#10−3:……勘違い?
表情を一変させ、呆然とした顔つきになった浩雪。
その目に映っているのは、ベッドの上に倒れ込む佐知と、その上に馬乗りになる真琴。
「――ん?」
その真琴も一拍遅れで浩雪の存在に気づいたのか、部屋の入口を振り向き、2人の視線が交わる。
一方、その手がようやく止まり、身動きが取れるようになった佐知も、真琴の視線の先を追いかける。
「あれ、浩君? どうした――」
すぐに幼馴染の姿を捉えた紗千であったが、その声は途中で途切れた。
「おいお前っ! 何してんだよっ!」
「な、なんや!?」
一足飛びでベッドへと駆け寄ってきた浩雪が、そのまま真琴へと掴みかかってきたからだ。
真琴は咄嗟に両手を出し、迫ってきた浩雪の両手首を掴んで抵抗することには成功。
「クソッ。まさか冬馬の言ってた通りになってるなんてなっ!」
「だから何やねんいきなり!」
「お前らそんな事して楽しいか?」
「はぁ!? だから何のことやって? いきなり部屋入ってきて」
ベッドに仰向けになっている佐知の真上では、浩雪と真琴の押し合いが繰り広げられることに。
「え、え、えっ……??」
いきなりのことで頭の回転が追い付かない佐知は、意味のない言葉を発して目を回すしかできない。
そんなベッド上の3人の他――。
「や、やっぱり男の子なんて……」
愛花は、突然現れてそのまま真琴へと掴みかかっていった浩雪に完全に怯えてしまい、頭を抱えて小さくうずくまっていた。
そして、愛花の直ぐ傍に座っていた怜は、その震える背中に「……大丈夫」と一言声を掛けた後、ゆっくりと立ち上がり……。
「梅川がお前らに何かしたか? 野球部のキャプテンに告白されたのがそんなに羨ましいか?」
「は? 告白?」
「ハッまだとぼけるつもりか――」
「……煩い」
パチンッ――と、乾いた音が鳴り響く。
次いで、今までの騒がしさが嘘のような静寂。
「れ、怜ちゃん……?」
一番最初に口を開いたのは、頬を抑える浩雪でも、珍しく素で驚いた表情をしている真琴でも、頭を抱えたままの愛花でも、手を振りぬいたままの状態で静止する怜でもない。
佐知は無意識の内に、ベッド脇に立つ友人の名前を呟いていた。
「……勘違い」
怜はその声に応えるように、また一言だけ呟く。
「勘違い……?」
と、今度は浩雪が反応する。今ので頭が冷えたのか、その声は先程までよりも落ち着いていた。
「……真琴」
「へっ、な、何や?」
「……さっちゃんに何してた?」
「何って……さっきの事か? それは、軽いスキンシップっていうか……マッサージ?」
「あ、あれのどこがマッサージなのさっ!」
「気持ちよかったやろ?」
「全然っ! 真琴ちゃんにもやったげようか?」
「あ~、それは遠慮しとくわっ」
「あっ、逃げるなー!」
話している内に早速いつもの調子を取り戻した2人は、そのまま部屋の外へと走っていってしまった。
一方、その背をポカンとした表情で見送った浩雪。そのまま部屋の外から聞こえてくる騒がしい声を耳にしながら、数秒間固まった後、
「えっと……勘違い?」
「……そう」
「そう……か」
今の平和過ぎるやり取りを見て、怜の短い言葉の意味を理解していた。
理解……したのは良いのだが、今度は、自分のバカさ加減も理解してしまい、顔を若干歪める。
「……僕も人のこと言えないな」
「……?」
「ああ、ごめん何でもない。それより……」
「……問題ない」
「え……?」
「……私が説明しておく」
「いや、でもそれは――」
「その方が楽。もう帰って」
怜にしては珍しく、ぴしゃりとそう言い返す。
その遠慮ない言葉を受けた浩雪は、数秒だけ迷いを見せた後……。
「じゃあ……任せる。あの……真琴さん?にも、いきなり掴みかかったりしてごめんって伝えといて」
「……了解」
確かに今は彼女に任せた方が良い。
そう判断した浩雪は、最後にそれだけ言い残し、佐知達には顔を合わせないようにして家を後にした。
「…………」
門扉を出て、そのまま向かいの家に入っていく浩雪。
怜は窓際に立ち、その姿をジッと見送る。
――……勘違い?




