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こくはく[告白]:現実には実在しない空想の行為。  作者: 水樹 皓
なつやすみ[夏休み]:学生の特権。
20/32

#12:椅子!

「……椅子」


 お昼の図書室。


「……椅子」


 まだ開室前なので、物音一つ立たない……?


「……椅子」


 そんな快適空間で漫画に熱中しているのは、白告(しらつ)浩雪(ひろゆき)こと漫画バカ。


「……椅子」


 ……完全に漫画の世界に入り込んでしまっているようだ。


「……椅子」


 はてさて、先程からこの快適空間にポツリと鳴り響いているこの声。

 安心してほしい。決してあなたにしか聞こえていない声ではない。

 

「……椅子」


 声の主――浩雪と同じ図書委員の黒間(くろま)(れい)

 浩雪の後ろにそっと立つその姿は、さながら背後霊のようだ。



 ……だが、浩雪は漫画のページを捲るのみ。



「……椅子」


 怜は最後にもう一度呼びかけるも、やはり反応が帰ってこないことを確認すると、浩雪の後頭部を軽く睨み……。

 強引に浩雪の後ろを通り、定位置(浩雪の隣の椅子)へと向かうことに。


 ……ちなみに、浩雪――図書委員が座っているカウンターの中は狭い。

 椅子がなくても人1人がやっと通れる――というぐらいなので、椅子に座る浩雪の分道が狭くなっている現状、小柄な怜でもつま先立ちでカニ歩きをしてやっと通れるか、というところだ。……なので、少しでもバランスを崩すと身体の何処かが――。


「……通れた」


 ……愛花や佐知。何なら真琴でも、女性的なとある部分が浩雪の後頭部にでも当たり、ラッキースケベ的な展開になっていたであろうが……。


「……通れた?」


 すんなり通れてしまったことに、変な落胆を覚える怜。


「いっ――黒間さん?」

「……まだ成長期」

「はい?」


 椅子に強い衝撃を受け、反射的に顔を上げた浩雪。その視線の先には、何時の間に現れたのか、もう一人の図書委員の姿。

 ――と同時に、開室の時間になったのか、人が疎らに図書室へと入ってきた。


「って、もうそんな時間か」

「……計算通り」


 それを認識した浩雪は漫画を片付け、怜は図書委員用のエプロンを身に着けて。


「これ」

「……ん」


 図書委員の仕事も、もう4カ月目。

 ――とは言え、この2人はお互い碌に声を交わさないのに上手く連携が取れてしまっている辺りが、図書室の先生から密かに評価を集めてしまっているらしい。


「……アレは?」

「そっち」


 ……そんなこんなで、いつも通り卒なく仕事をこなしていった2人。

 閉室後の最後の仕事――返却本を棚に戻している最中。いつもは図書委員の仕事に関係ない話などしない2人であるが……今日は少し様子が違っていた。


「……昼休みどこにいる?」

「え? ……いや、今は図書室にいるだ――っあ、危ないだろいきなり椅子蹴るなっ!!」


 本を棚に戻しながら答えると、その小柄な身体のどこから繰り出されたのか、強烈な蹴りがクリーンヒット。浩雪はなんとか体勢を持ち直すと、眼下の怜へと珍しく大声を飛ばす。

 しかし、一方の怜は脚立を支え直していつも通り淡々と、


「……さっちゃんが心配してた」

「梅川が? ……いや、別に僕が何をしてようが僕の勝手だろ」

「……さっちゃんが心配してた」

「いや、だから――」

「……あれはやっぱり勘違い?」

「はい?」

「……もう良い」

「――って手を離すなっわかった僕が昼休み何をしてるかだろ!?」

「……そう」


 その大人しそうな見た目に反してやることが凶暴すぎる。

 変にすっとぼけ続けたら、次は本気で椅子から落とされかねない。


 そう悟った浩雪は、身体を犠牲にしてまで隠すことでもないし――と、素直に下手な抵抗を諦めた。


「……噂好きな子?」

「そうだよ。それも、どんな噂でも信じてしまうようなバカな子――な」

「……探してどうする?」

「え? 別にどうもしないけど――」

「…………」

「だから無言で椅子蹴るの止めろくださいっ!!」


 無表情な分余計に怖い……。


「……言いたい事はもっとはっきり」

「いや、お前にだけは――何でもない」


 今度は本当にすっとぼけでない事を理解してもらえ、一応身体の無事は確保。

 ……だが、納得いかないのは決して浩雪の心が狭いからではないだろう。

 しかし、愚痴さえ命取り。今、浩雪の命は文字通り怜が握っているのだから。


「……多分、真琴が知ってる」


 さっさと仕事を片付けようと本棚に向き直ると同時、ポツリとそんな言葉が飛んできた。

 流石の浩雪もその一言だけでは何も理解できず、首を傾げて再び顔を下へ向ける。


「……真琴、声大きいから」

「えっと……?」

「……探しているのは、さっちゃんのため?」

「何でまた梅川の名前が出てくるのかは分からないけど。探している――っていうのは、さっき僕が話してた“噂好きな子”の事だよな?」

「……ん」

「誰のためっていうと、これは……冬馬……のためってことになるのか?」

「……誰?」

「だから、冬馬だって」

「……誰?」

「いや、だからとうま……え、本当に知らない……?」


 まさか、この学校――ましてや1年生で未だに冬馬葵のことを知らない生徒がいようとは。


 入学半月で学校の半分以上の男子から告白されてる――という、今では下火となった噂で学校中の話題となったあの有名人のことを。

 一度も学校へきていないはずなのに、中間テストの結果張り紙の学年2位の欄に何故か名前が載っており、また少し話題になったあの有名人のことを。


「……とうま?」


 この少女は本当に知らないようだった。

 そして、心底どうでも良さそうに、


「……それなら、もう良い」


 と、もう話は済んだとばかりに口を閉ざすと、”さっさと手を動かせ”とただジッと見上げるのみの体勢へと移った。


「こっちは全然良くな……はぁ。わかったから、とりあえず押さえてくれ」

「……何?」


 いやいや、こっちはモヤモヤが解消できてないんだけど――などとは言える状況ではないので、浩雪は無言の圧力に素直に屈服。



 ――椅子!

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