表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/47

第三章:第十一話:研修二日目(4)

・・・更新遅くなって申し訳ないです。気合い入れて頑張って書き上げました。見捨てずに読んで下さってる読者の皆様、ありがとうございます。感想、評価お待ちしております。

 

第三章:第十一話:研修二日目(4)


・・・・・・


「わぁ…おっきなあながあいてる…」


 メートヒェンは地底深くまではあろうかという直径10メートルほどの巨大な穴を覗き込んでいる。


「う、うん…これは相当深そうだね…」


 カッツェも高いのを我慢しながら恐々と穴を覗き込む。


「ヴィオ先生はこの穴に落ちていったのかな?」


「うん、多分さっきのに巻き込まれていったんだろうね。」


 アオスラントとルーイヒの二人も巨大な穴を覗き込んで、ヴィントの安否を確認しようとしたが、穴は深くて底まで見る事は出来なかった。

 クノッヘン・アイデクセの姿もないのでヴィントと一緒に奈落の底まで落とされたのだろう。

 カッツェは唸ること十分以上、あーでもない、こーでもないと何かと葛藤していた。

 そんなことは露知らずにメートヒェンはアオスラントとルーイヒとお喋りをしていた。 

「………仕方ない、ボクとメーヒはヴィオを探しにこの穴をお、降りるから君たちは戻っててくれるかにゃ?」


 カッツェはしどろもどろになりながらも三人の方へ顔を向け、地上へ帰るように促す。


「えっ、けど、私たち道に迷ってここに来ちゃったから帰り道がわからないの…」


 アオスラントの言葉にカッツェは少し思案顔になる。


「………なら、ここで待ってて、結界張っとくから。」


 カッツェはそう言うと穴から少し離れた位置に結界を張り始めた。


「この結界は対魔物用の認識阻害の結界だから魔物達には認識されないようになってるからね…けど、ここから出て魔物に見つかったらこの中に戻っても効果無くなるから気をつけてね。」


 あと、大きな声とか出したりしたら自分達の存在を認識されるから、派手な行動はダメだよ、とカッツェは付け加える。


「ハ、ハイ…」


「よし、メーヒ逝こうか…」


 カッツェは声を震わせ涙目になりながら言う。


「うん♪」


 メートヒェンは明るく返事をすると穴へと小走りで向かう。

 走る去る少女とは対照的にカッツェは頭を垂れながらトボトボと歩く。

 穴に向かうその後ろ姿が二人にはどこか死刑台に向かう罪人のように見えた…


「ねぇ、メーヒ…ゆっくり降りようね?」


「えい♪」


「えっ?いっ、ニャャャァァァ〜〜〜〜〜〜」

 

「キャハハハァァァ〜〜〜♪」


 メートヒェンに抱かれたカッツェの言葉は彼女の耳には届かなかったようだ。合掌。

 カッツェは恐怖による悲鳴を上げ、メートヒェンは歓喜の声を上げ漆黒の髪を靡かせながら穴を落ちていった。

 一人の声と一匹の悲鳴が聞こえなくなると辺りは静寂が満ちた。


「「・・・・・・」」


・・・・・・


 アオスラントside


 メーヒちゃんとカッツェくん(?)は慌ただしく落ちていったけど…カッツェくん、さっき大きな声ダメって言ってたよね…

 なんか地鳴りみたいなものが近づいてるような…


「ねぇ、アオスラントさん…なんかこっちに向かう音がしない?」


「やっぱりルーイヒ君にも聞こえる?」


 私たちは頷き合うと同じ方向に目を向け、臨戦態勢に入る。


「勝てるかな?」


「多分、無理かな…僕たち二人とも攻撃専門じゃないし…」


 そうなんだよね…私たちは補助専門だし…というか、なんか気配が多いような…


「ねぇ…これ、私たちじゃなくても無理だよねっ、だってさっきの魔物の群れだよっ!?」


 私たちの目の前に現れた六体のクノッヘン・アイデクセ達がこちらを見据える。

 そして、十二の狂気を宿した青白く薄気味悪い眼が私たちを捉えた。


「どうしようか…ちょっとこれは先生達がいないと僕達じゃ太刀打ちできないね…」


 普段は柔和な笑みを浮かべていりルーイヒ君の頬を一筋の汗が垂れていく。

 目の前にはクノッヘン・アイデクセ…後ろには先生たちが落ちていった穴…

 ・・・・・・うん!


「私たちも穴から落ちよ、とりあえずここよりは安全じゃないかな?」


「…そうだね、けど、大丈夫?」


 ルーイヒ君が大丈夫と聞いているのはどうやって無事に降りるかってことだよね…

 二人ぐらいなら風に語りかければいけるかな…


「うん、大丈夫。」


「なら、逃げよう!」


 私たちは回れ右をしてクノッヘン・アイデクセ達から逃げ、穴に飛び込んだ。


 アオスラントside end


・・・・・・


 ヴィントside


「あっ、痛ぅ〜」


 魔法でカッツェの【絶え間なく続く百万の落雷】を防いだヴィントだったが、地面の落盤はどうにも出来なかった。

 それでも、結界を張り、落下時の衝撃もしっかりと防いでいる。


「チッ、あのクソ猫…後で三味線にしてやる…」


 ヴィントは結界を覆い尽くしている瓦礫を吹き飛ばして立ち上がり、照明の魔法を唱えて辺りを見回す。

 そして、ヴィントはここがただの縦穴ではなくどこかに通じていることに気づく。


「あっちに何かあるのか…?」


 ヴィントは洞窟の奥の方向から不思議な感じを受ける。


「とりあえず行ってみるか…」


・・・・・・


 ザッ


「此処、は…?」


 ヴィントが目にしたのは巨大な空間とその中央には澄んだ泉があり、その奥には圧倒的な存在感を放つ巨大な樹。

 この巨大な空間は地下深く、太陽の光が届く筈がない場所に位置するのに地上と変わらずに明るかった。


 …ーン…


「ん?」


 リーン…


「何の音だ?」


 リーン…リーン…


「あっちからか…?」


 ヴィントは音のする方向へ…樹の根元へと歩いて行った。

 そこは不思議な場所だった、空気は澄んでいるのにどこか薄ら寒く、泉の周りには数え切れない十字架が…いや、それどころか壁伝いに真上にまで360度全てに大量に突き刺さっていた…


「・・・・・・」


 泉の横を通り樹の根元まで来るとそこには巨大な封印の魔法陣が展開されていた。


 リーン


「この魔法陣の中心からか…?」


 魔法陣の中心には髪の長いミイラ…外見から女性のミイラが、教会のシスターが神に祈りを捧げるように跪き、何かボロ布を抱き締めている。

 そして、彼女の体にはいくつもの鎖が巻きついていた…

 ヴィントは少し躊躇ったが、魔法陣の中に足を踏み入れようと右足を上げ…


『それ以上近づくな、小僧。』


「っ!?」


ヒュゥゥゥ〜


ズンッ!


「なっ…」


 地響きを鳴らし大地に降り立つは地上最強種のドラゴン。


「ダークドラゴン…」


 全長12mほどのドラゴンとしては中型だか、二足歩行も可能なスマートな姿の暗黒色のドラゴン。

 全身を光を反さない漆黒の鱗に覆われ、紺碧の瞳を持つ恐ろしくも美しいその姿にヴィントは目を奪われる。


『何用だ、小僧?この地はこの世とあの世の狭間…生者には用無き場所…』


 重量のある音を響かせ、ヴィントを見下ろすダークドラゴン。


「お前は…?」


『フン、まあいい…この地を知ったからには生かせておかんがな…』


「くっ、話し通じてねぇ…」


『死に逝く者に名乗っても仕方なかろう?』 

 ダークドラゴンは口の端をニヤリと吊り上げ嘲笑う。


 ゾクッ


「っ!?」


ブゥォン


「グッ」


 ダークドラゴンの強靭な尾がヴィントに襲いかかった。


『…ふん、反応が良い小僧だ…』


 ヴィントはダークドラゴンの尾が当たる寸前に素早く剣を抜き、剣の腹で直撃を避ける。

 しかし、ダークドラゴンの放つ一撃の衝撃に耐えられずに勢い良く来た方向へと吹き飛ばさるるのだった。


 ドォォォン


「ウッ…」


 ヴィントは始めに通ってきた場所の真横に叩きつけられた。


―――ヤバイ…アイツ、ハンパない強さだ… 

【地上最強の種族、ドラゴン】

 獰猛な牙はあらゆるモノを噛み砕き、鋭い爪は大地を裂き、強靭な尾は山を削る…

 故にドラゴンの肉体は全て最高級の薬や武具の材料になる。

 だが、下位のドラゴンでも並レベルの冒険者のパーティーではとてもではないが歯が立たない

 熟練したパーティーでやっと互角に闘えるだろうというレベルなのだ。

 その中でもさらに気高きダークドラゴンの強さは相当のものだ。


「クソ、ホントに今日は何なんだよ、一体…」


 ヴィントの口から切実な想いが吐き出されるのだった。


「わぁ〜ひろい〜」


「ハァハア、死ぬかと思ったよ…」


 タイミングを見計らったかのようにメートヒェンとカッツェがヴィントの真横の洞窟から出て来た。


「お前ら…」


「あれ、パパ?」


「ハァハア…ヴィオ、君何してるのさ?」


「どうも、お前のお陰で踏んだり蹴ったりだ…」


 ヴィントは壁から出て来て、メートヒェンとカッツェのもとへと近寄る。


「パパ〜」


メートヒェンがヴィントの足元に嬉しそうに抱きつく。


「わ、悪かったよ…それで一体どうしたのさ?」


「ふん、とりあえずあれを見ろ…」


「えっ?」


 カッツェはヴィントの見やる方向へと顔を向けるとそこにはダークドラゴンの姿…


「ハ?ドラゴン?」


 メートヒェンとカッツェの姿を捉えたダークドラゴンは翼を広げ、ヴィント達の眼前へと飛んで来た。


「わっ、おっきいの…」


 メートヒェンがダークドラゴンを見て感嘆の声を上げた。


『ほぅ、今日は珍しいな…良く客が来る…』 

 そして、ダークドラゴンは灼熱の炎を吐いてきた。


ブォォォ


「いきなりっ!?」


「チッ」


「きゃあ〜♪」


 突然の容赦ない攻撃にカッツェは驚きながら、ヴィントはメートヒェンを抱いて灼熱の炎から逃げる、一人楽しそうな声を上げてるが…


「ヴィオ、ホントに、君は一体何をしたのさっ!?」


「何もしてねぇよっ!」


「キャハハハ〜」


 ダークドラゴンの猛攻を避け続けるヴィント達だが、どこか緊張感に欠けるのはやはりメートヒェンの笑い声だろう…


「何か樹の根元にある魔法陣に近づいたら攻撃されたんだが…」


「いや、それでしょ…原因…」


 ヴィントは魔法陣の中心のミイラとダークドラゴンの発した言葉も一緒に伝えると、カッツェは溜め息を吐いて、原因の魔法陣の方を見る。


―――あれ…あの世とこの世の狭間…女性のミイラは知らないけど…泉に大樹…そして、ダークドラゴン…もしかして…


「あなたは、もしやニーズヘッグ?」


『ほぅ…我の名を知る者がいようとは思わなかったぞ…』


 ダークドラゴン…ニーズヘッグは感嘆の声を上げ、カッツェのことを面白そうに見る。


「最悪だ…ならここはニヴルヘイム…泉はフヴェルゲルミルで樹は世界樹ユグドラシル…」


「ほぅ…貴様は良く知っているな…なら我の異名はしっておるだろう?」


 ニーズヘッグは嘲笑い、ヴィント達のことを空中から見下す。


「………『嘲笑する虐殺者』」


「そうだ。そして、さらばだ小さき賢者よ…」


 ニーズヘッグは愉しそうに攻撃を繰り返してくる。

 その猛攻にヴィント達は反撃のタイミングを掴めずに逃げ回り、世界樹ユグドラシルの根元へ…


『チッ、そっちは…』


 ニーズヘッグは小さく呟く。


「?」


「どうした、メーヒ?」


「なんだかね、あっちにいってほしくないみたいなの。」


「ほぅ、あの世界樹に何かあるのか…」


―――またはあのミイラの持つ布に包まれた何かか…多分後者だろうな…そして、形からしてあれは剣か…? まぁ、鬼が出るか蛇が出るか…封印を解けばわかるか…


 ヴィントは、これ以上状況が悪化するかもしれないと言うのに、ニヤリと口の端を吊り上げる。

 すでにヴィントの中では『毒を食らわば皿まで』的な考えで行動している。

 人はそれを諦めの境地と言う…


 ヴィントside end


・・・・・・


アオスラント side


「キャァァァ〜」


「うわぁぁぁ〜」


 ドンッ


「イタタタ…」「…大丈夫?アオスラントさん…」


「うん、なんとか…」


 うぅ…この穴ってこんなに深かったんだ……でも良かった、風の力が切れるのが底に着く手前まで持って…


「良かった…怪我はしてないみたいだね。」


「ごめんなさい、私のせいで…」


 大丈夫って言ったのに、落ちちゃった…ダメだなぁ、私…


「ううん、気にしないで…どっちにしろ上も危険だったんだ…むしろたいした怪我もなく逃げられたんだ、ありがとう。」


 ルーイヒ君はそう言って優しく微笑んでくれる………


「あ、ううん…どういたしまして?」


「フフッ、そろそろ先生達を探そうか…魔物達がここに来ないとも限らないしね。」


「あ、うん…そうだね、メーヒちゃん達もここにいないからあっちの方かな…」


 私達の落ちてきたここは、どうやらどこかに通じているみたいだ…


「多分ね、それじゃぁ行こうか、アオスラントさん。」


「うん。」


 私達は先生とメーヒちゃん達を探しに洞窟の奥へと進んで行った。


・・・・・・


「ここは…?」


 そこは不思議な空間だった…

 なんでこんな空洞がとか真ん中の泉も気になるけど…特に異彩を放ってるのがとても大きな樹だ…


「あっちの方が騒がしいみたいだね…先生達かな?」


 私が樹に意識を集中している間にルーイヒ君は先生達を見つけたみたいだ…


「え、どこ?」


「樹の根元の辺りだよ…でも、何かと戦ってるみたいだ…」


 ルーイヒ君の言う通りで、樹の根元で先生達は黒い何かと戦ってるみたいだ…


「どうしようか?ルーイヒ君…」


「う〜ん、僕達が言っても足手まといになるだけだろうし…」


「そうだよね…」


 私達じゃ役に立てなさそうだし…


 バンッ


「「え?」」


 私達がどうしようかと考えていると、何かが頭上の壁に激突したみたいだ…


「って、カッツェ君!?」


「わっ、あ、ととっ…」


 カッツェ君は壁から瓦礫とともに落ちてきて、ルーイヒ君がキャッチする。

 ぐったりしていて意識がない…


「ルーイヒ君っ!!」


「うん、わかってる!」


 ルーイヒ君はすぐにカッツェ君に回復の魔法を唱えた。


「…ん、………あれ、君達どうしてここに?」


「えぇ〜と、それは…」


 私はカッツェ君に事の顛末を伝えた。


「うっ…ゴメン…」


「い、いえ…僕達は大丈夫だったんですけど…ヴィオ先生とメーヒちゃんは?」


「っ!?そうだった!」


 カッツェ君はガバッと起き上がって樹の根元の方を見る。


「あの黒いのって何ですか?」


「………アイツはニーズヘッグ、ダークドラゴンだよ…」


「「!?」」


 私とルーイヒ君もカッツェ君の口から発せられた言葉に衝撃を隠せなかった。

 ドラゴンといったら地上最強の生物で人間の手に負えない気高い種族だ…

 私達人間の中で一番有名な魔物なのに、一生の間に遭うことはまずないと言うほどの幻の魔物が今この場所にいる…


「早く戻らないと…」


 カッツェ君はそう呟くと私達の方へ振り向く。


「君達は隠れてて…アイツは、チッ…」


「どうしたの?」


「アイツ、君達のこと気づいてる…」


「えぇっ、それって…」


 ヤバいんじゃ…


「拙いね…ボクもあんまり魔力残ってないし…ヴィオも結構ダメージを受けてるし………ねぇ、君達に頼みたいことがあるんだけど…イケる?」


 カッツェ君は私達の目を正面から見据えた。


 アオスラントside end


・・・・・・


 ヴィントside


―――ハァ、ハァ…カッツェは大丈夫か?モロに直撃してたけど…


『どうやら、さらにネズミが迷い込んで来たようだな…』


 ヴィントが思考しながらニーズヘッグの攻撃を避けていると、ニーズヘッグは一時攻撃を止め、カッツェの飛ばされた方に視線を向ける。

 ヴィントもニーズヘッグの視線の先を目を凝らして見る。


「あっ、アオおねえちゃんとルーイおにいちゃんだ♪」


 ヴィントに抱えられたメートヒェンが嬉しそうに笑った。


「アイツ等か…とりあえずあっちはカッツェがいれば大丈夫だろ…」


―――問題はコイツだよな…剣はぶっ壊されたし…まぁ、効かなかっただろうけど………後は、魔法か…けど、ドラゴンって魔法抵抗力も尋常じゃないからなぁ…なら…


「メーヒ、あれイケるか?」


 ヴィントは小声でメートヒェンに何かを話しかける。


「うん、だいじょうぶだよ、パパ。」


『何をコソコソと話しておるのだ?』


 ニーズヘッグは不愉快そうに言うと再び攻撃体制に入ろうとした。


「メーヒ、頼む!」


「りょ〜かいなの♪」


 ヴィントはメートヒェンを勢い良く上に投げる。


『むっ…』


 途中からは自分の能力で浮かび、ニーズヘッグよりも高くで止まると腕を振り上げ


「えい、【ヴューテント・クヴィンテット】(怒り狂った五重奏)」


 可愛い声と共に振り下げられた腕から発する魔力は凶悪なまでの威力を孕んだ衝撃波の奔流と化す。


『なっ!?』


 ブォンッ、ズザザザッ


 メートヒェンの放った衝撃波はニーズヘッグの四方と上空から襲いかかり、その圧倒的で容赦のない力の奔流をニーズヘッグに叩き込んだ。


「流石は対巨獣迎撃用の威力…正に圧巻だな…」


 ちなみに愉快な二重奏は対静止物破砕用で威力はそこそこあるがスピードが遅く、動きも直線とあまり実戦向きではない技である。 

「パパ〜やったなの♪」


 メートヒェンは空中からヴィントに向かって手をぶんぶんと千切れんばかりに振る。


「あぁ、良くやっ『グォォォ〜』はっ?」


『よくもやってくれたな、餓鬼共』


 ニーズヘッグは土煙の中から舞い上がり、怒りの咆哮をあげ、恨めしくヴィント達を睨みつける。


「はぁ…あれでもダメなのかよ…」


 ブォン


「きゃっ」


「メーヒ!?」


 ニーズヘッグの尾が音を切ってメートヒェンへと襲いかかった。


「メーヒ、大丈夫か!!」


「わゎ…、あぶなかったの…」


 メートヒェンは不可視の壁を尾が当たる寸前で展開し、直撃を防いだのである。


『チッ、忌々しい餓鬼共め…ならば…』


 怒り心頭のニーズヘッグから魔力の高ぶりを感じたヴィントは焦る。

 ニーズヘッグの口に灯る白色に込められる魔力の異常な量は街一つを壊滅させられる程の威力があるからだ。


「拙い…」


―――多分、俺の魔法で防ぐとか、メーヒの不可視の壁で防いだとしても…死ね…


 ヴィントの予想通り、ニーズヘッグが繰り出そうとしているのは…全てを焼き尽くす真の炎、しかし、その炎は今まで吐いてきた灼熱の炎とは比べものにならない…先ほどの炎は赤い炎だったが、今回の炎は摂氏6000度を超えた白色の炎になるだろう。

 直撃を防いだとしても避けたとしても、その炎によって跳ね上がった熱に、生物は耐えることが出来ずに死ぬことになる。

 そんな炎を現存するドラゴンにも果たして白色の炎を吐けるかどうか…ニーズヘッグは間違いなくドラゴンの中でも最強に位置するだろう。


『終わりだ…』


 ニーズヘッグが全てを焼き尽くさんとして、炎を吐こうと…


「【エーフェイ】(ツタよ)、【ゲーグナー】(敵を)、【グライフェン】(捕まえて…)」


 …出来なかった…


 『!?』


「流石は世界樹のツタ…彼のニーズヘッグもこの有り様か…」


「カッツェ!? それにアオにルーイヒも…」


 ニーズヘッグを捕らえるは世界樹に絡まるツタ、しかし、そんじょそこらのツタとはワケが違うと言わんばかりの巨大なツタがニーズヘッグの体を締め上げる。


『グゥ…ガハッ……餓鬼の…分…際で…』


「ヴィオ先生やメーヒちゃん、カッツェ君を傷つけて…あなたを許さない。」


『グァァァ…ガッ…』


 アオスラントの怒りに応えるようにツタもニーズヘッグをさらにキツく締め上げる。


「アオ、助けてくれてサンキューな。」


「いえ、でも…どうしましょう? ヴィオ先生。」


 アオスラントの言葉にヴィントもカッツェ悩む。


「これは、参ったね…」


 現状のボクらじゃ決定打不足だね、とカッツェは呟く。

 アオスラントの力ではニーズヘッグを殺すことは出来ない…また、カッツェもヴィントもニーズヘッグを殺すだけの魔力もなく、ルーイヒも攻撃手段がない、メートヒェンの能力を人前で使うことも出来ない。


 リーン…


「……またか…」


「? どうしたの、ヴィオ?」


「ん? お前には聴こえないのか?」


「何のこと?」


 メーヒ、君には聴こえる?とカッツェが訊ねるがメートヒェンは首を横に振る。


―――2人にはこの音が聴こえてないのか…さっきから思ってたが…これは俺を呼んでる?


「呼ばれてるなら行くしかないよな…」


「本当にどうしたのさ、ヴィオ?」


「カッツェ、お前はアレから目を離すなよ、俺はあの封印を解く!」


「えぇっ!?」


「? 封印…ですか?」


 ルーイヒは何の封印かわからず不思議そうにヴィントに訊ねる。


「ん、あぁ、あれのな…」


 ヴィントは視線を魔法陣の中心に封印されているミイラに向け、ルーイヒもその視線を追う。


「カッツェ、後は任せた!!」


「しょうがないなぁ…」


「今度マタタビやるから」


 カッツェにそう言い残すとヴィントは封印を解くために魔法陣へと駆けて行く。


「いらないよっ!! 君、ボクのことからかってるの?」


 ヴィントの言葉にカッツェは文句を言うがヴィントには届かない。


「ねぇ、ボク、ヴィオとの接し方を考え直そうと思うんだけど…」


「それは僕に言われてもちょっと…」


「きゃぁっ!?」


「「っ!?」」


「ツタが…もう……ダメ…」


『グゥ…舐めるなよ…餓鬼共…世界樹の力を……借りようとも、我を抑えきれるものかっ、グォォォォォォォ』


 メキメキッ、メキッ


 ブチッ、ブチブチブチッ


 ブチッ


 『グォォォォォォォォォォォォォォォ』


 ニーズヘッグの咆哮とともにツタは引きちぎられた。


「アオスラントさん、下がって!」


「う、うん…」


アオスラントはすぐに下がると変わりにカッツェがみんなの前に出る。


「チッ、魔力があんまり無いってのに…【ファントーム・ネーベル】(幻の霧)」


 カッツェは残り少ない魔力を込め、ニーズヘッグと自分達の周りに霧を立ち込めさせる。


『フンッ、この程度…』


 ブォンッ


 ニーズヘッグは巨大な翼で風を起こし霧を吹き飛ばそうとする…が、カッツェは素早くメートヒェンの傍まで行き話しかける。


「メーヒ、霧が晴れる前に頼む。」


「はぁ〜い♪」


 ブンッ


『ガハッ!?』


 メートヒェンが放った衝撃波が霧で視界を奪われているニーズヘッグに襲いかかった。

 カッツェの発動させたこの幻の霧は視界や音などを惑わす効果があり、ニーズヘッグへは効果でなく視界を奪うためだけに、アオスラントとルーイヒの二人にメートヒェンの攻撃を悟られないように、の二つの意味での魔法の発動である。


「え、え? 何?」


「わからない…」


『舐めるなよ…餓鬼共』


 ブォンッ


「やっぱりダメか…」


 ニーズヘッグの起こす風によって霧は霧散する。


『お前等…あの世に普通に逝けると思うなよ、無間地獄を味あわせてやる…』 メートヒェンの攻撃を受け、ツタに縛られたニーズヘッグは満身創痍だが、その体から発せられる憤怒は周囲の空気を震わせる。


「クッ、ここまでか…」


『では、終わることの無い永遠の苦しみを…


 ニーズヘッグの彼らを無間地獄へと落とす口上は…


「“灼熱に燃える天空”」


 洞窟内を全て燃やし尽くすのではと思わせる程の炎が遮った。


『グァッ、この炎は…まさか…』


「よぉ、待たせたな…」


 紅蓮に染まる剣を携え


「ハァハァ、遅いよ…ヴィオ…」


 不敵な笑みを浮かべ


「パパァ〜」


 威風堂々と歩いてくる姿は


「「ヴィオ先生…」」


 まさに


『封印を解いたのかッ!?』


 神の血を引く者


「さぁ…行くぞ、“レーヴァティン”」

名前の由来ですが、北欧神話に出てくるモノですね。これからもちょいちょいと出てくる予定です。最終話までの大筋は頭の中にあるんで、未完結ってのはしたくないので、頑張ります。あと二話ぐらいで第三章は終わりの予定で、第四章に入るつもりです。では次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ