第七十六話 いざルナーサへ
ルナーサへ向けガタゴトと街道を走っている。
今回の旅は俺が馬車形態でレニーとミシェルを乗せ、オルトロスは通常形態のまま随伴する事にした。
オルトロスも犬形態になれば速度はもっと上げられるのだが、ルナーサへ向かう街道は人の往来が多く速度上げると事故の可能性が上がる。そしてそうじゃなくても顔を二つ持つオルトロスは他の旅人達の肝を潰すため、今回は無難な人型でと言う事になったのだ。
とは言え、馬形機兵とも言える今の俺の姿も十分に目立つ。ここまでに何度か商人のキャラバンに声をかけられ、どこで買ったのか聞かれていた。
そして、また一人。
向こうからやってくる馬車の御者が大きく手を振っている。レニー曰く、これは話があるから停車してくれと言うジェスチャーらしい。
オルトロスに連絡をいれ、停車をすると向こうの馬車から商人が下りてきた。
「こんにちはお嬢さん。随分と凄い機兵を連れてますね。そしてこの馬、これも機兵だ。一体何処でこのような素晴らしい物を？」
商人にも2機、護衛の機兵がついている。どちらも見たことが無い型で、ウルフェンタイプよりも人型に近い。馬車も作りも立派なことから結構大きなお店の商人なのでは無いかと伺える。
「いやあ、私の馬もあっちの機兵もそれぞれ親から受け継いだ物なんで良く分からないんですよねえ」
「ふむう、君たちは何処の生まれなんだい？」
「えー？女の子にそんなこと聞くと世間の目は厳しくなりますよ？」
「はっはっは、かなわないな。いやね、そっちの機兵は兎も角、馬形の機兵なんて見たこと無いからね。疲れ知らずの馬なんてあったら流通はもっと便利になる。フォレムの新製品かなって思ったんだけど違うようだね」
なるほどね。機兵という存在は俺からすれば十分オーバーテクノロジーなのにやっぱり自動車的な物は存在しないんだな。なんなら機兵に荷車を引かせたら良いのでは？と思うけどそれはちょっと違うのかな。
「うーん、これと同じような物ってのは見たこと無いですね。知り合いの工房でも4つ脚を制御する仕組みが難しいって言ってましたし。これは何処の天才技師が作ったのやら……お父さんも知らないんですよね」
「へえ、そうなんだ。お父さんは何処から手に入れたんだい？」
「……それを聞けたら良いんですが、いつか聞こう聞こうと思ってたんですが、今やお父さんは遠いところに居て……」
「ああ……すまない。そんなつもりは無かったんだ。うん、そういう機兵が居て、作ろうとしている人が居たってのが分かっただけで十分だよ。有難うね、これは皆で食べてくれ」
レニーに何か包みを渡すと商人は馬車に戻り、手を振って去って行った。
「ふう……。流石お姉ちゃん。上手く誤魔化せましたよ」
『ふふ、往来が多い街道を通ればこうなることはわかってましたからね。こんな事もあろうかとって奴ですよ』
今のようにしつこく聞いてくる商人はいなかったが、こんな具合にちょいちょい止められるから敵わない。予定の工程より大分遅れているな。
しかし、レニーの家族の話、初めて聞いたような気がするな。喧嘩して飛び出してきたーって言ってたけど、家にはお母さん一人とか？ううん……、大丈夫か心配だし気になるけどこう言う話題は出しにくいな。
「カイザーさん？あ、ああ！お父さんの事聞いて心配してるんでしょう？前も言ったじゃ無いですか、喧嘩して飛び出してきたって。フォレムから遠くにある実家にちゃんと生きてますからね？お父さんとお母さん、そして妹と元気に暮らしてるようですよ」
「あ、あれえ？そうなの？お父さん遠い所ってそういう？」
「はい。ああ言えばもう何も聞かれないかなって。カイザーさんまで心配させちゃったのは失敗でしたが……ごめんなさい」
何だそういう事か……。しかし妹が居るのは初耳だな。きっと妹さんとだけは連絡を取り合ってるとかそういう感じなんだろうな。
「ちなみに喧嘩の相手は妹です。お父さんとお母さんには毎月お手紙書いてるんですが、妹の奴には絶対に書いてやらないんです。妹のくせに姉みたいな態度で……」
普通そういうのは親と喧嘩してって感じだと思うんだが……。
レニーを飛び出させるほどの妹ってどんだけ凄いのか逆に気になるな。
さて、時刻はもう直ぐ16時になろうとしている。予定ではもう少し早くにここを通過しているはずだったのだが、仕方がないな。
道は丁度分かれ道になっていて、太い道はルナーサへ続く街道だ。そして細い道はどうやら別の村、パインウィードと言う所に向かう道のようだ。
「さて、16時だ。このまま街道を進み、適当な所で野営をするか、ここから1時間のところにある村で休むか……、どうする？」
「はいはい！あたい村行きたい！この先の村って行ったこと無いし、変わった飯があるなら歓迎だ！」
「この先のパインウィードはフロッガイやリバウッドほどの規模ではありませんが、ギルドの出張所や宿屋もあるし悪くないですねー」
「そうですわね、あのおうちも魅力的なのですが、宿で寝られるなら宿に泊まりたいですわ」
俺は機兵だから何処だろうと問題はないが、人間、しかも女の子たちとなれば可能な限り野営は避けたいのだろうな。俺としてもデータが増えるから村によるのは大歓迎だ。
「よし、パインウィードに向かおう。今夜は村で一泊だ」
今までもあちこち遠出してきたが、なんだかようやく旅らしい旅をしている感じがするな。
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