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こくはく[告白]:現実には実在しない空想の行為。  作者: 水樹 皓
うわさ[噂]:往々にして虚言が真実へと昇華する言伝。
11/32

#8−1:紫

「……お前、何やってんの?」

「ふへっ!? ……って何だ、浩君か」


 下校途中の商店街。

 発見したのは、錆びれた自動販売機に、変な恰好で張り付いている幼なじみ。

 正直スルーしたかったのだが、思わず心の声が漏れ出ていた。


「もう、驚かせないでよ~。ほら、取りあえず浩君は下ね」

「何でサラッと僕を巻き込もうと――っておい服を引っ張るな伸びるっ!」


 有無を言わさず引っ張られ、あっという間に定位置……というのは甚だ遺憾だが、昨日と全く同じ体勢にさせられていた。

 昨日と同じ……そう。ここは、昨日と同じゲームセンター前の自動販売機だ。

 そして、目をキラキラとさせた佐知の見つめる先には……。


「……なんだ、やっぱり今日もいるじゃん」


 こちらも昨日と全く同じ筐体の前に座る、長い黒髪の中学生。

 その姿を確認した浩雪は、自然と表情を和らげていた。……が、すぐに現状を思い出すと、


「お前、勉強はどうした?」

「やってるよ。――あっ、昨日ノート持ってきてくれてありがとね。凄く役に立ったよ」

「そ、そうか……」


 頬が緩みそうになるのを堪え、適当に頷く。

 そして、昨日の教訓を生かし、顔はゲームセンター内に向けたまま。


「てかお前さ、今日は家で勉強会するんじゃなかったか?」

「浩君よく知ってるね〜」

「あ~、まあ、ちょっと小耳に?」

「そうなんだ? 確かに、浩君の言うとおり勉強会はするよ。愛ちゃん達には先に私の家に行ってもらってるんだ。……あっプリントはちゃんと私も運んでるよ?」

「そうかそうか。……で、梅川だけわざわざこんな所で立ち止まって、何をしているんだ?」

「そんなの決まってるよ」


 頭上から聞こえてくる得意げな声に、何となく嫌な気配を思え始めていた浩雪。

 本当は今すぐにでも逃げ去りたかったのだが、自分よりも遥かに運動神経の良い佐知がそれを許してくれるはずもなく。


「……まさか、覗き見なんて言わないよな?」

「え? まさか~、私がそんなことするわけないよ~」

「だ、だよな? じゃあ――」

「告白の瞬間を見に来たんだよっ!」


 その答えは、予想の斜め上を行き過ぎていて。……いや、もしかしたら、頭の片隅では考慮していたのかもしれないが。

 とにかく、浩雪の思考を停止させるのには十分だった。


「あの子って葵ちゃんだよね? いや〜、見るの久し振りだったから、昨日は気付かなかったよ」


 ――こくはく……?


「浩君は昨日気付いてたの?」


 ――誰が誰に……?


「聞いてる? あっ、もしかして、また私が勉強しないからって怒ってる?」

「…………」

「さっきも言ったけど大丈夫だよ。今日は告白の瞬間を見たら、ちゃんと直ぐに帰って勉強会するからさ」

「……嘘だね」

「だから嘘じゃないってば~」

「いや、嘘だ」

「もうっだから――」

「じゃあ誰が誰に告白するんだよっ?」

「え、告白?」

「梅川がさっき自分で言ったんだろっ」


 浩雪は声を荒げつつも、その目はあくまでもゲームセンター内を見つめたまま。

 一方、佐知は浩雪の頭を見下ろすと、その急な機嫌の変化に若干戸惑いつつ、


「あ、葵ちゃんに?」

「誰がっ!?」

「……誰かが?」

「ダレカ? ダレカって誰だよっ!」

「そんなのわかんないよっ誰かなんだからっ!」


 普段とは明らかに異なる幼馴染の様子。

 それに、流石の佐知も戸惑いを隠し続ける事はできず、


「……ねぇ、浩君? 何か怖いよ?」


 そう、恐る恐る声を掛ける。

 その何処か怯えの混じった佐知の声。

 それは、浩雪に冷静さを取り戻させるのには十分だった。


「……悪い、何でもないから」

「そ、そう?」

「ああ。そもそも、告白なんて現実には存在しない空想の行為だからな」


 そして冷静になった浩雪は、つい1か月前に言い放った自論を口ずさんで、「そうだよ。僕は何を馬鹿なことを考えてたんだ」と1人頷く。


 ……そして、その言葉にピクリと反応するものが1人。


「ふっふっふ……」

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