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こくはく[告白]:現実には実在しない空想の行為。  作者: 水樹 皓
うわさ[噂]:往々にして虚言が真実へと昇華する言伝。
5/32

#4-1:((ポリポリッ))

「お前、やっぱりバカだろ?」

「……はい」


 黄色いクマ、だらしない恰好のパンダ、へんてこな梨。

 可愛らしい?ぬいぐるみ達に囲まれた何ともファンシーな部屋で、私服姿の浩雪と佐知は向き合って座っていた。


「今日、僕が夕飯食べに来る日だって忘れてたろ?」

「……はい」

「そもそも、この僕が明日になったら今日の事を全て忘れるとでも思ってたのか?」

「その……ワンチャン」

「ねぇから」

「……はい」


 佐知はお気に入りの犬のぬいぐるみを抱いて縮こまっている。

 対する浩雪は、次々と容赦なく佐知の精神を抉っていたが……。


「……はぁ。もう良いや。これ以上佐知を虐めて、夕飯を奪われでもしたら敵わないから」

「そ、そんな事しないよぉ!」


 今日の事に腹が立っているのも事実だが、今の様なうじうじ元気のない佐知を見ているのも同じく腹が立つ。

 なので、浩雪はできるだけ自然に、場の空気を変える。


「それより、今日の夕飯は何だっけ?」

「えっと、お母さんはハンバーグだって言ってたよ」

「そうか」


 浩雪と佐知は親同士の仲も良く、更に家も近所と言う事もあり、親が共働きの浩雪はたまに佐知の家に夕飯のお世話になっていた。

 佐知の母親は本当に優しく、いつ見てもニコニコとしているような人だ。佐知が純粋な子に育ったのも、親の影響だろう。

 そんな佐知母は、浩雪の事も本当の子供の様に優しく接してくれ、夕飯を食べに来たときは、必ず浩雪の好物を作ってくれるわけで……。


「ふふっ。良かったね!」

「は?」

「浩君、ハンバーグ大好きだもんねっ」

「そ、そんなことねぇし? 別に、ハンバーグなんて、そんな子供っぽい食べ物……」

「またまたぁ~」

「いや、本当だし」

「そうなの? じゃあ、今は何が好きなの?」

「そ、それは……例えば、あの、あれ……ふぉあぐら? ……とか」

「へぇそうなんだ! 私、一回だけ食べた事あるけど、苦くて吐きだしちゃったんだよね」

「へ、にがいの?」

「どうしたの?」

「い、いや? ま、まあ、あの苦さが良いんだけどな?」

「そっか……なら、ハンバーグは苦くないし……そうだ!」

「な、何?」

「お母さんに頼んで、浩君のハンバーグだけ肉をゴーヤにしてもらおう――」

「それはただのゴーヤチャンプルだっ!」


 前言撤回。

 今日の事はとことん反省してもらおう。


――


 再び、浩雪と佐知は向き合って座っていた。


「それで、そもそもあの子は誰?」

「ん~? (ぽりぽり)あっ、浩君も一本食べる?」

「……いや、夕飯食べれなくなりそうだから良い」

「そう? 浩君も何か運動部に入れば(ぽりぽりっ)もっといっぱい食べられるのに(ぽりぽりぽりっ)」


 ……ただ、先程の様な湿気た空気にはしたくなかったので、そこは配慮して。


「僕は運動はするよりも見る方が好きなんでね。……それより、あの子の事なんだけど……」

「(ぽりぽりぽりぽりっ)」

「あ、あの子の……」

「(ぽりぽりぽりぽりぽりっ)」

「あの……」

「(ぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽり――)」

「お前はそういう妖怪かっ!!」

「ふぇ――っ!?」


 結局、配慮も佐知の前では1分すら持たず。

 浩雪はここに来て早くも2度目の大声を出すと、佐知が口にくわえていた最後までチョコたっぷりのお菓子を奪い、それをボリボリと荒い音を立てて租借した。


「やっぱりお菓子は禁止だ! 僕の質問にだけ答えろ!」

「…………」

「おいっ。聞いてんのか?」

「え? あ……うん、聞いてる……よ」


 急に大人しくなった。

 自分の口元を押さえ、ぼんやりとこちらを見てくる佐知は、先程までの自由奔放さはどこへやら。

 若干顔が赤くなっているし、目元もとろんとしている。

 風邪……は今まで一度も引いた事がないから違うだろうし、恐らく物を食べて眠たくなったのだろう。


 ――子供だな。

 心の中でそう呆れつつも、これはこれで好都合と、またうるさくなる前に話を再開する。


「今日お前が呼び出したあの子は誰なんだ?」

「……(あおい)ちゃん」

「お前の友達か?」

「……ううん。まだ話した事ない」

「話した事もない?」

「……うん」

「そ、そうか」

「……うん」

「…………」

「……うん」

「おい、まだ何も言ってないぞ」

「……うん」


 ……何か、ヤバイ?

 目の焦点も合ってないし、もしかして本当に風邪なのでは……?

 そう若干の焦りを感じた浩雪は、今も「……うん」と何かに取り憑かれたかの様に首を振り続ける佐知へと、四つん這いになって恐る恐る近づく。


「……うん」

「お~い……大丈夫か~?」

「……うん」

「いや、どう見ても大丈夫じゃないだろ」

「……うん」


 直ぐ傍までやって来た浩雪は、取りあえず目の前で手を振ってみるも、やはり反応は変わらず。

 どうしたものか……と考えていると、ふと、つい最近佐知から借りた少女漫画の、とあるシーンを思い出していた。

 少し恥ずかしいが、風邪かどうかを確認する為には、あの方法が一番効果的だと漫画の中の先生も言ってたし、浩雪も母から同じような事をされた記憶があった。

 だから、物は試しと、自分の前髪と佐知の前髪とを両方の手で押し上ると、そのまま顔を近づけて……。


「……うん。確かに、何か温かい……様な?」

「……うっ!?」

「いや、でも……やっぱわからん」

「っ!?!?」

「本当にこんなんで熱が測れるのか――」

「ひ、浩君っ……」

「ん? お、気がついたか」


 結局熱は測れなかったが、除霊は成功したらしい。

 先程よりも顔が赤く見えるのは気になるが、目の焦点はしっかりとこちらに合っている。

 浩雪は佐知から顔を離すと、それらの事を確認して、ホッと一息。


「お前、大丈夫か?」

「へ? な、なな何が?」

「いや、さっき明らかに様子おかしかっただろ? 今もまだ顔赤いし」

「そ、それは……アレだよ! お菓子を食べ過ぎて、眠くなっちゃってね~」


 「たはは」と照れたように頭をかく佐知に、浩雪はやっぱりかと溜息を吐く。

 ……ただ、幼なじみの予想通り過ぎる答えに脱力したせいか、顔が赤いのと眠くなったのとに、全く関連性がないのにも気づかないまま。

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