第六十八話 守護者
立ち上る砂煙……恐らくミシェルは……くそ！
「うそだろ……な、なんでこんな……」
「一体……何が……酷いよ……」
マシュー……レニー……。突然の出来事に呆然とすることしか出来ない二人。俺だってどんな顔をしたら良いか分からない。AI化したとは言え人の心を持っているから尚更だ。
しかし、今は戦いに集中しなければ行けない。先ほどから警告アラートが鳴り響き、敵機の接近を知らせている。
「カイザー！敵機目視できます！」
「何だあれは！？魔獣……？いや……あれは……」
「あれは……ゴーレムですわ……でも……なんで？」
「「「ミシェル？」」」
3人の声が重なる。最早この世には居なくなっていたとばかり思っていたミシェル、その声が聞こえてきたからだ。
砂煙……それは生存フラグとも言えるものだが、しかし、流石の俺もそれを口にする気分にはなれなかった。だってそうだろう？どう見ても、どうフラグが立っていてもミシェルが助かる見込みは無かったのだから。
しかし、直ぐにミシェルが健在である理由が明らかになる。もうもうと立ち上る濃い砂煙が和らぐとほのかに光りが透けて見える。
やがて完全にそれが止むとミシェルを包んでいる大きな紋章の姿が明らかになる。
2匹の蛇が互いを飲み込み合うその紋章、どこかで……
「ル、ルストニア王国？ルストニア王国の紋章だ……」
え？ルストニア？そうか、ここは王家の森、旧ルストニア領だ……つまり……っと！
「マシュー！レニー！それは後回しだ！先ずは奴を、ゴーレムを止めるぞ！」
「ミシェル！それは防衛装置とみていいのか？」
「え？い、いえ、わかりません！」
『大丈夫よ！ミシェル！』
『俺達が護ってやる！カイザーとやら！ここは大丈夫だ！お前はゴーレムを止めてやってくれ！』
ミシェルの腕輪から声が聞こえてくる。昨夜聞こえた声達だ。こんな所まで電波が届くのか？っと、危ない！
飛んでくる石弾をレニーが交わす。やるじゃないか！
『カイザー！ちゃんと敵機を分析して下さい！』
「すまない！スミレ、レニー！どうやらミシェルは護られているようだ、俺達も遠慮無く行くぞ！」
ゴーレムと呼ばれるそれは見た目は普通の機兵だが、下半身には多脚が存在し、それにより素早く軽やかな移動を実現しているようだ。
普段から洞窟に潜み侵入者を狙撃していたのだろうが、何故行く時は遭遇しなかったのだろうか？
「ちい！素早いな！厄介だぞこいつは！」
『マシュ～接近戦は諦めよう～』
『取りあえずカイザーの援護だー』
「良い案だ、オルとロス！レニー、マシューが敵のヘイトを稼ぐ！俺達はその隙になんとかジェットガントレットで動きを止めるんだ」
「はい！カイザーさん！」
「おらおら！こっちだこっち！」
マシューがそこらの石を投擲する。それらは全てゴーレムによって叩き落とされているが、それは寧ろ好都合。すっかりマシューに釘付けになっている。
「よし、レニー今だ！」
「はい！ジェットオオオオオオガントレ…うわ！あぶなっ！」
こちらの気配を察知したのか、突然こちらを向き口から石弾を放ってきた。そこからでんのかよ！
クルクルと自在に向きを変える顔は厄介だ。これは最早顔では無くて砲台だろ……。
参ったな、これでは迂闊に攻撃も出来ない。しかし、離れてみればこちらに石弾を撃つ事は無く、投擲をするマシューに反撃を再開する。
これはゴーレムと言うだけあって動きか何かに反応してる……のか？
いや、ならば生身のミシェルに先制攻撃をした理由が分からない。音というのも違うだろう。俺達だって大きな声で話していたはずだ。ただ単にミシェルの運が悪かったというわけでもあるまい。
いや……あの宝玉か。宝玉からほのかに感じるエネルギー、それに反応して？ならばそれを囮に……はダメだな。そんな真似は出来ない。
しかし、それを抜きで考えればやはり攻撃をする者、つまり敵対行動を取る者が第一目標となっている気がする。ならば攻撃の意図を持たない者の攻撃であればどうだ？
矛盾しているようだが、試してみるしか有るまい。
「マシュー！あっちにゴーレムを誘導できるか？」
「え？あっちって……ははあ……なるほど、なっ！」
ゴーレムに駆けより攻撃をすると見せかけ、その脇を駆け抜けるマシュー。感情があるのか無いのか分からないが、とにかく其れがお気に召さなかったようだ。
即座にマシューを追走し、直ぐに目的地へ到着する。
位置についた俺が合図を送るとマシューは壁を蹴って跳躍しゴーレムを飛び越える。
そのままその場で投擲を開始してその場に釘付けにする。負けじとゴーレムの石弾が炸裂するがそれはマシューに当たらない。レニーと特訓したあのキャッチボール、コントロールが悪いレニーの球を避けていたマシューだ、それが効果を発揮しているのだろう。
「よし！行くぞマシュー！避けろよ！！！レニー！！」
「はい！」
「「ジェットォオオオオオオオガントレットオオオオオオオオオオ！！！！」」
俺達の声に反応しこちらを向くゴーレム。しかし、石弾を放つことは無かった。何故なら、俺達の攻撃はゴーレムには向かわず……。
「よし！そのまま引きずり落とせ！！！」
ガントレットが鉄骨を掴み引きずり落とす。激しい音と共にクレーン装置が落下する。その落下はあくまでも「天井への攻撃」に伴った「事故」で有り、「ゴーレムへの攻撃」では無い。
思った通り攻撃とは判定されず、避けること無くそのまま下敷きになっていく。
もうもうと立ち上る砂煙、これは生存フラグであって欲しくは無いのだが……。
