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こくはく[告白]:現実には実在しない空想の行為。  作者: 水樹 皓
うそ[嘘]:積み上げる度崩れやすくなる言の葉の塔。
29/32

#18:どうして気になる?

「よしお前ら~。準備体操するから誰かと2人一組な!」


 さあ、やってまいりました。

 学校生活の中で憂鬱な時間その5。


 ――と、そんな実況解説を頭の中だけで繰り広げる男こと白告浩雪。

 この体育の授業、彼が一番多くペアを組んだのは安田教諭――つまり先生だ。


 体育は男女別、2クラス合同で行う。その2クラス合計の男子の人数は39人。

 つまり誰か1人もしくは3人――奇数人数の欠席が出ない限り、1人余りがででしまう計算になる。


「よしっ、それじゃあ白告は俺と前で準備体操だな!」


 野太い声が体育館に響き渡る。

 ……残念ながら、今日の浩雪のペアは安田教諭のようだ。


 そんな男子グループと反対側の面を使っているのは同じ1年の女子グループ。

 安田教諭の大きな手で背中を押されながら、浩雪はチラと隣の面を見やる。


 決して、女子のキャッキャウフフを覗き見て鼻の下を伸ばしたいわけではなく、恐らく自分と同じ境遇になっているであろう仲間を見て安心したかっただけ。……なのだが、


「何だ、あれ?」

「ん、どうした?」

「あ、何でもないです先生」


 世にも奇妙な光景が目に入ったものだから、つい声が漏れ出ていた。

 よそ見をしていたことがバレたのか。先生の背中を押す力が若干上がった気がしたので、今はとりあえずこちらに集中することに――。



「……意外」

「何が?」


 浩雪曰く世にも奇妙な光景。

 それというのが、これである。……つまり、冬馬葵と黒間怜がペアで準備体操をしている光景だ。


「……断ると思ってた」

「別に断る理由もないからな」


 周りで同じく準備体操をしている女子達も、遠巻きにチラチラと2人に視線を送っている。


 女子にしては高身長な葵と小柄な怜。見事にデコボコな2人が背中を押し合い身体を引っ張り合いしている光景はちぐはぐだが、そこではない。

 誰かと接している姿を見せたことがない葵。怜に関しても、あまり人と進んで接するタイプではない。ましてや、今日みたいに誰かに自分からペアを組むように話しかけるなど、1度もなかったことだ。


 そんな2人のペアが注目を集めるのは致し方ないことだろう。


「で、私に何か用があるんだろ? 最近、昼休みに覗いてたのもお前か?」

「……気づいてた?」


 怜は背中を押す手を止め、軽く目を見開く。


「佐知かなとは思ってたけど。でも、佐知にしてはちゃんと気配を消してたから、夏休みに覗きの練習でもしてたのかとも思ってたんだが……今のお前の反応で、佐知がそんな馬鹿な練習をしていなかったことはわかったな」

「……そう」


 カマをかけられたことにはもちろん気づいている。

 だが、今度は表情を変化させることもなく。振り向いた葵の目を正面から見つめ、あくまでも淡々と答える怜。続けて、


「……何故、いつも昼はあそこに?」

「周りからの視線――ほら、これが鬱陶しいから」

「……それは同意」


 言いながら、2人は周りに視線を送る。

 すると、集まっていた視線が一斉に四方八方へ。

 怜は最後に、少し遠くから視線を送っていた――今は先生に思いっきり背中を押されて顔を真赤にしている男子をチラと見てから、


「……でも、今も?」

「ん?」

「……今もその理由だけ?」

「それはどういう意味だ?」

「……この前、あの場所に来てなかった。白告が図書委員の時」

「そうだったか? まあ、私も毎日あそこに行ってるわけでもないし。そういう日もあるだろ」

「……私も最初はそう思った。でも――」


 怜の問に淡々と。声の調子すら変化させることなく答えていく葵。だが、


「……白告とさっちゃんに興味がある」

「そういえば一昨日か。白告にそんなこと言ったな」

「……どういう意味?」

「そのままの意味だな。ただ、2人に興味がある。だから、今も体育なんて意味のない授業に参加している」


 ちゃんと学校に通うようになった葵だが、実のところほとんどの時間を保健室で過ごしていた。

 ……出席しているのは、体育や音楽、レベル別で分かれる英語など――2クラス合同で実施される教科のみ。

 生徒の中には、楽そうな授業だけ出ている――と、冷ややかな視線を送るものもいるのだが、葵は全く気にした素振りも見せず、あくまでも我を通していた。


「……さっちゃんに興味がある――のは、私も同じ」


 怜は葵のそんな行動自体には全く興味がなかったようだ。


「……何で、誰とでも仲良く話せるの? 私はそれが知りたい、興味があるから」


 自分の思っていること。

 愛花や真琴。佐知にすら話したことのない、自分の話。


「……だから、さっちゃんに興味があるのは理解できる」


 それを何故、ついこの間まで名前すら知らなかった葵には話しているのか。

 怜にも分からない。……いや、薄々分かってはいた。


「……でも、白告。あれの何に興味を抱くの?」


 ――白告浩雪。

 ただの親友の幼馴染で、ただのクラスメートで、ただの同じ委員会の男子。ただ、それだけの存在。

 実際、小学生の時も何度か同じクラスになっているはずだが、全く記憶には残っていない。……でも。


「……いつも人の顔色だけ伺って。誰の記憶にも残らないような言動だけをして――」

「私が白告に興味がある理由を知ったところで、意味はないと思うけど」


 考え事をしながら口を動かしていたからか。珍しく長い言葉を紡ぎ続けていた怜であったが、急に割って入った葵の声に遮られる。


 今まで黙って怜の言葉を聞いていた葵。

 口を開く前の一瞬。ほんの一瞬だが、表情が固まっていた。


「少なくとも、お前が佐知に興味がある理由と、私が佐知に興味がある理由は違うみたいだし、な」

「……それって――」


 準備体操が終わり、腰を上げながら最後に漏らした葵の言葉。

 その言葉に込められた意味とは。

 もう集合場所に向かって歩きだしている葵の背中に問いかけようとした怜であったが、その問よりも先に解決したい問題があったことを思い出す。


 結局、その後は授業が終了するまで2人が会話をすることはなかった。




 ――どうして気になる?

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