第二章:第九話:少女、妊婦に預けられる
第二章:第九話:少女、妊婦に預けられる
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「メーヒ、シュヴァ姉の言うことちゃんと聞くんだよ、お利口にね。」
「シュヴァさん、メーヒをよろしくお願いします。」
「パパ、ママ、いってらっしゃ〜い♪」
「ヴィオ君、リルちゃん気をつけてね〜メーヒちゃんのことは任せて、二人はデートを楽しんでいらっしゃい♪」
二人がシュヴァと呼ばれる女性にメートヒェンを預けるに至った顛末はというと…
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三人は首都の中で一番立派なホテルに泊まろうとしてきた、もちろん、ヴィントの強い希望で…しかし、結果は…
「満室!?」
「ハイ、申し訳ありません。蒼の巫女降誕祭の為、この期間は予約で満室になっております。」
「そうですか…失礼します。」
三人はホテルを出て、他の宿を探しに出た。
「ハァ〜、考えてみたら満室になるのは当たり前か…」
「ホテルに泊まれなくて残念だったね」
「ざんねん〜♪」
メートヒェンだけは二人と手を繋ぎ、機嫌がいい。
三人はホテルを出た後、首都を観光しながら他の宿を探し、酒場兼宿屋を見つけた。
「ここにするか?」
「いいと思うよ、ねっメーヒ?」
「うん♪メーヒ、ここでいいよ♪」
ギィ〜
ドアを開け店内に入ると、まだ日も暮れてないので店内に客はいないようだ。
メートヒェンは店の中を進んで行く。
「だれもいないの?」
「そうだね…」
「まだ準備中かもな…」
「いらっしゃい」
ヴィントが話していると、店の奥からお腹が少し膨らんだ女性が出てきた。
「ごめんなさいね、酒場は日が沈んでからなの…あら、可愛い♪って子連れ?」
「あっ、すみません、私たち宿に泊めてもらいたいんですけど…」
「部屋は空いてますか?」
「それは空いてるけど…随分若い親子ね…」
「えっと…親子っていえば親子なんですけど、ちょっと違うんですよね…」
「とりあえずこの娘は俺達の実の娘じゃなくて、俺らも夫婦ではないですよ。」
「あら、そうなの?まあ、いいわ…じゃあ先に部屋に案内しましょうか?」
「お願いします。」
三人は二階にある部屋へ案内される。
「ここよ、ベッドが二つで大丈夫よね?」
「はい、ありがとうございます。」
「さて、そんな可愛い子を連れてる理由を教えてくれない?あっ、あたしはシュヴァンゲレって言うの、みんなからはシュヴァ姉って呼ばれてるわ、よろしくね!」
「私の名前はアプリルです、リルって呼んで下さい。」
「ヴィオです…で、この子が…」
「メーヒは、メートヒェンって言うの、メーヒってよんで♪」
「可愛い〜♪この娘可愛いわ…っといけない、いけない、二人はどうしてこの娘の親を?」
「それは…」
アプリルはメートヒェンを引き取った経緯を話した…ただ、メートヒェンが吸血鬼とのハーフという事は言わないでだが…
「そう、メーヒちゃん…大変だったのね、リルちゃんとヴィオ君は好き?」
「うん、パパとママやさしいし、メーヒはふたりともだいすき♪」
「それは良かったわ…二人ともこの娘を幸せにしてあげてね…」
「はい、もちろんです!」
「大切にしますよ、俺達の娘ですから…」
その後、四人でお茶をする事になり、酒場に下りてきた。
世間話をしている間にシュヴァンゲレと仲良くなり、ヴィント達が最近恋人になった事や、シュヴァンゲレが妊婦さんという事をお互いに知った。
「じゃあ、恋人らしいことをしたこと無いの?」
「えぇ、まだ無いですね…ハァ、それにこれからは夜も川の字になるしな…」
「この娘がいるしね…ねぇ、あたしにこの娘を一日預けてみない?」
「預けるって?」
アプリルが首を傾げて聞き返す。
「そう、あたしもお母さんになるわけだし、少し子供に慣れたいのよ。」
「そんな、でも…いいんですか?」
「えぇ、一晩ぐらい預かろうか?ねぇ、ヴィオ君?」
シュヴァンゲレはヴィントのことをニヤニヤとからかうような目で見る。
「それはありがたいですけど…」
「けど?」
「メーヒの父親になったんだから、この娘にしっかりと愛情を注いであげたいんです…それに邪魔者扱いしたら可哀想ですしね…」
ヴィントはメートヒェンの頭を撫でながらシュヴァンゲレに応える。
メートヒェンも目を細め、気持ち良さそうにしている。
「そっかぁ…ハァ、メーヒちゃんと遊びたかったな〜、こんな機会もう無いしね…」
「えぇ〜と…」
「仕様が無いよね、親子だしね…」
「シュヴァさん?」
「あたしの子供が産まれるまであと3ヶ月か…」
「…メーヒのこと、頼んでいいですか…」
「良いのっ!?」
「えぇ、良いよな…リル?(駄目って言っても聞かなさそうだし…)」
「うっうん、シュヴァ姉も嬉しそうだし…(断れないよ…)」
「メーヒも明日までシュヴァさんのとこでもいいか?」
「パパとママは?」
「夜は同じ宿にいるよ、シュヴァさんがね、メーヒと仲良しになりたいんだって…」
「う〜ん…わかった♪シュヴァお姉ちゃんといる〜」
「ありがとう、メーヒ」
「この娘はあたしにまかせといて、二人はデートに行っておいでよ。
そうだ、夕食はどうする?」
シュヴァンゲレはメートヒェンをそばに寄せ、二人に尋ねる。
「ヴィオ、どうするの?」
「今日は外で食べて、明日は此処でたべようかな…」
「ん、わかったわ。」
二人はメートヒェンをシュヴァンゲレに預け、街に出掛けることにした…
それが始めの会話である。
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ヴィント達はいろんな店をまわり、しばしの休息を楽しんでいた。
二人が出店の通りを歩いているとき、アプリルがある露天商の前で足を止めた。
「どうした?」
「ん、何でもないよ…」
アプリルは露天商から視線を戻し、ヴィントに何でもないよと伝える。
しかし、ヴィントはアプリルが露天商を気にしてるのに気付いた。
「あぁ、見てくか?」
「ううん、いいよ…」
「恋人にプレゼント贈るぐらい普通だって…気になったんだろ?」
ヴィントは銀細工の露天商に行き先を変え、アプリルも少し考えるが…結局その後に着いていくことにした。
「いらっしゃい、彼女にプレゼントかい?」
「あぁ、どんなのがあるか見せてもらうよ。」
「ごゆっくり。」
ヴィントはアクセサリーを見比べ、数分程考え、二つの指輪を手に取ってアプリルに尋ねる
「リル、コレなんかはどう?」
ヴィントはアプリルの手を取り、指輪を嵌めてみる。
勿論、左手の薬指に…
「指輪?」
「あぁ、似合ってるしコレにするかな…スミマセン、コレとチェーンを下さい。」
「あいよ、内側に何か字を彫るかい?サービスするぜ。」
「じゃあ、『with april』と『with wind』で」
「あいよ〜」
商人に代金を払って指輪とチェーンを受け取り自分は指輪にチェーンを通し首にかけ、もう片方をアプリルに渡す。
「あっ、ありがとう…ねぇ、ヴィオは指に嵌めないの?」
アプリルは薬指に指輪を嵌めながらヴィントが指輪を指に嵌めないことを尋ねる。
「あぁ、戦闘の時に手が気になって集中出来なくなるからさ…さて、メーヒにヌイグルミでも買ってこうぜ。」
「それはいいね♪メーヒ、きっと大喜びするね♪」
後ろからの、商人の毎度あり〜、という声を聞きながら、二人は先程歩いていた出店の通りに戻った。
二人その後メートヒェンへのお土産を買い、夕食を済ませて宿に戻った。
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「ママ、パパ、おかえりなさい♪」
メートヒェンはアプリルに勢い良く抱きついた。
その後ろからはシュヴァンゲレが出てきた。
「おかえり、楽しめた?」
「ハイ、ありがとうございました。」
「メーヒ、お土産だ。」
ヴィントは40cmほどのクマのヌイグルミをメートヒェンに見せる。
「わぁ〜、パパッ、ありがとう♪」
ぱぁ〜、と瞳を輝かせヴィントの足元に来るとヴィントからクマのヌイグルミを受け取る。
「喜んでくれて嬉しいよ、メーヒ」
ヴィントはメートヒェンの頭を撫でながら笑顔で言う。
その後シュヴァンゲレやメートヒェンと談笑し、そろそろメートヒェンが目を擦り始めたころに…
「じゃあ、部屋に戻るか…リル」
「うん…」
「ふぁ〜」
二人に着いていくメートヒェンをシュヴァンゲレが引き止める。
「メーヒちゃんは今日はあたしと寝るんでしょ?」
「あっ、そうだった…、パパ、ママ、おやすみなさい〜」
「おやすみ、シュヴァさんの言うことをちゃんと聞くんだぞ。」
「メーヒ、おやすみ。」
二人は部屋へ戻って行った。
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オマケ
「おはようございます♪」
ヴィントが幸せそうな顔で挨拶する。
「おはようございましゅ…」
アプリルが少し眠そうな顔で、腰をさすりながら挨拶する。
「おはよう、昨日はどうだった?」
シュヴァンゲレがニヤニヤしながら二人の様子を見て尋ねる。
「シュヴァ姉…えぇと、ノーコメントで…」
「最高でした♪」
「ヴィオッ!?」
「ハッハッハ、そりゃあ良かった、メーヒちゃんならあっちにいるから行ってあげなよ。」
シュヴァンゲレは親指で店の奥を指差して言った。
「ハイ」
ヴィントとアプリルはメートヒェンのところへと向かった。
今回の登場人物は、シュヴァンゲレですね、愛称はシュヴァ姉、28歳、妊娠七ヶ月目、姉御肌な人です。
さて、シュヴァゲレの由来は【妊婦】さんです。
あと、二人の夜を番外編として短編で上げます。
一応、R15にしましたが、あまりわからないので意見、感想など戴けたら嬉しいです。