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第三章:第三話:満月の夜

皆さん、お待たせ(?)しました。


 

第三章:第三話:満月の夜

 

・・・・・・

 

三人はユンゲ達と別れの挨拶をし、ヴェステン国中央にあるヴェステン魔法学院を目指し歩を進める。

道中、魔物に何度か襲われながらも、難なく撃退し、魔法学院までの道のりの半分ほどの位置にある森を歩いていると、すっかり太陽は西へ消えていてしまった。

この日は満月で三人が野宿をする場所には、三人を包み込むような優しい光が届いていた。

 

「・・・・・・」

 

「………メーヒ?」

 

「ん、どうかしたのか?」

 

夕食を終え、焚き火の周りで座っていたアプリルは少し離れた位置にいたメートヒェンがクマのヌイグルミを抱きかかえ、空に浮かぶ月を魅入られるように見続けているのに気づいた。

月に魅入られたメートヒェンの姿はどこか幻想的で儚く見えた。

 

「血が……」

 

「血?」

 

「吸血鬼の血が月に惹かれているんじゃないか?吸血鬼は夜の支配者と言われる魔族だから…」

 

「そういえば、メーヒが外で夜を明かすのって初めてだね…」

 

「あぁ、会った時は寝てたもんな…」

 

二人が話している間もメートヒェンは満月を見続けていた。

いつもは豊かな感情も今は無く、ただ人形のようにその顔は無表情だった。

 

「メーヒ、大丈夫かな?」

 

「そうだな…今まであまり深く考えてはいなかったが、メーヒにも吸血衝動があるんだろうか?」

 

「それって血を欲しがるって事だよね…よく吸血鬼に咬まれたら吸血鬼になるって言うけど…メーヒも…」

 

「もし、メーヒが血を欲しがるのなら、俺がやるよ…」

 

「えっ?けど、ヴィオが吸血鬼に…」

 

「俺も天使と悪魔の混血だから吸血鬼の血には抵抗力があるだろうからさ…」

 

「でも…」

 

「それに…まだ、メーヒが血を欲しがるって決まった訳じゃないだろ。」

 

ヴィントは苦笑して手を伸ばし、アプリルの頭を撫でるとメートヒェンのもとへと歩いて行く。

 

「メーヒ」

 

ヴィントの声に反応し、メートヒェンはそちらを振り返るがその瞳には感情の色が映っていなかった。

ヴィントはメートヒェンをを抱きかかえアプリルのもとへ連れて行く。

 

「………あれ?」

 

「おっ、戻ってきたか?」

 

「パパ…?」

 

「あぁ、パパだよ…」

 

ヴィントは微笑みながらメートヒェンの顔を覗き込む。

 

「ママは?」

 

「ほら、リルならそこにいるよ…」

 

「メーヒ、ここにおいで?」

 

アプリルは自分の膝を叩きながら優しく言うと、メートヒェンは嬉しそうに笑顔で返した。

ヴィントはメートヒェンをアプリルに渡すとその横に腰を下ろした。

 

「〜♪」

 

「ふふっ」

 

「嬉しそうだな…」

 

「うん、こうしてメーヒを抱きしめてると幸せな気持ちになるの♪」

 

「メーヒもママにギュッてしてもらうとうれしいの♪」

 

「似た者同士め…」

 

「ヴィオもやりなよ〜」

 

「パパも〜、…………?」

 

「どうした、メーヒ?」

 

メートヒェンは突然何かを気にし始めるように辺りをキョロキョロと見始めた。

 

「・・・」

 

「どうしたの?」

 

「なにかがあっちに………」

 

「あっち?」

 

二人はメートヒェンが言う方向へ視線を向ける。

ヴィントは意識を集中させるが何もわからずアプリルに尋ねた。

 

「リル、何か聞こえるか?」

 

「ううん、けど……何か良くない感じがする…」

 

「どうしたものか…」

 

ドォーン

 

「!?」

 

ヴィントが思考していると何かが爆発するような音が夜の森に響いた。

 

「誰かが魔法を使ったみたいだな…」

 

ヴィントは二人の勘や魔法が爆発した音を聞き、コレはただ事ではないと考え、サッと立ち上がると音のした方向へ向かう準備をする。

 

「ヴィオ、私達も行く。」

 

「いや、………わかった、すぐに準備して行くぞ!」

 

「うん」

 

「・・・」

 

三人は音がした方へ急いで走って行く。

三人が思っていたよりもその場所は近く、そこには一人の男と蝙蝠を引き連れ、黒い翼と赤い瞳を持ち、漆黒のマントに身を包んだ男がいた。

アプリルは弓を構え、狙いをつけると矢を射る。

 

「そろそろ諦めたらどうだ?ふむ、しかし、出来れば男ではなく処女の血が飲みたかったが致し方ない…」

 

「くっ、ここまでか…」

 

ヒュンッ、カッ

 

「むっ、矢か…?」

 

漆黒のマントに身を包んだ男は飛んできた矢を不可視の力で防ぐと、矢が飛んできた方向へ目を向ける。

 

「ほぅ、コレはコレは…我に弓を向けるは、勇ましき女だな、我に矢を飛ばした報いに今宵はお前の血を戴くとしようか。」

 

「ふんっ、誰がアンタなんかっ!」

 

「バカッ、あまり挑発するな、俺の手間が増えるだろうが…」

 

「けど…」

 

「お前はあそこにいる人を連れて、少し下がれ…」

 

「ん、わかった…メーヒ、おいで…」

 

「うん…」

 

アプリルは吸血鬼を一瞥すると、メートヒェンを連れ、吸血鬼に襲われていた男の人のもとへ近寄る。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あぁ…」

 

「此処は危ないので少し下がりましょう。」

 

腰を抜かしていた男の人の手を取り、吸血鬼から距離を取る。

 

「さて、出来ればさっさと寝たいんだよな…なぁ、諦めて帰ってくれないか?」

 

「ふっ、愚問だな…我は腹を空かしている、目の前に美味そうな血を持った女がいるのだ、帰る訳がなかろう。」

 

「なら力ずくで御帰り願おうか…」

 

ヴィントは剣を抜き吸血鬼に肉薄する。

しかし、吸血鬼は不可視の力でヴィントの接近を阻む。

 

「チッ、【エルガーン・ドナー】(怒りの雷)」

 

ドォォン

 

不可視の力に接近を阻まれヴィントは怒りの雷を放つが、そこには無傷の吸血鬼がいた。

 

「【トラオリヒ・シュネー・シュトゥルム】(悲しみの吹雪)」

 

ビュォォォ

 

雪と氷が吸血鬼を呑み込むが不可視の力が吹雪を防ぐ。

 

「フッ、その程度か…今度はこちらから行くぞ!むんっ!」

 

吸血鬼が腕を振るうと見えない衝撃波がヴィントを襲う。

 

「クッ、【エーアデ・ヴァント】(土の壁)」

 

地面から土の壁が現れ、衝撃波を防ぐ間に吸血鬼は次の行動に移っていた。

 

「ふむ、なかなか楽しませてくれるな…」

 

「!?」

 

ヴィントは後ろからの気配に振り向くと吸血鬼が腕を振るう光景が目に映った。

 

「グッ、ガハッ…」

 

見えない衝撃波を喰らい、ヴィントは自分が発動させた土の壁に体を打ちつけられた。

吸血鬼はヴィントを一瞥するとアプリル達の方へ向かう。

アプリルは矢を引き絞り吸血鬼を狙うが、吸血鬼は不気味な笑みを浮かべると姿を空間に消す。

 

「えっ?」

 

「ふむ、生きががいい娘だな、どうやら処女ではないようだが…まぁ、男よりはマシだな…」

 

「くっ…」

 

アプリルの横に姿を表した吸血鬼は、アプリルの首を掴むと、その体を宙に持ち上げる。

吸血鬼はアプリルを引き寄せ、首筋に牙を立てようとすると、真横から何かが吸血鬼を吹き飛ばした。

 

「ガハッ、一体何が起きた…?」

 

「ママをいじめちゃダメ…」

 

そこには、吸血鬼を見据えるメートヒェンの姿があった。

 

「グッ、小娘…お前、吸血鬼だったのか…?」

 

「【フィンスターニス・ベロイヒテン・ゾネ・グレンツェン】(暗闇照らす太陽の輝き)」

 

背後からボソッとヴィントの詠唱が聞こえたと思った吸血鬼が振り返ると、そこには真昼を思わせる太陽の光があり、吸血鬼を照らす。

 

「グッ…」

 

「ウグッ…うちの嫁と…娘に手を出すなよ…吸血鬼のオッサン…「Dort schuld buse Fegefeuer ort」(そこは罪を悔い改める煉獄の地)」

 

大地に魔法陣が描かれ、吸血鬼に鎖が巻きつくとゆっくりと地面に呑み込まれていく。

 

「なっ!?今度は神語魔法だと…お前らは一体…?」

 

「死に行くんだ…知る必要はないだろ…堕ちろ…」

 

ズズズッ

 

吸血鬼は魔法陣により、完全に地面に呑み込まれていった。

 

「ふぅ…」

 

「お疲れさま…ヴィオ」

 

ヴィントは吸血鬼が地面に呑み込まれていくのを見届けると地面に座り込んだ。

アプリルはヴィントに駆け寄ると、労いの言葉をかける。

 

「あぁ、怪我、ないか?」

 

「うん、メーヒが助けてくれたからね…ありがとう、メーヒ」

 

「どういたしまして、なの♪」

 

「そうだ…アイツに襲われてた人は平気か?」

 

二人の安否を確認したヴィントは、吸血鬼に襲われてた男性の安否をアプリルに確認する。

 

「うん、あそこに…」

 

「助けてもらって、どうもありがとう…僕はヴェステン魔法学院付属の研究所で所員をしている、フォルシャー、…君達は?」

 

「俺は、ヴィオって言います。」

 

「私はアプリル、で、この娘は…」

 

「メーヒはメートヒェンっていいます。」

 

「ヴィオ君にアプリル君にメートヒェンちゃんか…助けてくれて本当にありがとう…」

 

「いえいえ…それより、フォルシャーさんはどうしてこんなところに?」

 

「あぁ、それはね…魔法薬の材料を採集しにこの森へ来たんだ。

満月の日にしか取れない貴重な花を取りに来ていたんだが、運悪くアイツに見つかってしまって…」

 

「そうだったんですか…それは災難でしたね…」

 

「まあ、君達に助けてもらえたから良かったけどね…そうだ、何かお礼をしたいんだが…」

 

「そんな…いいですよ…」

 

「あっ、フォルシャーさん。」

 

「ん、なんだい?」

 

「魔法薬を研究しているなら、メディカメントって薬が欲しいんですけど…」

 

「ヴィオ…」

 

「メディカメントかい?それなら、ちょうどその材料を取りに来てたところだよ…ヴィオ君はその薬が欲しいのかい?」

 

「えぇと、リルの母親がその薬を必要としているんです。」

 

ヴィントはメディカメントを手に入れるための経緯を掻い摘んで話した。

 

「そうだったのか…メディカメントをあげるのは大丈夫だよ。」

 

「本当ですか?」

 

それを聞いたアプリルは、顔を綻ばせて嬉しそうにフォルシャーに尋ねる。

 

「けど、生憎在庫を切らしていて、新しく作るのに二週間ほどかかるんだけど…いいかい?」

 

「う〜ん…わかりました、お願いして良いですか?」

 

「勿論、あと、ヴィオ君に頼みたい事があるんだけど…」

 

「?、何ですか?」

 

ヴィントは材料集めを手伝って欲しいのか?とか、頭の中で考えながら尋ね返す。

 

「実は君に魔法学院の臨時教師を頼みたいんだけど…」

 

「・・・え?」

 

ヴィントは予想外の答えに思考が少しの間停止する。

アルツナイはもう一度ヴィントに臨時教師の事を言う。

 

「臨時教師だよ、今、北との戦いで教師達が戦場に駆り出されてるから学院の教師が人員不足なんだよ…」

 

「そうなんですか…ヴィオ、どうするの?」

 

固まってるヴィントの代わりにアプリルが返事を返し、ヴィントに臨時教師の件を尋ねる。

 

「ん〜まぁ、どっちにしろ、メディカメントが出来るまでの二週間は動けないし、臨時教師の件、いいですよ。」

 

「本当かい、良かった…僕も少し出来るからって臨時に教師をさせられそうになったんだよ…そうすると、研究に集中出来ないからね…」

 

「とりあえずは、今日はここまでにして、また明日にしません?メーヒも眠そうですし…」

 

二人はそう言われ、アプリルの方へ振り向くと、メートヒェンは彼女の手を握っていて、ムニャムニャともう片方の手で目をこすっていた。

 

「あぁ、そうだね…詳しい事は明日、学院に行って学院長に話してからにしよう」

 

「あっ」

 

「ん?どうかしたかい?」

 

「いえ、なんでもないです…」

 

―――そういえば、学院長ってレクトアさんだろ…俺(王子)の事知ってるしな…なんか言われるかな…

 

その後、四人はヴィント達が最初にいた今晩、野宿をする場所に行き、そこで一晩を過ごして朝を迎えたら、ヴェステン魔法学院を目指す事にしたのだった。

 



今回の登場人物は、フォルシャーと名前だけ出てきたレクトアです。

フォルシャーの由来は【研究者】です。そして、レクトアは【学長】です。

これから毎日の更新は難しいかもしれません…3日に一本以内のペースでいきたいと思います。

これからもよろしくお願いします。

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