第七十二話 紅の洞窟その秘密
ミシェルが王族の末裔である、それは今までの情報から確信するに値するものであった。
理由はわからないが、ウロボロスを王家の紋章として使用していた、それは例のバリアを展開した際現れた紋章を見てレニーが反応していた事で分かった。
そして洞窟の場所だが、王家の森のはずれであり、神の山の麓にある。事実上の敗戦の後、民と共に禁忌地となっていた旧ルストニア王国王都である王家の森に移り住み、その身を隠していたのだろう。
そして神の山に坑道を掘って作ったのが紅の洞窟。資材置き場としても使っていたのだろうが、その本当の目的はオルトロスの格納庫だったのではないか？そう推測する。
あの大きな坑道は並みの機兵では掘るのが難しいだろう。土木用騎兵が存在することは知っているが、それでもかなりの数が必要となる。
落延びた共いえるルストニア王家達がそんなに多数の機兵を抱えていたとは思えない。
しかし、俺やオルトロスと同様の力を持つ存在が居たらどうだ？AIを持ち、オーバーテクノロジーを備えたウロボロスが居たら。
資材置き場となり、格納庫となり、いざという時のシェルターにもなる坑道を掘るのは容易いことだろう。
そうだ、ミシェルにアドバイスをしないと。
「もう何もないということと、危険だということをアピールしてくれ」
レニーの方をちらりと見て小さく頷き、了解したと伝えてきた。
「それで、あの洞窟は元々当家のご先祖様が資材置き場として使っていたのですが、今回の依頼で残されていた物をすべて回収しましたの。元々当家の所有物であるあの洞窟には多数の罠がしかけられているのですが、ルストニアの証を持たぬものには容赦なく牙を剥きます。
ですので……、一応外部の者が入らぬよう、封印と注意書きを残していたはずなのですが、ハンターかトレジャーハンターが外してしまったようですわね」
「な、なるほど……、もしそうであれば、管理責任を責めるどころかこちらが謝らなければいけないかもしれませんね……。では、あの洞窟にはもう何もなく、罠も発動しないということでよろしいですか？」
「物は…ガラクタが多少ありますが、売れるようなものはありませんわね。罠は解除した、と言いたいところですが、あれは私の手にはおえませんわ。どこに何が仕掛けられているか文献を探してみないと…」
「そうですか……、では洞窟は依然として危険なままであり、探索するメリットもないと。そういう結論でよろしいですね？」
「ええ」
「噂によると、たくさんのアレが向かってきたり、機兵を貫く攻撃が次々に飛んできたりするみたいですよ。前者の場合は精神的なダメージを受け戦線が崩壊したり、後者の場合は熟練のパイロットでも死ぬか機兵を捨てて逃げるかの選択を迫られるようです」
と、レニーが追撃をする。実体験で語るから嘘でも説得力が半端ないな。
「レニー、罠は発動しなかったようだけど何かそういう噂を裏付けるものは見た？」
「うう……正直思い出したくないんですが、その、前述したアレに関してはその片鱗をみました……。特に女性のハンターは近づかないほうが身のためですね」
ヒッと小さく声を上げ、レニーの話に強く頷くシェリー。
「わかりました。報告ありがとうございます。ギルドの方でも例の洞窟に関して警告文を張り出しておきますね。特にルストニア商会の所有物だということであれば、迂闊に手を出すハンターは多くはないでしょう」
と、言ってあたりをぐるりと見渡すシェリー。そうか、ルストニアと聞いてあたりがざわめいていたが、そこで「王家」を連想して反応したのは俺やレニーくらいで、普通はルストニア商会、つまりハンターとしては商売的に逆らえないだろう大会社の名前に反応していたわけか。
「私としてもその方がありがたいですわね。フォレムのハンターさん達とも仲良くお仕事をしたいとおもってますので」
と、ミシェルもギルド内をにっこり笑顔で見渡している。こええ…商家の娘さんこええ…。
「それで、追加依頼とのことでしたね、ではこちらに必要事項とサイン、それが終わったらレニーはこっち書いてね。今回は継続依頼という事で、掲示を省くからさ」
通常の依頼であれば、どんなものであっても一度掲示板への貼り出しを経由しなければ受注することが出来ない。
しかし、指名依頼や今回のような継続依頼の場合は話が別だ。特に護衛任務は継続依頼が発生することが多いとのことで、街から街へ護衛をしているうちに国をまたぐ事も珍しくはないという。
「はい、では確かに受け取りました。レニーはルナーサのギルドにいくのは初めてよね？行ったらこの手紙も添えて渡してね。あなた達ブレイブシャインがフォレムのハンターであることを証明する大切なものだからくれぐれもなくさないこと！」
「はあい、って、私そこまでまぬけじゃないよ！」
「まあまあ、じゃ、ミシェルさん、レニーをよろしく頼みますね」
「任せてくださいですの」
「ご、護衛するのは私だってば！」
これでいよいよルナーサ行きが決定したな。まずはリックの所に行って一晩ご厄介になる相談をしないと……既にそこで熟睡してるマシューも居るしな……。
