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こくはく[告白]:現実には実在しない空想の行為。  作者: 水樹 皓
うわさ[噂]:往々にして虚言が真実へと昇華する言伝。
8/32

#6−1:黒


 ……ポン、ポン、ポン。


「…………」


 片手に丸めて持ったノートを、意味もなく柵にぶつけながら歩く。


 浩雪は今日もいつもとおなじく1人、家を目指して通学路を歩いていた。

 ……そう、いつもと同じ。

 違うのは、同じ道でも通るのがいつもより数十分遅いという事だけ……。


「……あ。漫画、忘れた」


 中学校から10分程度の所にある商店街。

 その入り口にある本屋が目に入った時、ふと思い出した。いつもと違う点がもう一つあった事を。

 いつもは漫画を読みながら、1人で歩いて帰っているから……。


「ま、良いか。明日で」


 とある事情で殆どページが進んでいない漫画。

 返却期限はまだ先だし、それに今日は元々勉強する予定だったから。


「そう、1人でね。だから、このノートも別に……」


 言いながら、丸めていたノートを広げる。

 そこには、今回のテスト範囲が簡潔に纏められていた。

 色とりどりのペンでカラフルに書かれており、所々に可愛らしい動物のイラストが書いてあったりもしている。これならきっと、飽きっぽい子でも楽しく勉強できるだろう。そんなノート。


「てか、これ書いたせいでテスト範囲殆ど復習できたし、もう勉強しなくても良い――」

「浩君っ!」


 いきなり名前を呼ばれ、反射的にノートをサッと背に隠す。

 しかし、声を掛けてきた人物も、浩雪の背に居るわけで……。


「ん? ナニコレ?」

「あっ!」


 あっさりと声の主――佐知にノートを奪われてしまった。

 ここまで全速力で走ってきたのか、汗でその短い髪の毛が肌にべったりと張り付いている。


「おいっ返せ! てか何の用だよっ!」

「わあっ! 凄いね、コレ!」


 大声を出しながら手を伸ばすも、佐知は頭上に掲げてノートを見ているため、手が届かない。

 2人の身長は、若干ではあるが佐知に軍配が上がっていた。

 まあ、身体を引っ付けて背伸びまですれば届くのだろうが……。


「……おい、返せ」


 それは躊躇われた。

 これがつい半年……いや、一ヵ月程前なら、遠慮なく掴みかかっていたのだろうが。

 最近、浩雪が不用意に身体を接触させると、佐知は急に大人しくなるのだ。

 その理由はさっぱりだが、その後の佐知は暫く黙ってしまい、面白くない。

 だから、浩雪も自然とそれを意識する様になっていった。


「ねぇねぇ浩君っ!」

「何だ? てか返せ」


 暫く「ほ~」とか「へぇ~」とか。実にアホそうな声を出してノートをぺらぺらと捲っていた佐知。

 やがて満足したのか。天高く掲げていたノートを、軽く膨らみかけた胸元まで戻すと、ぎゅっと抱きしめて、


「これ、今日貸してくれないかな?」

「は?」


 予想していなかったその言葉に、浩雪は不覚にも変な声を出してしまう。

 だが、すぐに取り繕う様に咳払いすると、


「や、野球部の先輩方から戴いた過去問題はどぅしたんだよ?」


 自然な声音を意識して、あくまでも興味が無い風に問いかける。意識し過ぎて、むしろ若干不自然になっているのはご愛敬。

 一方、佐知はそんな浩雪の大根芝居を特に変に思わなかったのか。「ああ、アレはね……」と軽い口調で応える。


「流石に量が多いからね。今日は一旦家に帰って、明日、大きなカバン持ってって、それに入れて持って帰ろうって。なんと、愛ちゃん達も手伝ってくれるんだよっ!」

「……そうか。それは良かったな」

「それでね、明日はそのまま私の家で勉強会することになったんだ!」

「そうか。皆に迷惑かけるなよ?」

「それでね……」

「そうか」

「……浩君、何か怒ってる?」

「何で?」

「え? いや……何となく……?」

「そうか。なら、何時までもこんな所でしゃべってないで、さっさと帰るぞ」

「何怒ってるのさ?」

「だから怒ってないって! それ、やっぱり返せ――っ!?」


 佐知が胸元に固く抱いていたノートを、無理やり奪って歩き出す。


「あっ――待ってよっ!」 


 その後を追いかけた紗千は、すぐに追いつくと、横に並んで顔を覗き込む。

 すると、何故か浩雪の顔が赤くなっており……。


「どうしたの?」

「な、何でもないっ!」

「変なの――って、だから待ってってばっ! やっぱり怒ってるでしょ!」


 そこから暫く「怒ってる!」「怒ってない!」と同じ言葉の応酬を繰り広げながら、どちらからともなく早足で商店街を駆け抜けていった。


「やっぱり絶対怒ってるっ――あれ? 浩君?」


 そして、商店街の出口が見えてきたその時。

 今まで隣を並走していた筈の幼なじみの姿が消え、キョロキョロと辺りを見渡す。

 すると、数メートル後方で立ち止まり、商店街の店の1つを見つめている姿が見て取れた。

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