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こくはく[告白]:現実には実在しない空想の行為。  作者: 水樹 皓
うそ[嘘]:積み上げる度崩れやすくなる言の葉の塔。
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#20:もう、後戻りはできない

「やーっと昼飯か。やばいな、今日のノート全部真っ白やわ」

「あはは。確かに、お正月ののんびりした空気がまだ抜けなくて眠くなっちゃうもんね~」

「ふ、2人共……」


 季節はもうすっかり冬の装い。

 年も明け、3学期に突入していた。


「とにかく、まずは飯や飯」


 佐知の机を囲むように、適当な椅子を引っ張ってきて座る。

 年が変わっても相変わらず仲の良い佐知と愛花と真琴と……。


「あれ? そういや、怜は?」

「そ、そういえば、最近お昼いつもいないね」


 年明け前――2学期に入って少し経った頃からであろうか。

 お昼はいつも4人で食べていたのだが、怜がたまに姿を消す頻度が多くなっていったような気がする。

 3学期に入ってからは、一度も一緒に食べていないような……。


「多分、面白い小説に出会ったんだよ。ほら、小学校の時もたまにこんなことあったよね?」

「あ、そうだったね」


 佐知の答えに、愛花は納得の表情。

 一方、1人だけ小学校が違う真琴は首を捻り、佐知の顔を見やる。


「ほら、怜ちゃんって小説が大好きでしょ」

「そうやな~。私にはわからん世界やけど」

「いつもは暇つぶし程度に読んでるらしいんだけどね。たまに、凄くおもしろい小説に出会うことがあるんだって」


 答えを求められた佐知は、どこか優しい笑顔を浮かべて話す。

 この話を怜本人から聞いた時の、彼女にしては珍しい興奮した表情を思い出しながら。


「その時はとにかく小説の中に入りたい?らしくて、学校でもどこか人のいないところで小説を読んでるんだってさ」


 小学生の時も、新しい小説が出ると休み時間や放課後にすっと姿を消していることはあった。

 だから、今回もきっとそれだろう……と。


「ふーん? やっぱり私にはよう分からん世界やわ」

「私も詳しくは理解できなかったけど。でも、何か夢中になれることがあるってカッコイイよねっ!」

「まあ、確かになんや怜らしいってゆうか……」


 真琴はそこで言葉を切ると、おもむろに佐知の後ろの席を見やる。


「そういや、毎日のように漫画に齧りついてた奴も、最近すっかり見いひんようになったな~」

「あっ……そ、そういえばそうだね」


 真琴が言うと同時に、苦虫を噛み潰したような表情になった佐知。

 自分でも変な顔をしたことに気づいたのだろう。すぐに取り繕うように、


「も、もしかしたら怜ちゃんと同じように、どこかで漫画の中に入ってるのかもしれないね」

「2人同じところで読んでたりして、な」


 ニヤリと。悪い笑みを浮かべた真琴の言葉に、佐知より先に愛花が反応する。


「そ、そうなの?」

「いやいや、冗談やって。怜はなんやあからさまに嫌っとるようやしの」

「そ、そうだよね。れ、怜ちゃんが、男の子とな、仲良く――なんてないよね」

「それは分からんで~? 思春期の男女なんて、次の日には彼氏彼女になってるもんやしの」

「えぇ!? そ、そんな……」

「もう、真琴ちゃん。あんまり愛花ちゃんをいじめたらだめだよ」


 少し前なら、愛花と同じ様に佐知も顔を真っ赤に。そして、怜が2人の代わりに真琴を止める。

 ……という流れだったが、いつしか怜の代わりを佐知が務めるようになっていた。

 その変化に唯一気がついている真琴。今なら丁度いいタイミングか――と、2学期から温めていた話題に触れる。


「そういやさ、佐知。最近、その漫画バカと仲がよろしくないみたいやん?」

「え……? きゅ、急にどうしたのさ?」


 いつもいつでも温かかった佐知の笑顔が、根本から消えていく。


「いや、ほら。2学期に入ったあたりからやったかな? 2人が会話してる姿見てへんし、なんやお互いに避けてる――って感じてたんは私だけなんかな?」


 そこで不意に愛花の方を見る。

 すると、愛花はいつものように自身のない表情で。でも、はっきりと。


「そ、そうだね。い、いつもは朝とか2人で何か話してたのに、最近は全然。……私としては嬉しいけど」


 最後にボソリと付け足した言葉までは聞こえなかったが、愛花にまでそのようなことを言われた。

 その事実からか、どこか吹っ切るように大きく息を吐いた佐知。続けて、


「2人……本当は怜ちゃんにも聞いてもらいたいんだけど、今はいないから仕方ない、よね」


 言いながら2人の親友の顔を見渡すと、佐知らしからぬ不安げな表情を浮かべる。


「ちょっと、聞いてもらいたいことがあるんだけど……良いかな?」


 対する2人は、一度互いに顔を見合わせる。すぐに答えは同じであるということを交換し合い、どちらからともなく口を開く。


「佐知にお願いされてもうたら、断れるわけ無いやん」

「も、もちろんだよ」

「……ありがと」


 小さく。でも、しっかりとした笑顔を浮かべてお礼の言葉を口にした佐知。


「ふぅ……よしっ。えっとね……夏休み。ほら、2人も応援に来てくれた、野球部最後の夏の大会の日のことなんだけど……」」


 最後にもう一度。小さく深呼吸をして覚悟を入れ直すと、全てが変わってしまった――いや、自分の意志で”変えた”あの日のことを話し始めた……。




――もう、後戻りはできない

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