#11:尾行!
衣替えも終わり、すっかり夏の様相を示した教室内。
「……ねえ、真琴ちゃん?」
「ん、何や?」
時は昼休み。
丁度昼ご飯を食べ終わった頃合いで、各々自由に昼の一時を過ごしている。
そんな中――。
「テスト……嫌だぁ~!」
佐知はそう叫ぶと、ぐったりと机の上に崩れ落ちていた。
教室中の視線が一瞬集まるも、その大声の元が佐知だと分かると、皆”何だ、いつものことか”と元の態勢へと戻る。
一方、変わらず佐知の日に焼けたうなじを見下ろす者が3人。
「ははっ、中間の時は余裕綽々やったのにな~」
「……自業自得」
「え、えっと。さっちゃんでも頑張れば何とかなるよっ……多分」
そんな容赦ない声を浴びせかけられた佐知。「う~」と情けない声を漏らした後、ガバッと勢い良く顔を上げる。
「このままだと夏休み無くなるよ〜っ。もうあの補習は嫌だ〜っ!」
「そんな情けない声出さんでも。まだテストまで1週間もあるのに。それに、勉強会ならまたやったるから、な?」
「……勿論」
「わ、私もそんなに頭良くないけど、英語だったら自信あるからっ!」
「み、みんな~っ!!」
そんな屈託のない反応に、真琴は”かかかっ”と笑い声を上げると、「それに……」と、佐知の後ろの席に目を向け、
「佐知は学年1位にも教えてもらえるやろ? 確か、中間の時もめっちゃ気合い入ったノート貰っとったやん」
「う~ん。でも浩君、最近なんか忙しそうにしてるんだよね。今もどっか行っちゃってるしさ」
佐知は後ろの空席を見つめながら、どこか寂しそうな表情でそう答える。
放課後になるとチャイムが鳴り終わる前に姿を消しているし、休日に浩雪の家に行ってもいつもどこかに出掛けてしまっている。
少し前までは、家に行くと必ず浩雪がいて、なんだかんだ文句を言いつつも部屋に入れてくれて、1日中一緒に漫画を読んでいたはずなのに……。
「本当、どこ行ってるんだろう」
「……図書室」
「ほぇ?」
ぼそっと漏れ出た独り言に、思わぬところからの反応。
佐知は呆けた声をだしながら、声の出どころ――怜の顔を見上げる。
「……白告、今日当番だから」
相変わらず薄い表情の怜は、やはり相変わらず短く答える。
だが、それを聞いた佐知は、合点がいったというように大きく頷いた。
「そっか。浩君も怜ちゃんと同じ図書委員だもんね……あれ? 怜ちゃんは今日当番じゃないの?」
「……ん。開始は5分後だから」
「そっか~。じゃあ、後4分はおしゃべりできるねっ!」
「なんでやねんっ!!!」
笑顔で答える佐知に、真琴からの流れるようなツッコミ。
その隣で、愛花も控えめながら「じょ、冗談だよね?」とツッコミを入れる。
「なんや、いつも10分前行動してる怜にしては珍しいな。そんなに図書委員の仕事面倒くさいんか?」
「……イライラする」
「お、おぅ。これまた直球やな」
「……図書室には沢山の面白い小説がある」
「ん?」
「……なのにいつもそれを無視して漫画ばかり読んでるから」
「んん?」
何やら会話がズレているような……?
そう首を傾げる真琴であったが、怜の短すぎる言葉では、何がどうズレているかまですぐに判断できない。
「……でも、アレのせいで遅刻するのも癪」
「あっもう行くの? 頑張ってきてね~」
「が、がんばって」
結局、首を傾げたままの真琴を残して、怜は教室を後に。
「……あ、なるほど」
1人考え続けていた真琴であったが、怜が立ち去ってから数秒後にはどこかスッキリした表情。続けて、イタズラを思いついた子どもの様に口の端を吊り上げて、
「にしても、佐知さんや」
「どうしたの真琴ちゃん?」
「いや〜、恋する乙女は大変やな〜と思ってな」
「は、はへ!? こ、恋って、だから私は浩君のことなんて……」
「ん? 誰も白告のことやとは言ってへんねんけど?」
「……あっ。そっか」
まあ、いくら誤魔化そうがバレバレだけど。
バレてないのは浩雪本人と……ワンチャン愛花ぐらいのものだろう。
「好きの反対は嫌いじゃなくて無関心。それも、普段からあまり人に関心を持たへんような人なら尚更、やろうからなぁ。まぁ、どうなるかはまだ分からへんけど」
「へ??? ……ね、ねぇ、愛ちゃんは真琴ちゃんが何言ってるか分かる?」
「え、えっと……なんだろうね?」
「くくっ、2人はまだまだお子ちゃまやのぉ」
目を点にする2人を見て、真琴は再度笑い声を漏らす。そんな中、ふと思い出したように、
「――と、そう言えば、佐知は野球部のキャプテンに告られてるんやったか? 中間の勉強会乱入事件で白告がそんなこと言っとったやん」
「だから、そんなのないってば」
「まあ、あの後確認したけど、確かにそんな噂すら流れとらんかったしな」
「確認?」
「隣のクラスにそーいう噂好きの知り合いがおってな。まあ、それはどーでもええねん。それより、白告のことや」
「浩君?」
「そうや。今は図書委員の仕事に行ってるだけらしいけど、最近行動がおかしいとは思わへんか? いっつも休み時間は呆れるぐらい漫画読んどったはずやのに、最近はいつみても席におらん」
「そうなんだよっ! 放課後も休みの日もいっつもどっか行っちゃってさ。なんか……なんか、何かなんだよっ!」
「え、えっと、モヤモヤ?」
「そうっ、それだよ愛ちゃん! なんかモヤモヤなんだよっ!」
愛花の控えめな助言に、すっきりとした表情でそう答える。
そしてその答えを待ってましたと言わんばかりに、ニヤリと口の端を釣り上げた真琴。だがそれは心の中だけで、実際はトボけたように素の表情で、
「ほんなら、確認したらええやん」
「確認?」
「そうや。確認、や。佐知の得意なやつやろ?」
「私の得意……あっ!」
佐知の頭上に豆電球が灯る。
――尾行!




