第三章:第八話:研修二日目(1)
二日目は長くなりそうです。
評価、感想お待ちしております。
第三章:第八話:研修二日目(1)
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アオスラントside
「さてと…みんなを起こさないと…」
私の見張りの順番は一番最後だったので、明け方には起きていた。
私は朝食にと池にいた魚を捕まえて、朝ご飯のメニューに加える。
「ん…朝か…いい匂いだな…」
「あっ、お早う、ラオト君!」
「あぁ、お早う。」
「私、エルンストさんを起こすからラオト君はルーイヒ君をお願い。」
「りょ〜かい、ルーイ、朝だぞ〜」
ラオト君はルーイヒ君のところへ行くと、彼を揺すり起こそうとする。
私もエルンストさんを起こさないと…
「エルンストさん、朝ですよ…」
「ん、アオスラントさん…?」
「はい、朝ご飯の準備が出来てますよ、起きて下さい。」
「…わかった、わ…」
エルンストさんはムクッと起きると顔を洗いに水辺に行った。
「ほら、サッサと起きろ!」
「ん〜」
「ったく、アオが飯作って待ってんだ、サッサと起きろよ!」
ルーイヒ君はラオト君の声に驚いたのかすぐに体を起こした。
ルーイヒ君は朝が弱いのかなかなか起きないようだ…ルーイヒ君って完璧な人ってイメージがあったけど、こんな弱点があったんだ…
「お早う、ラオト…」
「あぁ、お早うさん、顔洗いに行こうぜ…」
何故かラオト君はニヤニヤとしていて、ルーイヒ君は少しムッとした顔をしている、ルーイヒ君って寝起きが悪いのかな…
「わかったよ…」
みんなが焚き火を囲む頃には、ちょうど良く焼き魚が焼き上がった。
後はみんなそれぞれパンとジャムを用意して朝食の出来上がりだ。
みんなでいただきますを唱和し、今日の行動などを確認しあいながら食事は進んでいった。
「ふぅ…ごっそさん、焼き魚サンキューな、アオ。」
「どういたしまして、朝ご飯はしっかりと取らないとね!」
「そうね、じゃないと一日をしっかり過ごせないものね。」
「うん、焼き魚をありがとう、美味しかったよ、アオスラントさん。」
「えへへ…」
私はみんなに満足してもらえたようで嬉しかった。
朝食を終えた私達は森を抜け、ネーベル谷へ下りる道を目指す。
アオスラントside end
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ヴィントside
ヴィント達一行もすでに朝食を終え、今は紅茶を啜っている。
「なぁ、カッツェ…」
「何、ヴィオ?」
ヴィントはカップから口を離してカッツェに話し掛ける。
カッツェもメートヒェンの膝の上からヴィントに応える。
メートヒェンは火傷しないように紅茶のカップを両手で持ち、ふぅーふぅーと冷ましながらチビチビと飲んでいる。
「お前ってどんな魔法を扱えるんだ?」
「ん〜、光以外なら大体は…特殊系だと精神干渉が得意かな…勿論、詠唱破棄出来るよ。」
「成る程、二百年の歳月は伊達じゃないな…」
「君だって詠唱破棄してるじゃないか…ったく、血ってのはズルいね…君はどんな魔法を使うのさ?」
「俺は全属性いけるぞ、特殊系も時空間干渉に精神干渉、効果無効系などなど…」
「ほとんど反則じゃないか…それ。」
「そうだな、俺の血の半分は劣化しているとは言え、神の血だしな…最近じゃ神語魔法まで使えるようになったよ、まだ完全に使いこなせないけど。」
「きっと君一人で一つの街を滅ぼせるよ…」
「かもな…そんなことしないけど。」
「メーヒは?」
カッツェの興味が自分と契約した主人のメートヒェンに向く。
「ん〜?」
今まで熱い紅茶と格闘していたメートヒェンはカップから口を離して膝の上のカッツェを覗く。
「メーヒは衝撃波以外に何が出来るの?」
「えぇ〜と…たしか、『不可視の壁』っやつ。」
「まだ浮遊術と空間転移にチャームは出来ないのか…うん、ボクがメーヒに吸血鬼の能力を教えてあげるよ。」
カッツェはメートヒェンの膝からテーブルに上り少し誇らしげに言う。
「出来るのか?」
「まあね〜」
「けど浮遊術って…吸血鬼って羽根で飛ぶんじゃないのか?」
現にこの国で出くわした吸血鬼は羽根を広げていた。
「チッチッチッ、羽根を使う吸血鬼なんて三流さ、一流なら浮遊術で空を翔けるものさ。」
その方がいろいろと便利だからね、とカッツェは言う。
「あと、ファーター様の技も教えてあげるよ。」
「パパの?」
メートヒェンは頭にハテナを浮かべながら首を傾げる、メートヒェンは実父のファーターとの面識が無く、あまり実感が湧かないのだ。
「うん、ねぇ、ヴィオ。」
「なんだ?」
「時空間干渉出来るなら何か良い魔法って無い?」
ヴィントは少し考えて答える。
「まぁ、あるにはあるけど…」
「よし、メーヒ、早速やろう!」
「オォ〜」
良くわかってないのにノリだけで返すメートヒェンにヴィントは溜め息をつき魔法を唱える。
「仕様がねぇな…【イルズィオーン・ラウム】(幻想空間)」
グニャリ
三人の居た空間が歪み、小高い丘からテーブルと椅子を残し、三人の姿が消えた…
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幻想空間内
「流石だね…」
辺りを見回してカッツェは驚く。
「ん〜今なら維持出来る時間は三日間、外との時間の流れを百倍に延ばせるかな…だから約四十分ぐらいしか時間は過ぎないぞ。」
本当に流石としか言いようがないね…、とカッツェは呟き、充分だ、と言ってメートヒェンに向かい合う。
今までは十二時間、外での時間を十倍にしか出来なかったが、神語魔法を扱えるようになってからは魔力のキャパシティが増え、今では十二時間の六倍の三日間、外での時間の流れを十倍から百倍までに出来るようになっていた。
「まずは浮遊術から…」
こうしてカッツェの指導によるメートヒェンの修行が始まっていった。
ヴィントside end
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アオスラントside
森を抜け、谷底へ下りる長いスロープを見つけた私達は谷底を目指す。
「やっと谷底に来れたな…」
「けど、凄い霧だね…」
「ホント、真っ白…」
「えぇ、はぐれないようにしないとね。」
スロープを下っていくと段々と霧が深くなり、谷底に辿り着くとそこは視界一面が白い世界だった。
1m先も霞んで見える濃霧に視界が阻まれる。
「とりあえず、日が暮れる前に洞窟に入りたいわね…」
「そうだな、まずは向こう側の崖に行くか…」
「そして、崖沿いに北に行けば洞窟を見逃さなくて済むね…」
ルーイヒの言うとおりこの濃霧じゃ崖沿いに歩かないと絶対に自分達の位置がわからなくなるだろう。
「じゃあ、周りに気を付けて行こっか。」
私達ははぐれないように固まって向かい側の崖を目指して歩みを進める。
この谷の横幅は0.5km程なので向かい側に着くのに時間は掛からなかったけど…
「はぐれちゃったね…」
「そうだね…けど、この霧じゃ仕方ないよ…」
前を歩いてた筈のラオト君とエルンストさんと何時の間にかはぐれてしまった。
「それに…他のグループも同じようにはぐれてるみたいだね…」
谷底ではお〜い、どこだ〜、などと声が反響しあっていてどこが声の発信源かわからない…
「とりあえずは僕達も北の洞窟を目指そう、きっとエルンストさんも同じように北の洞窟に向かっていると思うから。」
「うん、じゃあ行こうか!」
私はルーイヒ君の手を取って歩き始める。
「っ!?」
「あれ?もしかして、嫌だった…」
「い、いや、ちょっとビックリしただけだから気にしないで…」
「なら良かった…はぐれないように手を繋ごうと思って…」
「そう…だね、その方が安心だね。」
「じゃあ今度こそ行こうか?」
「う、うん…」
私達は手を繋いで北を目指した。
ルーイヒ君は二人とはぐれたからかいつもの優しい微笑みはなく、硬い表情だった…私が能天気なのかな?
アオスラントside end
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ヴィントside
「流石は大陸に名を馳せた吸血鬼の娘だな…」
「そうだね、ボクもここまでとは思わなかったよ…」
二人は目の前の光景を唖然と見つめていた。
ヴィントが創り出した軽く見上げる程あった巨大な岩をメートヒェンがあっと言う間に粉々にしたのだ。
しかし、メートヒェンはそれで力を使いきったのか粉々にした岩の前で横になっていた。
「カッツェ、アイツのお目付役を頼むよ…」
「辞退していい?」
「お前のご主人様だろ…」
「あ、そうだった…」
「しっかり頼むよ…それにしても…ファーターはこんな力持ってても人間に殺されたのか…」
「う〜ん…エルテレ様と逢ってから何年も血を吸わなくなったし、メーヒをエルテレ様が身ごもってから急激に力が弱まってたから、メーヒに力がいったのかも…」
「成る程…」
ヴィントはメートヒェンに近寄ると抱き上げてお姫様抱っこをする。
メートヒェンの顔を覗き込むと、その顔は目の前の光景をつくったとは思えない程に安らかな寝顔だった。
寝顔を見れないカッツェはヴィントの足下からメートヒェンを心配そうに見上げる。
ヴィントは大丈夫だ、とカッツェにメートヒェンの寝顔を見せる。
「さて、時間だ…戻るぞ。」
「ん、ありがとうね…」
「気にすんな。」
パッリーン
世界がガラスが割れたように砕け散り、小高い丘に三人は戻ってきた。
ヴィントは疲れたのか欠伸をすると地面に腰を下ろす。
「俺も疲れた…カッツェ、メーヒが起きるまで寝かせてくれ…」
「うん、良いよ。」
「悪ィな…」
ヴィントはメートヒェンを抱いたまま横になって眠りに就いた。
カッツェは眠りに就く父娘の姿を見つめて空を仰ぐ。
今は亡きメートヒェンの両親の冥福を祈って…
ヴィントside end
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アオスラントside
「なんとか日没前に着いたけど…」
「う〜ん…ラオトもエルンストさんもまだみたいだね…」
洞窟の入り口に辿り着いたけど、まだ二人は来てないみたいだ。
「ルーイヒ君、どうしようか?」
「そうだね…」
ん、なんか、甘い匂いが………
「お〜い、ルーイ、アオ〜」
遠くからラオト君とエルンストさんが駆け寄ってきた。
「ごめんなさいね、待ったかしら?」
二人は私達の前に来ると軽く呼吸を調えて顔を上げる。
「ううん、私達もさっき着いたばっかだから大丈夫です。」
「そう、なら良かったわ。」
「悪ィな、ルーイ、アオと二人で大変じゃなかったか?」
「・・・」
「ラオト君ったら酷いよ…そんなことなかったよね、ルーイヒ君?」
「・・・君達は誰?」
「何を言ってるの、ルーイヒ君」
「そうだぜ、ルーイ」
「ルーイヒ君…?」
ルーイヒ君は私の手を引っ張って後ろに隠すと魔法を唱える。
「気を付けてて…【カプット ゲーエン・フェルシュング】(壊れるまやかし)」
ぶわっ、っとラオト君とエルンストさんが光に照らされる。
「えっ!?」
「ボースハフト・ピルツだったのか…」
そこには気味の悪い大きなキノコの魔物がいた。
さらに周りを他の魔物達が私達を囲んでいる。
「あの…これって結構ピンチかな…」
「多分、ね…」
魔物達は私達へとジリジリと近づいて来て、私達も洞窟の中へジリジリと下がりながら入っていく。
「逃げようっ!!」
「えっ!?」
ルーイヒ君は私の手を引っ張って洞窟の中へ駆け込んで行く。
「アオスラントさんっ、足止めをお願いっ!」
「わ、わかった、【エアーデ】(土よ)、【イッヒ シュッツェン】(私を守る)、【ホーホ ヴァント】(高い壁を)」
私の呼び掛けに土が私達から魔物達を阻む壁が聳え立った。
私達は洞窟の奥へと逃げて行った。
アオスラントside end
今回の登場人物は、魔物のボースハフト・ピルツだけ…ですね。
コイツの由来は【悪質なキノコ】です。
旅人に胞子で幻覚を見せ自分の養分にするみたいな感じです。
次回もよろしくお願いします。