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第八十三話 ミシェルの悩み

ミシェル視点でのお話しです

 昼の会議の後、村はお祭り騒ぎになった。まだ討伐をしていない、ましてや上手くいく保証は何も無く、失敗する恐れすら有るというのにハンターだけでは無く、村中が喜びの顔に満ちあふれていた。


「はあ、私にも機兵があれば……」


 紅の洞窟では足を引っ張ってしまいましたし、今回私が現場に着いていったところで出来ることは何も無いでしょう。


 しかし、せっかく訓練をしていたというのにこの旅では機兵に乗ることを禁じられ、お家の機兵も持ち出すことは敵いませんでしたし、そうなれば私に残されているのは商人としての知識のみ。


「このままではただの穀潰しですわ」


 やる気に満ちあふれているレニーやマシューを見ているのがちょっと辛くなり、夕食後宿を抜け出して散歩に出ている。誰にいうでも無く独り言が出てしまいましたが、周りに人も居ませんし構わないでしょう。


 池の畔に腰掛け水面に映る月に石を投げる。

 波紋が広がりゆらゆらと揺らめいている。


「やはり私も機兵を借りて戦地に……」


『それは止した方がいいよ』

『そうよ、余っている機兵は無いのだから』


 突然、ウロとボロスが独り言に参加してきた。洞窟以後、いくら話しかけても反応しませんでしたのに、何故このタイミングで?


「きゅ、急に出てくるからびっくりしましたわ……」


『ミシェルさ、戦場に出なくても出来ることと言うのは沢山有るじゃ無いか』

『何かを成し遂げようとする時、裏方の活躍は馬鹿に出来ないのよ?』


 その裏方、と言うので何をすれば良いのかわからないから悩んでるというのに。


 表舞台に立てないのであれば、裏で皆の手助けをする。それくらい私にも分かる。じゃあ何をすれば良いのか?経験が無いのでいまいちピンとこない。


 返す言葉も無く、黙り込んでいるとミシリと背後から何かが軋むような音が聞こえた。


「む、そこに居るのはミシェルか?」


 木々の間からヌッと顔を出したのはカイザーだった。夜という事もあり、急に大きなモノが顔を出したのだから少し腰が抜けそうになりましたわ。


「カ、カイザーさん?どうしてこんな所に」


「この時間帯なら人があまり居ないだろう?今のうちに村を歩いて地図作成用の情報を集めておこうと思ってな。ほう、ここには池があるのか」


 池を見つめ目を細めて嬉しそうな顔をしている。まったくこの方は機兵だというのに人のように表情をコロコロと変えてみせるんだからたまらない。


 マシューが乗っているオルトロスもそうですけれども、こう言う機兵も良い物ですわね。「機兵にだって心があるんだ」って技師が言ってましたが、こうやって言葉を話せれば他の機兵も同じような具合になるのでしょうか。


「所で、ミシェルこそこんな時間に何をしているんだ?村の中とは言え女性が一人で出歩くのは危険だぞ」


 そう言われて困ってしまう。レニー達に引け目を感じていたたまれなくなったので黄昏に来ました、なんて言えるはずも無い。無いのに……。


『うちのミシェルが悪いね。この子ちょっと拗ねてんだよ』

『そうそう、機兵が無いから手伝えないって悩んでるのよ。カイザー、貴方からも言ってやってよ』


 この子達と来たら!よくもまあ、そんなべらべらと!顔が熱くなってくるのを感じますわ……。ああ、逃げ出したい……けど、ここで逃げ出してしまっては余計に悪化しそうですわ……。


「そういう事だったか。ミシェルはレニー達と違って賢いからな。今の自分の役割を理解した上で何をすれば良いのか分からなくなって悩んでいたんだろ?」


 図星過ぎて返す言葉もございません。


「すまなかった。君にもう少し早く指示を出していれば悩ませなかったのにな。大切な役割をお願いしようと思っていたんだよ」


「大切な役割……ですの?」


「ああ、君は商人の知識があるんだろう?だから戦いに使う物の管理を頼みたい。必要な物を纏めた紙を後で渡すから、それを見て足りない物を報告して貰いたいんだ。こういうのは簡単なようで在庫管理のスキルが必要だからね。ミシェルが適任だなと思ったんだよ」


 なるほど……。恐らく機兵の部品や罠の材料が足りないとなればレニー達が魔獣を狩って仕入れたり、可能であれば商隊から直接仕入れたりするつもりなのだろう。商隊?


「あの、在庫管理は勿論、承りますが、街道で商人を待ち買い付けをするというのは考えていますか?」


「うん?そうだね、なるべく魔獣から資材を回収しようと思っていたけど、加工品が買えればその分時間短縮できるし買えるならそうしたいよね」


 となれば……あとはギルドと話をつけて……うん、いけそうね。


「では、在庫管理の合間に私を商人の所へ行かせて貰えませんか?私の目があれば不当な取引をされる恐れはありませんし」


「ふむ、其れは良い案だな。じゃあミシェルにはその仕事もお願いする。それと、村内では俺やレニー、マシューとそのインカムで連絡が取れるだろう?何かあったらどんどん指示を出してくれ。準備段階では君が指揮官だ」


 私が指揮官?そんな大層な役割……出来るのかしら?ううん、やらなくてはいけない。せっかくカイザーさんが私に与えて下さった大切な役割ですもの。


 マシュー同様に私もやりましょうと口を挟んでしまったこの案件、言ったは良いけれど何も出来ないのが悔しくて仕方がありませんでした。でも、作戦準備として皆の役に立てるならなによりですわ。


「ところで、ウロとボロスは今まで喋らなかったんだ?もう今更隠す必要も無くなっただろうに」


 そういえば。


 カイザーさんが私の疑問を代弁してくれた。


『あー、それな。僕たちさ、バリア展開でかなりの力を使い切っちゃったんだよね。あの日喋ったら力を使い果たしてバタンキューさ。』

 『そうそう。アレばっかりはダメね。アズベルト君なんかが魔力で充電しようとしたこともあったけど、どうも私達は魔力じゃダメみたいでね。今日やっと自然回復で喋れるまでになったわ』


「へえ、なるほどエネルギー切れってわけか。じゃあ今はバリアを張るのは無理なんだな?」


『残念ながらそうだね。バリアを張れるまでにはあと数日はかかると思う』

『だからカイザー、何かあったら貴方が護るのよ。商人の所には出来たら着いてって欲しい』


「善処するよ。無理でも村の機兵を一人つけられないか聞いてみるから」


 燃料切れ……、そんな簡単な……いえ、アズベルト君……ってご先祖様?ご先祖様でも分からなかった謎の燃料が原因で?しかも自然回復するですって?


 この子達にはまだまだ私が知らない秘密があるようですわね……。


「さて、ミシェル。そろそろ帰ろうか。夜も遅いから送っていくよって行く先は同じだがな」


「あら、紳士ですのね?では私をエスコートして下さいな」


「喜んで、お嬢様」


 冗談めかした口調で傅くと、そのまま私を手のひらに乗せゆっくりと歩き出した。


「済まないな、出来ればコクピットに乗せてやりたいんだがレニーの許可無く開くことはできないんだよ」


「いえ、ここからの眺めもなかなかの物ですわ」


 ポツポツと見える街の灯火、この一つ一つに人々が住んでいる。街道が復旧しなければ一つ二つとこの明かりが消えてしまうかも知れない。


 頑張らなくっちゃね……

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