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第九十五話 訪れた平穏

 ヒッグ・ギッガ討伐後は慌ただしかった。


 奴を倒した所で漸く目的の半分が達成、残り半分に街道の修繕が残っている。戦いは終わったようでまだ続いているというわけだ。


 砦にはヒッグ・ギッガとミシェルのやりとりにより盛大な穴が開いたが、そこはそのまま利用してパインウィード南門として使うらしい。


 街道の土砂崩れも機兵でかかればあっという間に片がつく。


 そこでふんぞり返って作業をさせないで居た奴も今は動かぬ鉄塊だ。

 遠慮無く現場入りした機兵達は流出した土砂を綺麗に埋め戻し、石垣や巨岩で頑丈に補修した。


 魔獣狩りを生業とするフォレムのハンター達とは違い、ここのハンターの本業はあくまでも生身での狩り、文字通り狩人ハンターだ。機兵は村に害をなす魔獣の討伐や木の切り出し、土木作業で使うらしい。


 村のハンターズギルドからいくら要請を出したところで応援が中々来ないというのは、ギルドとしての成績が低く、その発言力が低くなっているのも原因では無いかと思う。


 さて、こうして各々の活躍により村の脅威は去り、街道も無事修繕された。


 俺達は村の広場に設けられた会場、祝勝会に来ている。


「じゃあ、あれだ。総司令!乾杯の音頭を頼む」


 っく、こう言うの苦手なんだけどな……。賢い方の司令官、ミシェルじゃダメ?ダメかー。

 もうすっかり俺が喋ったりうろついたりするのに慣れてしまった村人達が「はやくしろ」と目で訴えかけている。


 ええい、しょうがないな!


「皆!本当にご苦労だった!共に戦地で戦った者達、バックアップに徹してくれた者達、俺達を信じて送り出してくれた者達!全ての協力が無ければヒッグ・ギッガ討伐、そして街道の復活は成し得なかったことだろう!

 今日は思う存分食って飲んで話して楽しんでくれ!それでは乾杯!」


「「「乾杯!!」」」


 ガチン!とグラスが当たる音が鳴り響き、あちらこちらで喉を鳴らしている。ああ……旨そうだ……。

 機械の身体になってから食への執着は割と消え失せたと思っていたけど、このビール的な……エールかな?酒を飲んでいる姿を見るとダメだ……。


 頑張り抜いて火照った身体に冷たいビールって最高だよね。なんだか久々に人である部分が強く出ている気がするな。

 それはきっと、思いがけず始まった大型イベントを無事クリアした達成感もあるんだろうな。


「あああ……これが、これが名物の鹿肉……」


 マシューが泣きながら鹿肉を堪能している。薄く切った鹿肉を焼いた物を何かのタレにつけて食べるらしい。焼き肉みたいな物だろうか。


「今朝獲ったばかりの物ですまないな。本当はもう少し熟成させてから御馳走したかったんだが」


「十分だよこれで!村に来てから結構経つけど、なんだか漸く目的を達成できた気がする……うまい……うまいよ……」


 泣きながら喰うのはよせって。しかし、村に来てから2週間か。当初の予定ではルナーサにとっくについて今頃何か面白イベントでも起きていた頃だろうな。


「カイザーさん、なんだか私達だけ楽しんでいるようでごめんなさいね」


 グラスを持ったミシェルが微笑みながらやってきた。今日はそれなりに飲んでいるのか顔が火照って紅くなっている。

 

「む、別に俺のことは気にしなくていいぞ。皆と語らい明るい場の空気を共に吸う、そういう楽しみ方もあるのだからな」


「そうですのね。でもカイザーさん、貴方は妙に人間くさい所がありますから……、どうも自分達だけ料理や酒を楽しむのが申し訳なくって」


『彼女中々鋭いですね。先ほどからカイザーが我慢しているのを見抜いているようですよ』


 俺だけに聞こえる声でスミレがそう指摘する。くっ、スミレにまでバレているのか。


「いやいや、本当に大丈夫だから!な?気にせず楽しめ!ほら!明日にはまた旅を再開するんだ!」


「そうでしたわね!思いがけず長逗留になってしまいましたが、ルナーサに向かうという本来の目的……、忘れないようにしないと」


 おいおい、ミシェル……レニーが感染ったんじゃないのか?大丈夫か?

 そうだレニー、レニーの姿が見えないがどうしてるんだ……あ……居た……。


 レニーは村の隅に置かれたヒッグ・ギッガに登り戦いの激しさについて語っている。


「その時です!カイザーさんを掠めるように奴の前足が抜けていきます!掠っただけでバランスを崩す強烈な一撃、あたしは背中に冷たい物を感じ飛び退くとまもなくそこに――」


 幾分か盛られているが、概ねその通り解説しているな。レニーの話を聞いている村人達から時折歓声が上がる。

 レニーの話がそれなりに上手いのもあるが、何より目の前に実物が転がっているのが話により強烈なリアリティを与えているのだろう。


「あ!カイザーさん!良いところに!ちょっとパンチの構えをしてもらっていいですか?そうそう!

 そしてここで!あたしとマシュー二人の力が重なって――」


「「「うおおおおおおおお!!!」」」


 体よく小道具に使われてしまった。俺が現れたことにより生々しさが増し、村人達のテンションもだだあがりだ。


 まあ、奴もこうして罪滅ぼしが出来て本望であろう。


 ちなみにこのヒッグ・ギッガは村の復興にかかった支払いに役立ててくれと言ったのだが、断られてしまった。

 解体するのに手間がかかるのと、それのために置いておくのも邪魔であるし、なによりいつまでも置かれていても不気味でしょうが無いとのことだ。


 商人達なら喜んで買い取り、解体して持って行くんじゃ無いのかとも言ったのだが、その申し出はギルド係員、スーに否定されてしまった。


「正直なところを申し上げますと、大した活動報告を上げていない当ギルドの予算は貧弱で、とても今回の報酬を皆様にお支払いすることは出来ません。

 かかった費用の返済ですら分割にして頂いたくらいですからね……」


「別にクエストとしてやった仕事じゃないし、それはこちらも辞退すると言ったじゃ無いか」


 俺がそう言ってなんとかヒッグ・ギッガの素材を受け取って貰おうと頑張るのだが、スーも譲れぬ物があると頑張る。


「いえ!それはそれで困るんです!まずこれは後付けでクエスト扱いにさせて頂きます。恩人に返せる物が無いと困るというのもそうですが、報告して頂くことによりこれはギルドの成績にもなるんです。

 希少種ユニークですよ?これはかなりの好成績。貴方達の昇級にも関わる大きな仕事です。

 これを報告すると当ギルドの予算も少なからず増えることでしょう……!」


「いや、だから実物を提出して本部をびびらせてやったりすればいいんじゃないの?」


「もう!だから言ってるじゃ無いですか!支払いが出来ないって!報酬の支払いもまたギルドの義務!本部から追加予算を貰えるかも知れませんが、それは半年以上先です!それでは支部長である私の気が済みません!」


 あれ、この人支部長だったの?というかこのギルド一人しか居ないってそこまで……。


「ですから、ヒッグ・ギッガの討伐部位である顔のパイプの一部を頂きまして、残りは現物支給という形であなた方、ブレイブシャインへの報酬とさせて頂きます。 

 本来であれば討伐したあなた方への報酬とするのはおかしな話ですが、村一体となって討伐した獲物だとあなた方がおっしゃるので、こう言う形にさせて頂きました」


 そうまで言われてしまうとこちらも断りにくくなってしまうわけで。


 渋々それを承諾し、明日出発前に収納して行くことになったわけだ。


 いやしかしあんなデカいのどうしろって言うんだ……。リックへの土産にするしか無いが、流石にあそこでも入らないぞ。

 

 何処か場所を考えないと行けないな……。

 やれやれ、面倒な物を押しつけられたもんだ。


 こうしてパインウィードの一件は片がつき、ようやく俺達の旅が再開される。

 この先に有るのは宿場町のリバウッド、そして国境の町フロッガイだ。

 フロッガイを抜ければ後はルナーサに入り、ミシェルの家を目指すのみ、何事も起こらぬよう、神に祈っておくとするか。


 神様……どうか……旅の安全を……そして……俺にあのBD-BOXを何卒……。


 空に煌めく星々が「それは無理ー」と答えたような気がするが、旅の安全くらいは保証して貰いたいものだ。

 

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