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こくはく[告白]:現実には実在しない空想の行為。  作者: 水樹 皓
うわさ[噂]:往々にして虚言が真実へと昇華する言伝。
15/32

#9−3:バカ

「そうか」


 その、一言だけ。

 表情にも全く変化がなく……。そう、まるで、浩雪なんかにまるで興味が無いような。


「でも、白告の彼女は見るからに友達多そうだったな?」

「……だから、彼女じゃないから」


 そう思っていた矢先、話が佐知の事になり、応える浩雪の声も自然とぶっきらぼうなものになる。

 だが、葵はその浩雪の反応にも眉根1つ動かさず、


「大きなカバンを持っていたが、今日は何かあるのか?」

「さあ? 家でお友達とお勉強することしか知らないね」

「そうか。それは楽しそうだな」

「気になるなら参加してくるか? 僕が話を付けてやるよ」

「いや、私は遠慮しておくよ。そんな”愉快な”お勉強会は、な」

「……愉快?」


 わざと強調する様に発したその言葉に、浩雪は眉根を寄せる。

 すると、葵は「なんだ、知らないのか?」とわざとらしく目を丸くして、


「白告の彼女……梅川紗千だったか」

「……何であいつの名前」

「最近、うちの中学の女子の間でこんな噂が流れていてな。なんでも、”1年4組の梅川紗千ってコ。野球部のキャプテンに告られたんだって!”」

「……は?」

「ああ。ちなみに、その野球部のキャプテンとやらは女子の間でそれなりにモテてるらしいぞ。私も1度だけ見たことがあるが、アイツらがキャーキャー騒ぐのも、まあわからんでもない面だったな」

「……そ、そう。……ででん?」


 ――それがどうした?

 何でもない風にそう言おうとしたのだが、何故か上手く舌が回ってくれず、変な効果音を奏でるに終わった。

 そんな間抜けな効果音にも、しかし葵は軽く俯くのみ。

 羞恥に顔を赤くする浩雪に対し、葵は俯いたまま、


「わからないか?」

「な、何がだよ」

「梅川紗千は今、家でお友達とお勉強会中。家の中に家族はいるかもしれないが、恐らくお勉強は自分の部屋でやっている――つまり、そこには梅川紗千とその友達しかいない」

「まあ、そうだろうけど……?」

「なら、今頃は”愉快な”――本人(うめかわ)以外は愉快な、本人(うめかわ)にとっては屈辱的なお勉強会(サプライズ)が繰り広げられてるんだろうな。私はそんな愉快な所、頼まれても行きたくないね」

「……おい」

「なんだ?」

「なんでそんな事、お前にわかる?」

「ふっ。馬鹿な噂1つですら、いつもニコニコ接してきてた奴らが、次の日には敵になるんだぞ? なら――」

「ふざけるなっ! あいつが――あいつの友達がそんなことするわけないだろっ!」


 怒鳴りながら、再び顔を赤くする。

 だが、そんな浩雪を前にしても、やはり顔色1つ変えない葵。

 俯けていた顔を上げると、あえてゆっくりと、何かをほのめかすように、


「何か、思い当たる節はないのか? 最近、彼女に何か変わったところとか……」

「そんなの――っ」


 勢いのまま言い返そうとした浩雪だったが、寸での所で言葉を引っ込めた。

 1つ、思い当たることがあったから。


「……そう言えば」


 ――部屋に入れてくれなくなった。

 つい1カ月程前までは、夕飯を食べに行った時など、普通に部屋に行ったりもしていたが。最近は、遠回しにではあるが、浩雪が佐知の部屋へ行かないようにしている風に感じるのだ。

 それは、もしかしたら、部屋に何か見せなくない物が……。


「何か思い当たる節がありそうだな?」

「いや、でも……別に、言動はいつも通りだし」

「そんなの当たり前だ。女の世界は怖いと言ったろ? そんな素振り、他人に見せるわけないじゃないか」

「…………」

「良いのか? 今もお前の助けを待ってるかもしれないぞ? ……『浩君助けてっ――」


 浩雪が黙っていると、葵は声音を変えて――そう。まさに今、浩雪の頭の中に浮かんでいるその子の声そっくりに。

 そして、その声が耳に入ると同時、


「――っ!」


 浩雪は駆け出していた。

 考えるよりも先に足を動かして。

 年数劣化のせいで、妙に重くなった扉が迫ってくると、そのまま反射的に押し開けて。

 そのまま、明るい世界に飛び出して行った。


「……ふっ」


 その後ろ姿を、ただ黙って。目だけを細めて見送った葵。

 

「ででん――か。アレは流石に笑いを堪えるのに苦労したぞ」


 鈍い音を立てながら閉まる扉の音に混じり、苦笑混じりに呟く。


「それにしてもあいつ。何の躊躇もなく飛び出して行ったな……」


 そして、扉が締まる音も鳴り止み……外との空気は、完全に遮断された。



――バカ
















「はぁ、はぁ、はぁ……」


 肩で大きく息をして、目の前の一軒家を見上げる。

 夕焼けに照らし出されるその一軒家は、大きくもなく小さくもなく。どこにでもある、平凡な家だ。

 そして、浩雪にとっては我が家の次に見慣れた家で、いつもなら見ただけでどこか安心するような家で……。


「クソッ。冬馬の奴、ふざけた事言いやがって」


 だが、今の浩雪には、安心よりももっと別の感情が湧き立っていた。


「そうだよ。大丈夫に決まってる。アレは冬馬の戯言だ。これは、ただの確認……いや、昨日貸したノートを返してもらいに来ただけだ」


 ブツブツと呟き、自分の中で沸き立つ不安を払拭する。

 そして、いよいよ覚悟を決めた浩雪は、その手をインターフォンへと――


『助けてっ――』


 その声は、確かに聞こえた。

 そしてその声を、浩雪が聞き間違えるはずもない。


「――っ」


 声が聞こえた次の瞬間には、浩雪は佐知の家へと飛び込み、そのまま階段を駆け上がっていた。

 2階手前から2番目の部屋。幼い頃から何度も訪れてきた――しかし最近は1度も入っていなかった部屋。


「梅川――ッ!?」


 大声と共に扉を乱暴に押し開け、約1カ月ぶりとなる部屋の中へ。

 そして、その中に広がっていた光景を目の当たりにした浩雪は……。


「な、なんだよ……これ……?」


 思わず呆然とした顔つきになり、そのような言葉を吐いていた。

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