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第七十九話 ヌタ場の主

 翌朝、日が昇る前にパイロット二人をたたき起こして現場付近に陣を取っている。


 ミシェルが同行していないのは危険というのもあるが、村内での情報収集の役割を与えているのがその理由だ。


 そもそもミシェルは二人の友達だが、護衛以来の対象者である。護るべき相手を危険な場所に連れ出してしまっては本末転倒だ。

 

 一緒に行動するうちだんだんと分かってきたが、ミシェルも中々に熱いところがある。なのでストレートに「護衛対象が作戦に参加するなんてもってのほか!宿屋で待機していてくれ!」なんて言ってしまったらついていくと言って聞かなくなっていただろう。

 

 そうなってしまったら面倒なので、情報収集という形で作戦に参加してもらいお茶を濁しているわけだ。


 

 「しかし……これは酷い、な……」


 大規模な土砂崩れが街道を覆い尽くしている。そしてそこには広範囲にわたって人工的な形跡、巨大な何かが身体を擦りつけたような形跡が残っている事から、ぬた場として使っているという話は真実なのだろう。


 念のためにスミレに地質の分析をして貰ったところ、水分を多く含む粘土質の地層が確認でき、外部からの衝撃によりそれが剥離、大規模な土砂崩れを発生させたと推測されるようだ。


 意図的ではないにしろ、魔獣の影響で発生した災害であることは間違いなさそうだな。


 現場周辺には森があり、大きめの沢がある。流れ込んだ土砂によりそれがせき止められ街道に流れ込み寄り素敵なヌタ場を作っているというわけか。


 そのヌタ場から森へ大きな足跡が続いている。下手をすればバステリオンよりも大きな魔獣であろうその主が縄張りとしている森こそが恐らく鹿の狩り場なのだろう。


 「足跡から考えると沢筋に沿って森から現れ、ヌタ場で遊んだ後また同じルートで戻っていくようだな。思ったより単純なルーチンで助かったが、お前達何か気づいたことはあるか?」


 そう言われて改めて周囲を確認するレニー。これは恐らく何も考えていなかった奴だろう。急に話を振られ慌てて少しでもネタを探している、そういうリアクションだ。


 「そ、そうですねえ。あ!そうだ。あの沢、せき止められてて危ないですよね。大雨なんか降ったら鉄砲水になってもっと被害が広がりそうですよ」


 「ほう、そこに気づいたか。そうだな、あれはそのままにしておくと危険だな。マシューは何か気づいたか?」


 「…………」


 「マシュー?」


 『カイザ~マシュ~寝てるよ~』

 『腕組みして難しい顔のまま寝てる-』


 「……オルトロス、重力制御をオフにして逆立ちしろ……」

 

 コクピットにはちょっとした重力制御が働いている。そのため我々がどんなに無理な動きをしても中のパイロットが酷い事になることは無い。考えても見てくれ、二足歩行のロボットが歩いたら、アニメのように跳んだり跳ねたりしたら、ましてやキリモミ回転をしたら中のパイロットがどうなるか?気持ち悪くなるどころの騒ぎじゃ無い、大けが、下手すりゃ死んでしまうだろう。


 常にコクピット下面が下になるよう、重力制御がされているおかげでパイロット達は衝撃であちこちぶつけることがあっても上や左右に落ちること無く操縦に集中できるわけだ。


 さて、それをオフにして逆立ちなんかしたらどうなるだろう?


 「うおおっ!?なんだ!?いってえ!敵か?」


 天井に頭から落ちたマシューの目覚めの声が聞こえてくる。


 「おはよう、マシュー。よく眠れたか?作戦中に眠るとは良い度胸、流石マシューだな」


 「へへ、褒めてもなんもでねえよ。しかし何が起きたんだ?なんか視界が逆さまになってるしよ」


 別に褒めたわけじゃ無いんだが……


 「オルトロス、戻って良し。重力制御は体勢を戻してからオンにしてくれ」


 『おっけ~』

 『もうおしまいかー』


 「うおっ!いってえ!尻!尻打った!」


 「良い目覚ましになっただろ?ほらほら、目を覚ましたらお前も真面目に……」


 『カイザー、オルトロス、身を低くして静音モードに入って下さい。レーダーが対象を捉えました』


 スミレの声に慌てて静音モードに切り替える。出力をギリギリまで抑え外部に漏れる音を消すスニークモードだ。出力を抑えているとは言え、いざとなれば出力を上げながらの回避も十分可能なため、攻撃をしようと思わなければ大したデメリットは無い。


 「地響きが……聞こえますね」


 ズズン、ズズンと地響き。そして時折何かが折れるような音、森が蠢いているので木が折れているのだろう。


 森からバサバサと鳥の群れが飛び立っていくのが見える。これはあれだ……巨大生物登場フラグだ……。


 ヌタ場の規模はかなり広い。その広いヌタ場がかなりの範囲にわたって使われていると言うことは、想像したくは無い程の大きさであることが推測される。


 『目標目視可能まであと5、4、3……目視可能です……これ……は』


 スミレが絶句している。俺も絶句している、いや、皆言葉を失っている。


 森から脚が生えた小山が姿を現した、そう表現するのがわかりやすい大きさである。やがて全身を現したそれを計測すると15,6m、長さだけ見ればバス、それも大形バスくらいの長さで、それが左右に2台並んでいると思って欲しい。


 体当たりなんかされたら目も当てられない。なるほど、機兵が壊されたか……。ギルドで出会ったハンター達に良く生きていたなと今ならば言える。


 その巨体がごろんごろんと転がるたびに地響きが聞こえる。あれを討伐するのか……。


 オルトロスからコクピット内の映像を回して貰うと、目と口をぱっかり開き呆然とした顔をしているマシューが確認できた。そうだよな……レニーも同じ顔をしてるもん……。


 『カイザー、マシューとレニーより今はアレです。一応図鑑に名前が載っていましたよ』


 っと、そういや図鑑を読み込んでおいたんだったね。なになに……


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 名前:ヒッグ・ギッガ

 全長:12m~18m

 主な生息地:トリバ以北


 通常、体長6m程度のヒッグ・ホッガが大型化した個体だが、討伐時に混乱を避けるため同種で有りながらも大型であることを現す名前をつけられている。

 ヒッグ・ホッガは10頭~20頭の群れで行動しているが、群れのボスがヒッグ・ギッガ化すると言われている。

 基本的に一つの群れに対して1体のヒッグ・ギッガが現れるが、稀に2体の個体が大型化することも有り、その場合はボスの座を賭けた一騎打ちが行われ、敗北した個体は群れから追い出されハグレ魔獣となる。

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 なるほど、本来もう少し北で暮らしていたこいつは群れを追われ南下してきたわけか。まったく迷惑な話だな。


 しかし、随分と泥遊びが好きなようだな……。ほんとメカっぽい見た目じゃなけりゃただただ巨大なイノシシにしか見えない。


 イノシシがそれをする理由はダニや寄生虫を落とすのが目的だが、機械の体にそれは不要。ならば魔獣となった身体でもそれをするのはただの名残だろうか?


 ゴロンゴロンと転がるたび、ぬた場から蒸気が立ち上る。

 

 ……蒸気、ね。


 スミレからスキャン完了の報告を受け、それを持って今回の調査を終了とした。

 

 

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