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第三章:第九話:研修二日目(2)

評価・感想お待ちしております。

 

第三章:第八話:研修二日目(2)

 

・・・・・・

 

 ほんの一時間程眠りに就いてた二人はカッツェに起こされ、ネーベル谷を見渡せる崖の上に立っていた。

 ヴィントは崖から1m程離れた位置から崖を見下ろし、メートヒェンは崖の淵に手をついて興味津々に下を覗き込む。

 

「本当に真っ白だな…」

 

「なんでくもがしたにあるの?」

 

「違うよメーヒ、あれは霧って言って雲じゃないんだ。」

 

「へぇ〜?」

 

 メートヒェンに霧という事を教えるカッツェだが、よくわかってないメートヒェンだった。

 そんなカッツェの立ち位置はヴィントの一歩後ろだ。

 その姿を見てヴィントがカッツェに突っ込みをいれる。

 

「どうして俺のとこにいんだよ、メーヒのとこに行けよ、あれか、お前高いところ苦手なのか?」

 

「…あんまり好きじゃない…」

 

「そうか、なら…」

 

 悪戯魂に火がついたヴィントはカッツェの首の後ろを掴むと崖の淵まで連れて行く。

 

「にゃ、にゃにをするっ?」

 

「さぁ、なんでしょう?」

 

 一人と一匹が(片方は必死)ふざけていると、メートヒェンも立ち上がって一緒に遊ぼうとする。

 

「メーヒもカッツェとあそびたい〜」

 

 両手を上げ、黒い髪を跳ねさせながらピョンピョンと跳ぶ。

 ボクは遊びたくないっ、と猫掴みされているカッツェの主張はこの父娘に黙殺された。

 メートヒェンの真紅の瞳からは構って光線がヴィントに発せられ続ける。

 無意識にチャームを発動させるメートヒェンだが、ヴィントには効かない。

 もしこれがアプリルなら一瞬でメートヒェンの魅惑に落ちただろう。

 リルにメーヒのチャーム対策かなんかの魔法具を渡さないとな、とヴィントは苦笑しながら考える。

 

「わかったわかった、危ないからこんなところで飛び跳ねるなって…」

 

「は〜い、あっ?」

 

 グラッと体制を崩し、メートヒェンが崖から落ちていく。

 

ヒュ〜

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「メーヒ〜」

 

 ヴィントもメートヒェンを追いかけて崖から飛び下りる。

 

「ニィヤァァァァ〜〜〜〜〜」

 

 ネーベル谷に一匹の黒猫の絶叫が響き渡る。

 

「五月蝿いぞ、カッツェ。」

 

「五月蝿いって、ボク達まで落ちて、ど、どうするのさっ」

 

「メーヒを空中で捕まえて風使って着地するっ」

 

「い、良い案だけど、君、一つ忘れてない?」

 

「何をっ?」

 

「メーヒ、もう浮遊術使えるよね。」

 

「………あっ」

 

 ヴィントが下に目を向けるとちょうど霧の上に浮かんで水を掬うように遊ぶメートヒェンの姿があった。

 しっかりと修行の成果が出ていて、バッチリと浮遊術を使っている。

 メートヒェンは上からヴィントが落ちて来るのに気付くと笑顔で手を振る。

 

「あっ、パパ〜」

 

「メーヒ…先に下行ってるから…」

 

「?、は〜い?」

 

 ヴィント達は深い霧に頭を突っ込んでいった。

 

・・・・・・

 

「ハァ…死ぬかと思ったよ…」

 

「悪かったって。」

 

「メーヒはねっ、ビュ〜ンっておちるのたのしかったっ♪」

 

 手を上から下に笑顔で振り下ろしながら楽しそうに言う。

 

「それは良かったね、ボクはもうゴメンだよ…」

 

「そんなに苦手なのか?」

 

「ある程度の高さは大丈夫だけど、あんなに高いところは無理。」

 

 せいぜい30mまでだね、とカッツェはメートヒェンの頭に登って呟いた。

 

「それにしても、この霧うざったいなぁ…」

 

「風で吹き飛ばしてみる?」

 

 視界が0の谷底にヴィントが嫌そうに文句を言い、カッツェが魔法を発動しようと魔力を高める。

 

「そうするかね…」

 

「ん、わかった。」

 

 カッツェが魔法を発動させると視界を遮る霧が霧散し、ある程度先まで見通せるようになった。

 

「服が肌に張り付いて気持ち悪ィ…」

 

「そのぐらいは我慢しなよ、って落ちるよっ、メーヒ。」

 

 辺りをキョロキョロと興味津々に見渡すメートヒェンに、頭の上のカッツェが悲鳴を上げる。

 

「あっ、ごめんね…カッツェ。」

 

 シュンと肩を落としてすまなさそうにメートヒェンが下を向く。

 

「ううん、もう大丈夫だから気を落とさないで…って、ひ、ヒゲは引っ張らないで…って何するんだよっ、ヴィオ!」

 

 いや、何となくメーヒが可哀想だったからつい…、とヴィントがのたまう。

 

「成る程、君はボクの事は可哀想じゃないって言う訳ね…」

 

 カッツェがふぅ〜、と息を吐いて遠くを見る。

 

「あれ?」

 

「ん、どうした?」

 

「なんかいるよ、あっちに…」

 

 ヴィントがカッツェの目線の先を辿ると確かに何かがそこにあった。

 メートヒェンも背伸びをして手をかざしている。

 

「木…か?」

 

「えっとね、きとひとがふたりいるよ!」

 

 メートヒェンがヴィントの方を見て嬉しそうに報告する。

 

「良く見えるな…多分生徒だろ、きっと。」

 

 ヴィントはカッツェをメートヒェンの頭から自分の頭に乗せ、メートヒェンの頭を優しく撫でる。

 メートヒェンは気持ち良さそうに目を細め、自分の頭をヴィントに差し出す。

 

「お前って、猫みたいだな…」

 

「にゃ〜ん♪」

 

 嬉しそうに猫の鳴き声を真似し、身を捩らせるメートヒェン。

 

「ほのぼのしてるとこ悪いけどさ、あそこの人間って君の生徒なんでしょ?」

 

 カッツェがヴィントの頭から飛び降りて言うと、ヴィントはメートヒェンの頭を撫でるのを止める。

 すると、カッツェにメートヒェンからの恨めしい視線が送られるが、その姿は可愛らしく、全然怖くなかった。

 

「ム〜」

 

「ホラ、唸ってないで行くぞ。」

 

「・・・ハ〜イ…」

 

「いや、ボクが悪いの?」

 

 理不尽だ…、と言うカッツェの嘆きは手を繋いで歩いていく父娘に再び黙殺された。

 

・・・・・・

 

 二人と一匹がその場に着くとそこには木のツタに絡めとられたラオトとエルンストの二人がいた。

 

「あちゃー、メンシュ・エッセン・ミステルに捕まってるね。」

 

「それはまた…長ったらしい名前だ事で…初めて見る奴だな。」

 

「メンシュ・エッセン・ミステル(人喰らいの宿り木)、人間に幻を見せて自分の下へ誘い込み、人間の養分を糧に生きる植物系の魔物だよ。」

 

 早く助けてあげないと骨になっちゃうよ、とカッツェが洒落にならない事をヴィントに言う。

 

「まぁ、二人とも攻撃系魔法専門だからな、アオとルーイヒの補助系魔法の使い手と離れたら幻とかには弱いだろうし、仕様がないか…」

 

 ヴィントとカッツェが暢気に話しているとメートヒェンが首を傾げて尋ねる。

 

「パパ、たすけてあげないの?」

 

「「あっ」」

 

 声を揃えて思い出す一人と一匹。

 

「とりあえず燃やしとく?」

 

「いや、燃やしたら二人も危ないから俺に任せろ。」

 

 魔力を高めるカッツェに一言言うと剣を抜いて剣に魔力を籠める。

 

「【ゲーグナー・アオフヘーレン・フラメ・ガイステス・ブリッツ】(敵絶つ炎の閃き)」

 

「ヒュ〜」

 

 剣の軌跡に炎が爆ぜ、メンシュ・エッセン・ミステルを真っ二つに絶ち斬る。

 

「さて、大丈夫か?二人とも。」

 

 ヴィント達は二人の体に絡みついたツタを引き剥がして二人の介抱をする。

 

「ん、うぅ…」

 

「くっ、ん…あれ?」

 

 ヴィントがエルンストを介抱し、メートヒェンとカッツェがラオトを介抱する。

 エルンストの方はまだ目を覚まさないが、ラオトはメートヒェンがずっと揺すり続けたからかうっすらと目を開け、意識を取り戻した。

 

「パパ、め〜さましたよ!」

 

「わかった、メーヒ、こっち頼む。」

 

「は〜い。」

 

 メートヒェンと入れ替わり、ヴィントはラオトに話しかける。

 

「よお、気がついたか?」

 

「何で…アンタが、ここにいるんだよ…」

 

 体を苦しげに起こしてラオトはヴィントに悪態をつく。

 

「見回りだ、アオとルーイヒはどうした?一緒じゃないのか?」

 

 ヴィントは頭を上げて辺りを見渡し、二人の事をラオトに尋ねる。

 その途中に視界の端でメートヒェンに起こされたエルンストをヴィントは確認した。

 

「この霧でいつもまにかはぐれちまったよ…」

 

「成る程な…アイツ等は無事だと良いが…面倒くさいけど、探して確認しないとな…」

 

「けど、この子達はどうするのさ?」

 

「え、猫が喋った!?」

 

「オイ…」

 

「あ〜ごめんごめん」

 

「コイツはメーヒの召喚獣・・・だ。」

 

 召喚獣とは人間でも魔物と契約する事で使役できる、実際にヴェステン魔法学院にも何人かは召喚士がいる。

 ただ使い魔と言うのは、魔族などが魔物と契約して己に隷属させる事であって、ヴィントはラオトに使い魔ではなく召喚獣と言う説明をする。

 

「崖の上にある救護所に連れて行くかぁ…」

 

「体力も魔力も消費してるみたいだし、その方が良いかもよ。」

 

「けど、どうすっかな…」

 

 ヴィントは崖の上を見上げるが霧が邪魔して見ることが出来ない。

 

「ボクが転移魔法で崖の上に送ろうか?」

 

「出来るの「おいおい、オレの主張とかは無視かよ?」

 

「「?」」

 

「いや、何言ってんのみたいな顔されても…」

 

「メーヒ〜、エルンスト連れて来い。」

 

「は〜い♪」

 

「何ですか、ヴィオ先生?」

 

 メートヒェンに引っ張られてきたエルンストが尋ねると、ヴィントは先程ラオトにも言った事を再び言う。

 

「あぁ、お前らには救護所に行ってもらおうと思ってな。」

 

「なっ!?」

 

「よろしく、カッツェ」

 

「あいよ。」

 

 まだしっかりと理解出来てない二人の足下に複雑な幾何学模様の魔法陣が刻まれる。

 

「え、ちょっと、ヴィオ先せ…」

 

 エルンストが何か喚いていたが、二人は光に包まれて消えていった。

 

「ん、ちゃんと崖の上に送っておいたよ。」

 

「ありがとよ…さて、アオとルーイヒの安否を確認に行くか。」

 

 メートヒェンの手を取って北の洞窟の方向目指して歩き出すヴィントだった。


 

・・・・・・

 

 ヴィント達が洞窟を見つけると、洞窟の入り口に魔物達が群がっていた。

 

「うわ〜」

 

「わ〜」

 

「何か壁みたいなのに阻まれて洞窟に行けないみたいだな。」

 

「いっぱいいるね〜」

 

「とりあえず蹴散らしますか…【フィール・フラース・シュランゲ】(大食らいの蛇)」

 

 ヴィントの口から唱えられた魔法は、昨日エルンストが使った魔法と同じだったが、それは彼女との威力は段違いだった。

 大量にいた魔物達は余すことなく全て大地に飲み込まれていった。

 ヴィント達は壁の前まで来ると、壁を下から見上げる。

 洞窟の高さは12m程あり壁も10m以上ある。

 

「かべはメーヒがこわすね♪【ルスティヒ・ドゥーオ】(愉快な二重奏)」

 

手のひらを壁に翳し、覚え立ての父の技を勢い良く発動するメートヒェン。

不可視の衝撃波が二つ、空気を震わして壁に迫る。

 

ドォォォン

 

壁に二つの風穴が空くとそこから亀裂が走り、ガラガラと音を立てて壁を崩落させる。

 

「エヘヘヘ…すごい?」

 

「ご苦労さん、ありがとな。」

 

 ポンポンとメートヒェンの頭を叩き、瓦礫を越えていくヴィント。

 その後をヒョイヒョイと瓦礫の山を身軽に越えていくカッツェ。

 その後ろ姿を見て我に帰り、飛んで追いかけるメートヒェンだった。

 

「パパ、カッツェ、まってよぉ〜」

 



 今回の登場人物は、魔物のメンシュ・エッセン・ミステルですが、由来はもう作中に書いてありますね…

 今回、初めてメーヒの技の名前が出てきました。メーヒの技は音楽関係の名前で統一しようと思ってます。

 次回もよろしくお願いします。


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