パキッ


「「!?」」


 ヴィントたちの背後から音がし、2人が同時に振り向くとそこには巨大な蜘蛛がいた。


「シュピネか、それも三匹…」


「(ガクガク)」


 赤く怪しい24の目がヴィントとローザを捉える。


 ローザはヴィントの左腕をしっかりと抱きしめながら小刻みに震え、恐怖に堪えている。


−−−敵は三匹。普段なら何てことない状況だが、こっちにはローザがいるしな…それにコイツら火、雷系以外の魔法効きにくいんだよな。しかも、これだけ木々が密集してる所でそんなんぶっ放したら火事になるし…だからといって剣での近接戦闘はローザが危険だし…


 この間数秒、ヴィントはシュピネに警戒をしながらも思考を巡らし、出た答えは…


「逃げるぞ!」


「(コクッ)」


 ヴィントはローザをお姫様抱っこすると崖伝いに逃げる。


 シュピネたちもヴィントたちを追い掛け、糸を吐いてくる。


「チッ、ここが森じゃなきゃ…ん?」


 数分ほど走り続けたヴィントの目の前に崖にぽっかり出来ている洞窟が見える。


 ヴィントは数瞬思考を巡らすとその洞窟へと駆け込んだ。


 後を追って三匹のシュピネが洞窟内へと侵入する。


「【ゲーグナー・アオフヘーレン・フラメ・ガイステス・ブリッツ】(敵絶つ炎の閃き)」


 ローザを降ろし奥に行かせて、待ち構えていたヴィントはシュピネの赤く光、8つの目が視界に入った瞬間、魔法の発動とともに剣を三度振るう。


 それは真空の刃となり敵を襲い、その軌跡を炎が爆ぜ、シュピネたちは音も無く崩れ落ちる。


「ふぅ…もう大丈夫だぞ、ローザ。」


 ヴィントが剣を収めて振り返ると、少し奥で明かりを浮かべたローザが洞窟の奥を見つめているのに気づき、その視線を追う。


 そこには古めかしく重厚感のある石門があった。


「『何でこんな所に門があるのでしょうか?』」


「さてな…でも見た感じ、数十年…もしくは数百年は昔のモノかもし……」


「『どうしました?』」


 ローザの疑問に自分の考えを話していたヴィントは途中で口を閉ざし、辺りに目をやる。


 不思議に思ったローザが文字を綴るが、ヴィントは答えずに剣を抜き、構える。


 それを見てローザも何かがあると理解し、ヴィントの後ろへと移動する。


 洞窟の出口の方を警戒しているヴィントの視界に突然、暗闇から何かが飛んできた。


 ヴィントはすぐさま反応し、飛んできたモノを斬り払う。


 しかし、その誤った判断に後悔することになった。


 斬り払った瞬間に真っ二つに割れたモノの中から眠り粉が飛散し、ヴィントとローザに降りかかったからだ。


 2人が驚いた表情を見せたのも一瞬、すぐに眠気に襲われ、体を地に伏せた。

次回予告(というか予定)


「良い夢見てな、ボーズ。」


「ありがとう、私を見つけてくれて…」


「最悪だ…どうしてここに“鴉”が!?」


「異常にして異端、それが俺ら。」


 ※現在構想途中のため実際の作品とは異なる可能性があります。


本当のあとがき

久しぶりのあとがきですね。

本当はもう父親見つけてる辺りの話数なのに再び寄り道パート突入です。^^;

この話も見切り発車もいいとこなんで何話掛かるやら・・・

さらに新年度始まって忙しいので更新が・・・

いや、半年とか放置した奴が何を言うって感じですが^^;

こんな小説ですがもうすぐPVも十万という節目を迎えるのでまた何かやりたいなと思います。

最後に、ユキさん誤字の指摘に感想ありがとうございました。


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