表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こくはく[告白]:現実には実在しない空想の行為。  作者: 水樹 皓
うわさ[噂]:往々にして虚言が真実へと昇華する言伝。
10/32

#7:さよなら

 まさか、このタイミングで1カ月前の報復を受けようとは。

 思いっきり蹴られ、今も尚ヒリヒリする顔面をハンカチで押さえながら、浩雪はゲームセンター内の筐体前の椅子に腰かけていた。


「……いきなり蹴ったのは謝る」

「いや、まあ、当然の報いと言うか……」

「なんだ。じゃあやっぱりお前がっ――」

「違う違う違うっ! ストーカーじゃないからその足下ろして!」


 同じく隣の筐体前の椅子に腰かけていた少女――冬馬葵は、立ち上がってその長い足を振り上げたが、浩雪の必死の声に、振り下ろす寸前で止めた。


 自分の頭上で静止している、細く綺麗で長い脚。

 助かったと息を吐きつつ、気を抜いた浩雪はそのまま顔を上げてしまい……。


「……っ!」

「紛らわしい事を言うな」

「……ごめん」

「はぁ、だから紛らわしい事は言うなと――」

「いや、その……また見えちゃったから」

「は? ……ああ、コレの事か?」


 赤くした顔を背けつつ素直にそう言うと、今度は浩雪が何を言わんとしているのか理解した葵。

 そんなことかと言うように頷くと、ひょいとスカートの裾を持ってそのまま捲り上げた――。


「――って何してんだよっ! お前は馬鹿なのか!?」

「馬鹿は白告(しらつ)の方だろ。こんな布、見たければいくらでも見せてやる」

「お前な……ってあれ? 僕の名前……」

「ああ。あの手紙に書いてあったからな」

「覚えてたのか……」


 赤かった顔を一気に元に戻すと、今度はバツが悪そうに目線を逸らす。


「その……悪かった」

「はぁ、白告は謝るのが好きなのか?」

「いや、そんな変な趣味は持ち合わせてないけど」

「じゃあ、今度は何だ」

「あの時の事だよ。確か、友達のいたずらって言っただろ?」

「ああ。そんな事言ってたな」

「あの後、その友達に何であんな手紙を冬馬(とうま)に送ったんだって問い詰めたんだけど……その理由が、まあ、かなり自分勝手なもので……」

「自分勝手?」

「ほら、冬馬が”入学半月で学校の半分以上の男子から告白されてる”って頭の悪い噂流れてたの知ってるか?」

「……ああ。あったな、そんなの」

「その僕の友達は頭悪い――バカだから、その噂を信じてしまったみたいで。それに、あの日、僕が告白なんてこの世に存在しない――って言ったから。多分それを否定する為に、噂のお前に僕から告白させて、そして振ってもらうって計画を立ててたみたいで……って、どうした?」


 話している途中で、ふと葵の方に目を向けると、彼女は口元を押さえて俯いていた。

 やはり、こんな話をして、不機嫌にさせてしまったか。

 そう思いつつも、恐る恐る話しかけると……。


「くくっ」

「え?」

「くくくっ。あっはははははっ!」


 急に顔を上げたかと思えば、腹を抱えて笑い出した。


「その友達とやらは本当にバカだなっ!」


 彼女らしくない……と言えるほど彼女について何も知らないが、あの日感じた大人っぽい雰囲気は皆無。

 周りの目も気にせず無邪気に笑う今の姿は、どちらかと言えば浩雪よりも子供の様に見えた。


「そ、それにしても……くくっ、あはははっ!」


 呆然と固まる浩雪の前で、気の済むまで笑い続けた葵。

 やがて、ようやく気が済んだのか、目元に浮かんだ涙をその真っ白な指で拭うと、


「そのバカな友達は白告の彼女か?」

「は? ち、違っ! あいつはただの手のかかる妹みたいな感じっていうか……その、だから――っ!」


 顔を赤くして、途中から自分でも何を言ってるのか分からずに口を動かす。

 そして、途中で葵の姿が目に入って来て。それが、つい先程と同じ、口元を押さえている姿で。


 ――からかわれた。

 瞬時にそう理解した浩雪は、顔は赤いまま、しかし目は半眼にして目の前の少女をジッと睨む。

 その視線に気づいたのか、葵は「悪い悪い」と何とか笑い声を飲み干し、居住まいを正す。


「……てか、あいつが女だって言ったっけ?」

「さっき白告と一緒に私を見てただろ? それに、あの時も」

「それも気づいて……」


 ――覗き見得意とか言って悪かったな。普通に気付かれてたぞ。

 心の中で、あの得意げな笑みにそう申告してやる。


「後、これ。多分、白告の彼女が逃げる時に忘れて行ったんだと思うけど、見覚えあるか?」

「だから彼女じゃ――って、これは……」


 ――あんな汗だくになって、何のために追いかけてきたのかと思ったら……漫画(これ)を渡すためにわざわざ。1人で勝手に逃げてなんて薄情な奴かと思っていたけど……。

 浩雪は葵に蹴られた後もずっとその手に持ち続けていたノートを、軽く握る。

 そして、もう一方の手で、葵から漫画を受け取ると、


「あの……悪い、急用を思い出した」

「そうか」

「えっと……明日もここに居るのか?」

「さあな」

「……そう」


 さらっと応える葵に、浩雪は自分でも気づかない内に落胆した表情を覗かせる。

 それをチラと横目で見た葵は、しかし何か言うでもなく。


「帰らなくて良いのか?」

「え?」

「急用。思い出したんだろ?」

「あっ……そうだな」

「……どうした?」


 後ろ髪を引かれるように逡巡する浩雪であったが、葵の最後の言葉に重い腰を上げると、そのまま明るい光の差し込む出口へと歩いて行く。

 そして、重い扉を押し開いた所で一度振り返ると、


「……じゃあ」

「ああ」


 明るい外の世界へと出て行く浩雪を、眩しそうに軽く細めた目で見送った後。

 葵は薄暗いゲームセンターの中で、後ろの筐体に向き直ると、色鮮やかに発光するゲーム画面を瞬き一つせずに見つめた。



――さよなら

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ