#15:海だ!
「海だ~!!」
その元気すぎる声に、老若男女手を止めて振り返る。
「いや、プールだし」
その後ろで若干恥ずかしそうに顔を赤くしながらも、ツッコミは忘れない男――白告浩雪。
その声に、元気すぎる少女こと梅川佐知は周りの目も気にせず振り返る。
「こーいうのは気持ちが大切なんだよ。ほら、浩君も一緒に――って、聞いてる?」
「聞いてる聞いてるてか冬馬はどうしたんだよ?」
そう早口で答える浩雪の顔が、先程よりも赤くなっているのは気のせいか。
少なくとも目が泳ぎまくっているのは気の所為ではないだろう。
「葵ちゃんは何か着替えるのに手間取ってた――あっ! 来たみたいだよっ!」
「そ、そう……かぁ?」
泳いでいた目を佐知の指差す方向へ。
今度は再び泳ぎだすことはなかったものの、思わず声が裏返っていた。
「ん? どうした?」
スタスタと二人の元まで歩いてきたモデルのようなスタイルの少女――冬馬葵。
ついでに周りの目線も引き連れてきたのだが、その理由はスタイルよりも……。
「あ、葵ちゃん。その水着……」
「ああ、待たせたな。小学生の時使ってたやつだから、ちょっと小さくて着るのに手間取ってな」
「しょ、小学生??」
「梅……佐知も知っての通り、中学ではプールの授業受けてないし。それに、着られればそれで問題ないだろう?」
葵は身に着けているスクール水着を軽く摘みながらそう語る。
まあ確かに中学一年生なのだから、公衆用プールでスクール水着を着てても一歩譲って変ではないだろう。
でも、葵は見た目も立ち居振る舞いも高校生に見えなくもない。それに……パツパツに張っているのだ。全体的に。
「だいたい梅……佐知の水着。そのヒラヒラとか何の意味があるんだ? 泳ぐのに邪魔なだけだろ」
「え~、可愛いじゃん。……ねっ、浩君もそう思う……よね?」
「……僕に振るなっ」
佐知の王道にして完璧な水着姿と、葵の邪道にしてある意味王道な水着姿。
結局どちらに目を向けても浩雪の顔が赤くなることに変わりはない。
「もぅ! ……折角この日のために選んできたのに」
ボソリと零した声は、もうプールサイド目掛けて歩き出している浩雪の耳に届くことはない。
「今日はいつもよりやけに視線を感じると思っていたが、この水着のせいだったのか」
一方の葵も何やら納得したような表情で頷いているだけで、佐知の独り言は幸いというべきか本当の独り言になっていたようだ。
そんなこんなで、夏休み初日の今日8月1日。3人揃ってプールにやってきているわけであるが、その理由は……。
「いや~、でもこうやって今日プールに来られてるのは2人のお陰だよ。改めてありがとねっ!」
「別に……梅川が頑張っただけだろ」
「そうだな。私達がどれだけ教えようと、梅……佐知が頑張らない限り赤点回避はできなかっただろうしな」
「えへへ……そうかな?」
プールサイドで準備運動をしつつ、そんな軽口を交わす。
期末テスト前の2日間だけとはいえ、つきっきりで勉強をしたことにより少しは仲が深まっているようだ。
「でも、やっぱり補修回避できたのは2人のお陰でもあるから。だから、今日は私が2人に教えてあげるねっ!」
「「うっ!」」
佐知の眩しすぎる笑顔に、なぜか渋い顔になる浩雪と葵。
「な、なあ。本当にやるのか?」
「そ、そうだな。白告はともかく、私は別に授業自体にでてなかっただけで――」
「遠慮はいらないよ。私は2人にお礼がしたいんだよ。だから、2人が体育――プールの補修を一発で合格できるように、今日は全力で頑張るからねっ!」
「「…………」」
――なあ、これは諦めるしか……。
――ないだろう、な。
やる気満々の佐知の後ろでアイコンタクトをとった2人は、互いの覚悟に相違ないことを確認。ぐっとため息だけは飲み込んで、意気揚々とプールに入っていく佐知の後に続いた。
「もう、2人共もっと楽しそうに――ほら、せ~のっ」
――海だ!
「名前で呼んでほしい――ってところか」
「へ?」
以外にも厳しい佐知教官によるプール教室も終わり、へとへとになった身体を引きずりなから夕日を背に家へと帰る道すがら。
「冬馬への命令。期末テストの勝負の」
「あっうん。そだよ」
「顔には出さないけど多分かなり困ってたぞ、あれ」
「あはは。でも、ちゃんと呼んでくれて嬉しかったな~」
「なんだかんだで律儀なやつなんだよな、あいつ」
「うん、そだね……」
反対方向の葵とはプールを出たところで別れたので、今は2人きりだ。
……なんだか、こうやって2人で家に帰るのが久しぶりのように感じるのは浩雪だけか。
「それにしても、浩君とこうやって帰りながら話すのって久しぶりだね」
「あ、そ、そうだったかな?」
「うん」
「そっか……」
「うん……」
「……そういえば、僕への命令はまだ決まらないのか?」
ほんの僅かの間だったが、訪れた変な沈黙。耐えきれずに口を開いたのは浩雪だ。
……ほんの前なら馬鹿なことでも何でも簡単に話題が出てきて時間が足りないぐらいだったのに。
「そだね……うん」
立ち止まり、浩雪の目をまっすぐに見つめてくる佐知。
相変わらずやんちゃな子供のように日に焼けている……でも、どこか記憶の中の彼女と違う部分があり。それが何か何なのかわからないが、妙な焦りや戸惑いを感じる。
「じゃあ、浩君にも命令させてもらおうかな」
流行だって、町並みだって……人だって。
時間が経てば変わっていく。そんなのは当たり前だし、年相応に理解もしているつもりだ。
「おほん。私から浩君への命令はね――」
――でも




