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こくはく[告白]:現実には実在しない空想の行為。  作者: 水樹 皓
なつやすみ[夏休み]:学生の特権。
24/32

#14−2:勝負!

「山田さん、何か凄い喜んでたね」

「そうだな」


 勉強の集中力が切れかけた丁度いいタイミングで、先程話に上がっていた冬馬家の家政婦さんこと山田さんがメロンを持って部屋に入ってきた。

 山田さんは特に何を言うでもなく3人分のメロンを机に置くと、そのまま退場していったのだが……。


「私、大人のスキップって初めて見たかも」

「僕もだよ。告白と同じで、大人のスキップもこの世に存在しないものだとばかり」

「じゃあさじゃあさ、大人のスキップは存在するって分かったんだから、告白も同じ――」

「いや、それはまた話が別だ。それより今は……」


 そこまで言うと、浩雪は回答を求めるように葵の顔を見やる。佐知も頬を膨らませつつも、浩雪の後に続く。


「ん、どうした? おかわりか?」

「え? おかわりして良いの??」

「――いや、違うだろ。山田さんのことだろ」


 早くも脱線しかけたところを何とか軌道修正。

 伊達に12年間幼馴染をやってきたわけではない。

 その言葉に、「あっそだった」と頭をかく佐知。


「山田さん、何であんなに嬉しそうだったのかな――って」

「ああ、そのことか。……あの人なら、いつもあんな感じだそ」

「えっそうなの??」

「そうだ」

「いつもスキップしてるの?」

「いつもスキップだ」

「へ~、凄いねっ!」

「そうだな。凄いな」


 そんな、まるでコントのようなやりとりを横で見ていた浩雪。

 ツッコミも入れず、ただ黙っていたのは、葵に珍しく余裕を感じられなかったから。下手に軽口を挟むと、彼女の地雷をあっさりと踏み抜きそうで怖かったから。だから……。


「それにしても、梅川。何でいきなり俺たちに勉強教えてくれ――だなんて? 中間のときと同じように、また黒間さん達に教えてもらえば良いんじゃないか?」

「うん、確かにそうなんだけどね。でも今回は、絶対に補修は避けたかったから。1位(、、)の浩君と2位(、、)の葵ちゃんに教えてもらえば、私でもなんとかなるんじゃないかな――って」


 薄くはにかみながら答える佐知に、浩雪はどことなく違和感を感じていた。

 うまく言葉にはできないが、佐知らしくないというか。普段の佐知なら言いそうにない言葉だったというか。

 ……まあ、浩雪の考えすぎなだけかもしれないが。


「絶対に、か。補修ってそんなに面倒くさいものなのか?」


 浩雪が押し黙っていると、葵から佐知へ、単純な興味本位で発したような声音で問いかけていた。


「う~ん。補修が面倒――っていうよりも、夏休みに野球部の試合があるんだけど。補修で応援に行けない――なんて、流石に言えないからね」

「ふ~ん?」

「……それとも、もし補修がなくても、応援なんて行かずに勉強してたほうが良いかな。私、馬鹿だし。……ねえ、浩君?」

「え? いや、応援は行けるなら行ったほうが良いんじゃないか。確か夏の大会って、3年生にとっては最後の大会だろ?」

「うん……そだね。そうだよね」


 何でいきなり僕に?

 そう思いながらも、素直に思ったことを口にした浩雪。首を傾げながら、自然と葵の顔を見やる。


「何だ? 私は白告に何を言われようが学校には行かないぞ」

「はい?」


 助けを求めたはずが、何の脈絡もない返しに一気に混乱。

 先程まで何を考えていたかも忘れ、ただただ目を点にして葵を見やる。


「知ってるか? 中学校なんて、一度も行かなくても卒業はできる」

「それはそうだけど……?」

「勉強も独学でどうにかなるレベルだ。実際、私はどうにかなっている」

「はあ……?」

「よって、中学校には行く必要がない。だから、私は行かない」


 最初は何のことやらで呆けていただけの浩雪であったが、段々と落ち着きを取り戻していく内に、葵のマイペースさに無性に腹が立ってきた。

 結果、ぼそっと漏れ出た言葉が、


「……でも、僕に負けてるじゃん」


 完全に煽るようなその発言。

 浩雪からそんな反応が返ってくるとは予想していなかったのか。葵は本当に一瞬だけ固まった後、すぐに満面の笑顔で――。


「じゃあさ、この中で一番点数が高かった人が優勝! で、他の2人に何でも1つ命令できるっていうのはどうかな?」


 まるで口裂け女のような顔をした葵が何か発する前に、こちらもまた別の意味でマイペースな少女がそう発していた。


「もし浩君が優勝したら、葵ちゃんに学校くるように命令すればいいし、葵ちゃんが優勝したら、浩君にもう何も言うなー!って命令すればいいし……どうかな?」


 佐知のほわんとした空気が、一瞬にして浸透する。


「それは……確かにそれが一番無難だけど……なあ?」

「ああ、そうだな」


 浩雪が目配せし、葵が頷く。

 先程までのやり取りが嘘のような息の合いようだ。

 そんな2人の反応を見て、佐知はキョトンと首を傾げる。


「それ、梅川に勝ち目ない勝負じゃん。実質、僕と冬馬の勝負ってことでいいのか?」


 浩雪が代表して答える。

 対する佐知が”しまった”という顔になる速度は光をも超えていたかもしれない。


「やっぱりか。……じゃあ、梅川だけ点数2倍――っていうのでどうだ?」

「私は良いぞ。まあ、それぐらいが妥当だろう」

「えっと……何か、複雑。でも、やるからには負けないよ! 本気で、だよ!!」

「当たり前だ。僕は手加減が嫌いだからね」

「私もうまく手が抜けるほど器用じゃないからな」


 完全にその場のノリで盛り上がっている感はあるが、葵すらも自分で気づかぬ内に笑みを見せている。

 それはやはり、この少女の影響なのだろう。


「よーし! ――いざっ」


 佐知は太陽のような笑顔を浮かべ、無意味に握りこぶしを天高く突き出す。



 ――勝負!

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