#6−2:黒
「どうしたの?」
駆け寄り、そう話しかけても反応は返って来ない。
浩雪が黙って見つめるその先には……。
「あっ、ゲームセンター。私はよくわかんないけど、浩君ゲーム得意だもんね」
それは、浩雪達が産まれる前からある、錆びれた雰囲気のゲームセンター。
ただ、外から見える内装は薄暗く、何となく怖い雰囲気が漂っていたので、全くゲームをしない佐知はともかく、ゲーセンには時々行く浩雪でも、ここには入った事はなかった。
「行きたいの? でも、確か下校中の寄り道は……」
「そんなのお前に言われなくてもわかってる。それより……ほら、あれ」
だが、浩雪が見ていたのはその錆びれたゲームセンター……ではなく、その中に居た――。
「ん? あれって……私と同じ制服?」
「馬鹿。そんなの見たらわかるだろ」
「じゃあ何なのさ?」
「本当にわからないのか?」
「ん~……女の子が居るって珍しい……とか?」
「はずれ」
「もうっ! 意地悪しないで教えてよ!」
ゲームセンターの扉越しに見えるその後姿。
いつも通り漫画を読みながら1人で帰っていたら、恐らく気が付かなかっただろう。
「ねえ、聞いてる?」
ゲームの筐体に向かって――こちらに背を向けて腰かけているため、その顔は見えない。
「ねぇってば!」
だが、その後姿を一目見ただけで、すぐに気付いた。
その腰まで伸びた黒髪に、ただ座っているだけでも絵になる後姿。あれは絶対に――。
「いいもん。教えてくれないんなら、自分で確認するもんっ!」
「っておい! まさかお前……っておい。まさかお前」
浩雪が1人で黙っていると、頬を膨らませた佐知が勝手にゲームセンターの方へと走り出した。
まさか乗り込む気か――と、浩雪が焦りの混じった声を掛けるも、次の瞬間には同じ言葉を呆れたように発していた。
「ふふふ……私を侮ったね、浩君」
ゲームセンター――の前に設置された自動販売機。
その陰に隠れてゲームセンターの中を窺う佐知は、一度こちらを振り返ると、得意げな笑みを漏らした。
「お前、覗き見すんの得意だもんな?」
一方、その顔に何となくむかついた浩雪は、近づきながら皮肉を飛ばしていた。
しかし、既に覗き見モードに移行していた彼女の耳には届かなかったようで……。
「う~ん……どっかで見た様な気も……?」
「お前、本当に自由だよな」
「あっ、浩君も見にきたの? でも、2人並んで顔は出せないし……」
「いや、別に僕は――」
「じゃあ、浩君が下ね」
「何で!」
「だって、浩君の方が背低いじゃん」
「そ、そんなに変わらないだろ?」
「でも、低いよね?」
「…………」
「ね?」
「……今に見とけ。卒業するころには抜かしてやる」
「そ。……じゃあ期待しとく」
――何に期待するんだよ?
思わず上を向いて聞き返そうとしたが……。
「……それは反則だろ」
野球をしているお陰か、すらっと引き締まった太もも。
だが、彼女が今着ているのは野球のユニフォームではなく制服なわけで。それはつまり、ズボンではなくスカートなわけで。……つまり、上を向いた浩雪の目には、チラリと何か白いものが映ったような気が――。
『――おい!』
「い、いや別に見たくて見たわけじゃ……え?」
頭上から降り注いたやけに凄みのある声に、つい数秒前の過ちすら忘れて、再びその顔を上に向けた浩雪。
「ほう。言い訳はそれだけか?」
だが、今度こそ確実に見えてしまったソレは、先程チラリと見てしまった色ではなく……。
――黒