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こくはく[告白]:現実には実在しない空想の行為。  作者: 水樹 皓
うわさ[噂]:往々にして虚言が真実へと昇華する言伝。
3/32

#2:彼女は綺麗だった

「おっはよーぅ!」

「うるさい。後、うるさい」


 昨日はあの後、佐知がすぐに部活へ行ってしまい、結局一言も口をきかなかった。

 なのに、今は涙目で平手打ちした事も忘れたかのように、ケロッとしている。


「そう言う浩君は相変わらず辛気臭いね。何で朝から漫画なんか読んでんのさ」

「僕の勝手だ」


 ……昨日、何か凄い怒っていた癖に。

 でも、彼女のそういったサバサバしたところのお陰で、今までの腐れ縁も続いているのだろう。

 正直、姉の様に、間違えてプリンを食べたら1ヶ月以上根に持つような、女々し過ぎる人物は苦手だから。……それが同族嫌悪なのは置いといて。


「面白いの、それ?」

「ああ」

「ふ〜ん……」

「……あのさ」

「何?」

「用が無いのなら、前向いたら? 気が散る」

「いや〜。浩君の顔見てると飽きないな〜ってね」

「それは僕の顔が面白いとでも言いたいのか?」

「何でそうなるのさ。相変わらず捻くれてるね~、浩君は」


 やれやれといった様子で、首を横に振る。

 何だか無性に腹が立つのは、浩雪が怒りっぽいせいではないだろう。


「それより、用だったね。あるよ、トンデモなく大きなのが!」


 浩雪の殺気にも気付いてない佐知は、「オホン」とわざとらしく咳払い。


「昨日、部活中も家に帰ってからもずっと考えてたんだ」

「……何を?」

「どうしたら浩君が告白の存在を認めてくれるのかな――って」

「っ……はぁ。お前、そんなしょうもない事考えるぐらいなら、少しは勉強しろよ。中学最初のテストでいきなり赤点なんか取ったら、あのいつもニコニコしてるお前の母さんでも鬼になるぞ?」


 佐知の何気ない言葉に、昨日の厭なやり取りが蘇った浩雪は、わざと軽口で返していた。

 一方、昨日の事など全く気にした様子もない佐知。「赤点こそ空想の物だよ~」と能天気に歯を見せて笑う。


「まあ、良いけど。テスト前に泣きついてきても、僕は面倒見ないからな」

「だから大丈夫だって! 小学校でも何だかんだでどうにかなったんだから。ほんと、浩君は心配性だな〜」

「はいはい。分かったから。それより、早く要件だけ話して、さっさと前向いてくれませんかね?」


 佐知が現れてから全く進んでいない漫画のページをわざと見せつける様に、トントンと叩く。


「もう。漫画と私、どっちが大切――」

「漫画」

「そ、相変わらずだね。じゃあ、今日の放課後、6時に屋上――の手前の階段まで来て」

「は? 何で?」

「え、浩君知らないの? 屋上は立ち入り禁止なんだよ?」

「いや、そうじゃなくて……」


 またもや殺気を放出しそうになるも、話が進まないので、ここはぐっと堪える。


「何で6時なんだよ?」

「え? だって私、放課後部活あるもん」

「お、お前なぁ――」


―――


「――で、結局来てしまう僕も僕だよな」


 中学生になっても何も変わらない自分が情けなくなり、ため息を1つ零す。

 佐知を相手にしていると、結局最後にはこうなってしまう。


「……それにしても、あいつ。意外と頑張ってたな」


 授業が終了してから今までの間。

 帰宅部である浩雪は、自分の教室で漫画を読んで時間を潰していた。

 そんな浩雪の耳には、時折運動場から運動部の活発な声が聞こえてきていた。

 そして、その中でも一際目立って聞こえてきていたのは……。


「くくっ。『ラッシャーイ!』って。ラーメン屋かよ……」


 野球部唯一の女子部員。

 野太い声の中、一人だけ甲高い声で。しかも一番大きな声で。

 いつも、放課後はすぐに家に帰っていたので、中学生になってから、彼女のユニフォーム姿を見るのは始めてだった。


 そんな、全力で白球を追っている彼女は、能天気な腐れ縁の彼女と、まるで別人の様に見えていた。

 ……そう、まるで、肩を並べて歩いていたはずなのに、いつの間にか、ずっと遠くへ行ってしまったかのような――。


「そ、それにしても遅いな、あいつ。やっぱり相変わらず時間にルーズと言うか……」


 変な事を考えてしまいそうなり、気持ちを切り替える様に、意味もなく独り言を漏らす。

 すると、まるでそれに応えるかのように、階段を上ってくる足音が1つ聞こえてきた。


「やっと来たか」


 やがて、足音は浩雪の待つ屋上手前まで近づいてきて、踊り場の影からスカートの端がチラリと覗いた。

 階段に座り込んでいた浩雪は、すっかり重くなった腰を上げ、不満気な声を前面に押し出し、


「おい、10分遅刻だ……ぞ?」


 ……確かに、浩雪の前には、もう見慣れたセーラー服を着た少女が現れた。

 だが、それは見慣れた短髪ではなく、腰まで綺麗に伸びた長髪で……。


「私を呼び出したのって、アンタ?」


 言葉を失う浩雪を一瞥した長髪の少女は、ぶっきらぼうにそう問いかけてきた。


 上履きの色から見るに、浩雪と同じ1年生なのだろうが……身に纏う空気は、まるで大人の様に感じられた。

 空気だけでなく、見た目も他の1年生の様な子供っぽさはなく、もし私服姿で高校生だと言われても、まず疑わないだろう。

 そして、何より……。


「……聞いてる?」


 綺麗だった。

 昨日のドラマに出ていた中学生役の女優にも引けを取らないレベル。

 浩雪の通っていた小学校にも、何なら今の同じクラスにも。漫画以外に興味のない浩雪が見ても、可愛いと思う子は何人かいたが……。

 その子達とは違う。




――彼女は綺麗だった

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