#13−2:勉強!
「今の話ホント!?」
「今の、というのはどれのことだ?」
「葵ちゃんが中間テスト2位だった――ってことだよっ!」
「ああ、それは本当だ」
「へぇ凄いねっ!」
「何だ、梅川は結果の張り出し見てないのか?」
「見たんだけどね。でも、張り出しに私の名前も見つけて……」
「ああ。そういえば、上位30名の横に書いてあったな」
「あっ葵ちゃんもやっぱり気づいてた?」
「まあ、流石に”梅川佐知”って同じ名前が5つも連続で列んでいれば、な」
「うん。まさか、私も全教科補修とは思ってなかったから。それ見た後、お母さんにどう説明しよう――ってそればっかり考えてたから。たはは」
『――ってちょっと待てい!!』
「「何(だ)?」」
一瞬で蚊帳の外へと追い出された浩雪。
先程まで浩雪がいたはずの場所にするりと入り込んできて、そのまま会話を始めた幼馴染こと梅川佐知。そして、こちらは絶対に天然ではなくわざとその会話にのった不登校少女こと冬馬葵。
2人の純粋(不純)な疑問符を受け止める。
「冬馬には色々言いたいことがありすぎるが……。とりあえず、梅川」
「ん?」
「お前、どっから湧いて出てきたんだよ!?」
無意識の内に、片付けやすい疑問から解消しようとするのは、人間の性か。
「えっと……ごめんね。ちょっと尾行してました」
「何で?」
「あのですね……。最近、浩君帰るの早いし、何してるのかな――と」
「……本当にそれだけか?」
「え? そうだけど……?」
「そ、そう……か」
先程までひねくれ者と話していたからか、佐知のこの純粋すぎる回答に、なにか裏があるのでは――と一瞬勘ぐってしまった自分に自己嫌悪。
「ごめん」
「え? 何で浩君が謝るのさ??」
「ああ、そうだよな。この中で一番謝るべきなのは……」
顔を見なくても分かる。
この状況を1番楽しんでいるであろう彼女が、今どんな表情をしているかなんて。
「冬馬お前、絶対気づいてただろ?」
「い、いや……ど、どうだろうなぁ?」
今、彼女がお腹を抑えて肩を小刻みに震わせているのも、
「あ、葵ちゃん? お腹痛いの?」
「心配するな。コイツは今、自分と戦ってるだけだから」
「ほえ?」
「まあ、その戦いももうすぐ終止符が――」
「くくくっ。あっはははははっ! 駄目、もう無理だっ!」
急に顔を上げたかと思えば、いつぞやと同じ様に、目尻に涙を浮かべつつ盛大に笑い声を上げた葵。まあ、その笑い声は子供のような純粋な理由から生まれたものではないが。
「あ、葵ちゃん……?」
流石の佐知も、あっけにとられたようだ。
「え、えっと……浩君?」
今もなお笑い続けている葵を指差し、浩雪に助けを求めてくる。
「だから心配するなって。こいつはこういうヤツなんだよ」
「そ、そうなんだ……?」
安心させるためにそう言い切ったが、浩雪もそこまで自信満々に言えるほど冬馬葵という少女について何も知らない。……そう、出会ってから1ヶ月以上経つが、結局ほとんど何も変わっていない。
あの日――勘違いして佐知の家へ乗り込んだ日以来、今日まで一度も彼女のもとへ足を運んでいなかった――運べなかったから。
なにか理由がないと……そう思って、無駄に1ヶ月も掛けて、色々な理由を探して動き回って……。
「浩君?」
「え?」
「大丈夫……?」
「ああ、何でもない」
「そう? なら、良いんだけど」
相変わらず消極的な自分の行動を振り返っていると、隣から聞くだけで元気を分けてもらえるような声。浩雪は切り替えるように、軽く頭を振る。
「そう言えば、梅川。お前、何で急に出てきたんだよ?」
「あっ、そうだった」
若干無理のある話題の変更。佐知はともかく、葵は確実に気づいただろうが、特に何も言ってこなかったことに一安心。
「2人にお願いがあるの」
「お願い? って、冬馬にも?」
「うん」
「いやいや。僕はともかく、冬馬が誰かのお願いなんて――」
「別に良いぞ。私に叶えられるお願いなら」
「ほら、こいつはこういうヤツなん……え?」
「ありがとっ!」
思考停止する浩雪に代わって、佐知がずいっと葵との距離を詰める。
「で、私は何をすれば良いんだ?」
「えっとね、教えて欲しい事があるの」
「この私が人に教えられることなんてあったっけ?」
「もちろんだよっ!」
「へえ。何だろうな」
「それはねぇ……」
興味深げに顔を覗き込んでくる葵。
心ここにあらずの浩雪。
2人の顔を交互に見た佐知は、一旦溜めるように閉じた口を開く。
――勉強!




