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第四章:第三話:差し伸べられる手


ラインside


「ハァ、ハァ、ドコだ? ドコに居る?」


 ペドフィーレとあの子は二階か?


「オイ、お前! ペドフィーレ様のお屋敷で何をしてる?」


「見てわかんねーか? 剣を振り回してんだよ!」


 敵は1人、武器も持ってない…おれでもいける。


「喰らえ!」


「グッ…」


 そんなに傷は深くないから死にはしないだろう…人が集まってくる前に早くしないと…


「一体ドコだ…」


ラインside end


・・・・・・


「さて、屋敷には着いたが…」


―――屋敷の中が慌ただしい…どうやらラインが暴れまわってるみたいだな。


「さて、ラインとあのペドフィリアのクソ野郎をとっちめにいくか…」


 ヴィントも屋敷の中へと侵入していくと、気配を頼りに二階へと駆け出した。

 途中で遭った使用人は無視をするか気絶させて一直線にペドフィーレの部屋へと向かうヴィント。

 何人かラインに切られた使用人を見かけたが、命に別状はなさそうだった。


バンッ


 ヴィントは勢いに任せてドアを蹴り破ると、そこには切られた左肩の傷に右手を当ててる禿頭でぶくぶくと太った男が必死にドアまで逃げてこようと、床を這いずってる姿とトドメを刺そうとしている少年。

 そして…ベッドの上で震えている着衣の乱れた桃色の美しい髪の少女がいる光景だった。

 少女は整った美しい顔を恐怖で歪ませ、瞳には涙が溢れていた。


「誰だ、アンタ? この野郎の手下か?」


「心外だな…こんな奴の手下に思われるなんて…」


 ラインが濁った瞳でヴィントを睨みながら訊ねるとヴィントは両手を横にし、やれやれと首を振る。


「…関係無いなら邪魔するな、おれはコイツを殺す!」


 ラインはヴィントの態度に苛つきながらもペドフィーレに凶刃を振り下ろした。


ブンッ


「ヒィィィ」


 振り下ろされるラインの凶刃にペドフィーレは情けない叫び声を上げる。


ガキッン


「残念だけどお前の凶行もここまでだ。」


 しかし、その凶刃がペドフィーレに届くことはなかった…

 ヴィントはラインの振り下ろした剣とペドフィーレの間に先ほど購入した剣を割り込ませる。


「なんで邪魔をする!?」


「お前を人殺しなんて咎を背負わせたくないからだ…それに、血に汚れた手であの子をココから救えると思うか?」


「・・・」


「わかったなら剣を捨てろ。で、あの子のところへ行ってやれ。」


「ふん。」


 ガシャンと剣を投げ捨てたラインは踵を返して少女の元へと駆けて行く。


「可愛げのねーガキ…まぁいいや。さて、ペドフィーレ男爵。」


 ヴィントはラインから視線を下げ、未だに座り込んでいるペドフィーレを見下ろす。


「誰だか知らぬが儂を忌々しい餓鬼から救ってくれたことに感謝する。」


「別にアンタを救ったワケじゃないさ…」


「何じゃと…」


 最初は安堵感からかヴィントに感謝の意を覚えたペドフィーレもヴィントの言葉に顔を険しくする。


「あんまり領民を苦しめないことだな…いつか反乱が起きてアンタの悪政も滅びるぞ。」

「ふん、貴様みたいな若造に儂の素晴らしい政治の何がわかる。」


「これ以上目に余るようなら“帝国の若き懐刀”に動いてもらうか…」


 ヴィントの放った言葉に一瞬戸惑ったペドフィーレだが、すぐにハッタリと思い、言葉を返す。


「貴様みたいなどこの馬の骨かわからん者がそんな帝国の中心人物に相手にされるワケなかろう。」


「これを見て同じこと言えるか?」


 ヴィントはしゃがみ込んで胸元を引っ張り、左胸の龍のアザを見せる。

 すると、ペドフィーレは顔面蒼白になり、ヴィントの顔を怯えた目で見る。


「こんな田舎でも“龍の王子”と“帝国の若き懐刀”の仲は知ってるみたいだな。」


 ヴィントはペドフィーレのあからさまな態度の変化に冷笑を浮かべる。


「何故東の王子であるお前が北に…」


「それはお前には関係無い話だ。さて【アル・フェアゲッセン】(全ては忘れる)」


ブォン


「ぬぁ…」


ドサッ


 ヴィントに唱えた魔法によってペドフィーレは意識を失う。

 さらにヴィントは屋敷全体にまで魔法の効果を行き渡らせて、今回の出来事を屋敷の人間の記憶から消去した。


「これでひとまず解決、あとは…」


 ヴィントはラインと少女の元へと歩み寄ると、ラインは少女を庇うような位置に体を置き、疑惑の眼差しをヴィントに向ける。


「アンタ一体何者だ?」


「・・・」


「その説明はあとでしてやる。今は屋敷から出るぞ。」


 ラインの言葉に答えずヴィントは踵を返し、途中でラインの剣を拾い上げて部屋から出て行く。


「…行こう。」


「…(コクッ)」


 ラインと少女もひとまずヴィントの後をついていくことにした。


・・・・・・


「あ、おかえり…ヴィオ。」


「ただいま。」


「お、兄ちゃん。帰ってきたのかい。」


「はい、無事にラインも連れてきましたよ。」


「むーむー」


「(あわあわ)」


 途中で目的地を聞いたラインが逃亡を図ろうとしたが、ヴィントの魔法によって体の自由を奪われた状態での連行となった。


「ラインよぉ…どうして剣なんか盗んだ?」


「・・・」


パチン


 ヴィントの合図とともに猿轡が外れ、ラインに発言権が与えられた。


「・・・」


「だんまりじゃわからんだろ。」


「彼女を助ける為に…」


 ラインは桃色の髪の少女に視線を向ける。

「ほぅ…惚れた女を助ける為にペドフィーレの屋敷を襲撃したのか…」


「(カァ〜)」


 店主の言葉に少女の顔が赤くなる。


「そうだよ、悪ィかよ…」


 一瞬店主を睨んだラインだが、すぐに視線を下げる。


「いんや、なら剣を盗んだことは多目に見てやる。お前の男気とこの兄ちゃんの男気に免じてな。」


「え?」


「だから剣のことは勘弁してやる。」


シュッ


 店主はマッチを擦って火をつけ、タバコを吸い始める。

 店主の照れ隠しを見てヴィントとアプリルは顔を合わせて微笑む。


「そうだ、あなたの名前は何て言うの?」


「・・・(キョロキョロ)」


 少女はアプリルの言葉に視線をさまよわせる。


「どうしたの?」


「コイツ、喋れないみたいなんだ。」


「(コクッ)」


 アプリルの質問をラインが代わりに答え、少女も頭を頷かせる。


「それは生まれつき? それともさっきの恐怖からか?」


「(フルフル)」


 ヴィントの言葉に首を振る少女、頭の動きによって桃色の髪がフワッと広がった。


「あまり気は進まないけど…【デンケン・レーゼン】(思考読み)」


 ヴィントは少女の頭に手を乗せて魔法を唱える。


「?」


「悪いけど、思考を読ませてもらうよ…だから、自己紹介と…もし良かったら喋られなくなった理由も頭の中に思い描いてくれないか。」


「(コクッ)」


 少女は手を前で組み、目を瞑るのでアプリルは何か祈ってるみたいだなと思った。


「………名前はローザ、年は11歳、声は…言いたくないそうだ。(俺は知っちゃったけどな…)」


「そうか、ローザって言うのか…おれはライン、年はローザと同じ11歳だ。よろしくな!」


「(コクッ)」


 ラインが初めて見せる笑顔に少女も初めての笑顔で応える。


「で、ラインよぉ…これからどうすんだ? ペドフィーレの野郎に手を出したんだ、ただじゃ済まないぞ?」


「あぁ、それなら俺が今回のことは記憶消しといた。」


 その言葉に店主は顔をしかめてヴィントのことをまじまじと見る。


「一体何者なんだい兄ちゃん…この国じゃ珍しい魔法を使えるみたいだし…」


「悪いけど、それは言えない…」


「そうか…」


 ヴィントの強い意志を感じたのか、店主をあっさりと引いた。


「それとラインとローザは一旦俺が預かるよ。」


「「「「え?(え?)」」」」


 ヴィントの発言に全員が驚く。


「帝都にちょっとしたアテがあるんでね、そこで面倒見てもらうよ。」


「それ、私も初耳なんだけど…」


「おれの意見は?」


 アプリルとラインから非難の声が上がるがヴィントはそれを無視して話を進める。


「ローザは字を書けるか?」


「(コク)」


「なら筆談用の紙とペンを用意するか…とりあえず宿に戻るぞ。お世話になりました。」


 ヴィントはローザの頭から手を放し、武器屋の店主に挨拶をすると宿屋の方向へと足を向ける。


「あ…待ってよ、ヴィオ。メーヒも行くよ。」


「は〜い。」


 一足先に行ったヴィントを追いかけてアプリルとメートヒェンも後を追う。


「お前らも来いよ。」


 ヴィントの言葉にラインとローザはお互いの顔を見合わせる。


「行ってきな、ラインに嬢ちゃん。あの坊主ならお前らのことを大切にしてくれるさ。」


 二人が顔を合わせていると店主が背中を押した。


「悪い奴じゃないのはわかってる…ただ何を考えてるのかわかんなくて…」


「さてな…そういうのは直接聞くのが一番手っ取り早いさ。」


「そうだな…」


「さぁ、早くいったいった。お前らみたいなガキどもが店先にいたら商売上がったりだ。」


 店主は頭をボリボリ掻きながら店の中へと入っていった。


「商売ってもう夜じゃん…」


「(くすっ)」


 店主の下手くそな照れ隠しにラインがボソッとつっこむとローザが笑った。


「さて、行こうか? ローザ…」


「(コク)」


―――これからおれの…おれたちの世界はきっと変わる…そんな気がする。なんだ、世界もまだまだ捨てたモンじゃないな…


 少年と少女は手をしっかりと繋いでヴィントのあとを追いかけて行った。

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