第五十七話 格納庫にて
「できた！できた！出来たぞー！！！！！！」
叫びながら踊りながら扉を蹴破る勢いでリックが部屋から飛び出してきた。見た目からして結構なお爺ちゃんだろうに元気なことだ……。
呆然とした顔で見下ろす俺に気づいて我に返ったようで、咳払いをしてこちらへ向かってきた。
「なんじゃお前いたのか。居るなら居るっていえってんだ。まあいい、出来たぞ、一つだけだが、一つ出来れば後は早い。まずは見てみろ」
……素晴らしい。あの見栄え重視で目立つことこの上なかったスマホ型の通信端末が俺の設計通り、装着してもさほど目立たないインカムになっている。
「あとの、良く分からん装置がついていたがあった方が良いだろうと思って邪魔にならん所に残しておいたぞ」
良く分からん装置……ってああ、これか。……正直これは俺も忘れてたというか、こんなのついてたんだ、というか……。
インカムを装着した状態で耳の脇にちょこんと出る感じ、と言えば伝わるだろうか。その辺りに小さく目立たないようにカメラがついていた。スマホ型端末なんだからカメラはついてたんだろうな。しかし、俺が忘れていたために活用することもなく、今まで音声だけで状況を聞いていたのだが、これで漸く日の目を見たというわけか。
「ありがとうリック！君は何時も俺の想像の上を行ってくれるな！」
「なーに、良いって事よ。礼ならそうだな、また面白そうな物を思いついたら教えてくれよ。それで手打ちにしてやらあ」
リックとしては冗談で言ったのだろう、しかし俺はそれを聞き逃さない。これ幸いとばかりにスミレに声をかけ、設計図を出力して貰う。
「いやあ、リックならそういうと思ってまた設計図を用意しておいたぞ！」
「な、なにい？」
これから戻ってインカムの残りを仕上げようとしていたリックは、俺の言葉を聞いてひっくり返ってしまった。
「おいおい、大丈夫かよ？ほら、これが設計図だ」
「ったく、労るか強請るかどっちかにしろってんだ……こんな自ら次々と装備を創らせる機兵なんてみたことねえや……」
そりゃそうだろうな……。俺以外、いや、AI搭載ロボはオルトロスも居るが、こんな事言い出す変な奴は俺くらいだろうよ。
「流石にそれに関してはちゃんとお代は払うぞ！今の俺は金を持ってないから素材で、だが！」
「ん？素材？別にお代なんて要らねえが、素材は別だ。見せろ」
トレジャーハンターに受け取りを拒否され、レニーとマシューもどう活用したら良いのか分からず死蔵しかけていたアレをドスンとハンガーに取り出した。
「ば、ばばば、ば、ばっかやろう！なんてもん出しやがる！つうか、何だこのデケえブレストウルフみてえなのはよ！？」
「これはバステリオン、この間レニーとマシューで狩った奴だよ」
「ばばばバスッテ？リオンだあ？な、なな。なんてもん出しやがるんだ馬鹿野郎！と、取りあえず一度しまえ、しまえ！はやくしまえー！！！！」
やたら慌てられたので取りあえずバックパックに収納し、場を納める。リックはへたり込み、はあはあと息を荒くしている。
あまりにもヤバいものを見せられて腰を抜かしてしまったのだろうか……。リックはもう少し度胸がある人だと思っていたが、やはり年には勝てない……か。
「は……ははは……はーっはっっはは、やばいな……バステリオンだあ？何が出来る？アレで何が作れる？やばいな……興奮して死んじまうところだった……」
逆でした。
バステリオンに恐れを抱いたのかと思いきや、極上の素材を前にして血圧が上がってしまったようだ。おいおい、それはそれでかなり危険だと思うのだが、大丈夫か？あっ、しまえって言ったのはそういう事か……。
「バステリオンは……、今はまだちょっとわかんねえから、暫くお前さんの便利な鞄にしまっとけ。良いネタ思いついたら言うからよ、間違ってもジャンク屋なんかに売るんじゃねえぞ？」
「勿論だ、これはリックに渡すって俺が決めたのだからな。いくらレニーがジャンク屋に売るって言っても売らせないさ」
「うっぐ……レニーが、か……うう……うむ、いくら……レニーでも，ダメだ。俺んだからな！それはもう俺のだ！いいな！」
ほんとレニーに弱い爺さんだな。まあ、そのレニーの名前を出しても折れなかったあたり、バステリオンは魅力的な素材なんだろう。ゲームで言えばユニークモンスターと言える存在だろうしな、かなりの価値がありそうだ。
「む、そうだ図面だな。……ううむ、またこれは……お前さん、なかなかの変態じゃな」
図面を一通り流し見したリックが俺を見てニヤリと笑う。この場合の「変態」は賞賛する意味だと取ったので、俺もニヤリと笑ってそれに答える。
「は！いい顔だぜ。機兵のくせに器用に笑いやがるよ、まったくさ。いいぜ、これも併せて作っとく。お代はさっきのバステリオンでいいぜ」
「そうか、助かる。まあ、またあの手の珍しい素材があれば優先するから今後とも色々頼むぞ」
「そ、そうか？ま、まああんまり持ってきても俺の心臓がもたねえがよ？くれるもんは貰うぜ。あー、ただな、その設計図のブツは少し時間をくれよ？そん代わり先に頼まれてたもんの残りは今日中につくりあげっからよ」
本当に手が早い職人さんだ。珍しい素材を見つけたらどんどんプレゼントして完全にお抱えにしてしまわないといけないな。良い職人は保護して囲っておかねば。
さて、レニー達の首尾はどうかな……？
