#9−1:バカ
「……本当にごめん」
「はぁ。だから、白告は変に意識し過ぎだ」
ゲームセンター入口付近のゲームの筐体。
浩雪と葵は昨日と同じ椅子に腰かけ、対面していた。
「このゲームのキャラだって……ほら、見えてる」
葵は謝る浩雪に溜息を吐くと、プレイ途中だったゲームのキャラを軽く操作して、わざと敵にやっつけられた。すると、元々面積の少ない衣服が所々破け、かなりきわどい姿に……。
「こんな布如きでいちいち騒ぎすぎだ」
「如きって……。それにやっぱり、見られたら恥ずかしいだろ?」
「全然?」
「――って言いながらスカート捲るなっ!」
葵がひらりと持ち上げたスカートから慌てて目を逸らす。続けて、ゲームオーバーとなった筐体の画面に映し出されている、かなり露出度の高い少女をビシッと指差すと、
「これはあくまでもゲームだ。そもそも現実でこんな恰好してる人なんかいないだろ」
「いや、いるぞ?」
「そんなわかりやすい嘘――」
「コミケに行ったらそこら中にいるだろ」
「は、何だそれ?」
「コミックマーケット」
「古本屋か?」
「そうか、知らないなら別に良い。それより、私はこんな布を白告に見られたところで何とも思ってない。だからもう謝るな。良いな?」
「……わかったからいい加減スカート下ろせ」
反発しても無駄だと悟った浩雪は、筐体の画面に目を向けたままそう言い返す。
……が、隣の葵からは動く気配すら感じられず。
「おい……? 僕はわかったからスカートを下ろせと言ったんだけど?」
「そうか。なら、もう1つ私の言う事を聞いてもらおうか」
「……何だよ?」
――何でスカートを下ろしてもらう為に言う事聞くとか、そんな話になってんだ?
そう思いながらも、渋々聞き返すと――。
「もう、ここには来るな」
「……っ!?」
その言葉に、思わず顔を葵の方へと向ける。
ずっとスカートを捲し上げたままの状態で静止していると思っていたが、空中で静止している手からは、既にスカートは放されていた。
だが、浩雪はそんな事に気付く余裕すらない。
「来るなって……?」
「そのままの意味だ」
「な、何でっ」
わからない。
何で急にそんな話になるのか。
「簡単な話だ。ここは白告の様な奴が来るところじゃない」
「は? 僕みたいなって――」
「ほら、周りを見てみろ」
「周り……?」
促されるがまま、薄暗い店内を見渡してみる。
外から見ていた時の想像より、それなりに広い店内。入り口付近には浩雪と葵の他に人はおらず、少し奥の方に目を向けると、煙草を吸いながらメダルゲームをしている小太りの中年男性が1人。
「あれは恐らく何時までも親の脛をかじってるニートだな。いつもあそこで滝のように金を捨てている」
「…………」
葵が淡々と紡ぐ容赦のない言葉に、浩雪は何も言い返せぬまま。
更に店の奥へと目を向ける。
「あそこで騒いでる若者2人は大学生だろう」
「いや、若者て」
今度は思わず突っ込みが口をついて出ていた。
あのシューティングゲームをしているチャラそうな男性2人よりも、アンタの方が1周りは若いだろう、と。
「講義にも碌に出席せず、大学に多額の寄付をしている仏の様な奴らだ。まあ、その金をあいつ等が出してるのかは知らんが」
「…………」
またもや言い返せず。葵が視線を右方へ動かすと、浩雪も同じく動かす。
そこには、スーツ姿で30歳前後の、眼鏡をかけた気弱そうな男性が、格闘ゲームの筐体前にポツンと座っていた。
「あ、あの人は普通の――」
「あれもニートだな」
「え? いやでも、スーツ……」
「平日のこんな時間にゲームセンター――しかも手ぶらであんな辛気臭い顔してる奴が普通の会社員に見えるか? 恐らく、親には就職していると嘘をつき、その実働き口すら見つからず、いい加減な時間になるまでここで時間を潰してる――といったところだろうな」
「…………」
もはや、口を開くことすらできなくなった。
黙って葵の推理を聞いてると、彼女は最後に最奥――店員カウンターの方を指差し、
「まともなのはあの店員ぐらいだな。まあ、アイツも開店から閉店まであそこにただ座ってあくびをしているぐらいだが。それでも、ちゃんと働いているだけここにいる奴らよりはマシだ」
薄暗い中でも良く目立つ、黄色い制服を着た30代半ばの男性店員。
最後にそれを一瞥した後、浩雪と葵はどちらからともなく視線をお互いの顔へと戻した。
そして、先に口を開いたのは……。
「確かに冬馬の想像通りなら、碌でもないけど。……でも、冬馬は違うだろ?」
「私? ……くっ」
「冬馬……?」
葵は一瞬ポカンとした表情をした後、俯いて変な声を漏らした。
そして、そのまま数秒間停止。その長い黒髪で表情も隠れているので、どうしたのかと浩雪が困惑していると――。
「くくくっ。あっはははははっ!」




