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第五十四話B(レニー視点) 3級へ


 フラフラと街に着く頃にはもうすっかり夜でゲートが閉められようとしていた。


「わーーーちょっと待って待ってー」


 慌てて門番のお兄さんに声をかけ、閉めるのを待ってもらったよ……。危ない危ない。


 私のおうちをカイザーさんが背負ってるから街には入れなくても野宿になることは無いんだけど、ちょっと身体がベトついてるから洗いたかったんだよね。


 カイザーさんに乗るようになって実際に自分の身体で戦う事は無くなったけれど、それでも操縦で汗をかく。特に今日は身体も疲れているからお湯を浴びたくてしょうがないんだ。


 リックさんの工房にはお湯が出る装置がある。これは本来洗浄用だってことだったけど身体を洗うのに丁度良いからチョイチョイ借りている。


 最初は文句を言っていたリックさんだったけど、自分も使ってみたら気に入っちゃったのか今では専用の小屋まで用意してしまった。


 それを紹介されたカイザーさんが「世の中にはお湯が湧く泉があるぞ」と、オフロなる仕組みを提案したらあっという間にリックさんが用意しちゃって今マシューとそれを堪能させて貰っている。


「はー、このフロ?っていうのはすげえな……疲れがほぐれるようだ……」


「だねえ。ノズルから出るお湯で洗うだけでも気持ちよかったのにこれは……」


「カイザーって変なこと沢山知ってるよな。一体何処でそんな知識を得たのやら」


「そもそも存在自体が不思議な人……人?まあ、変わってるからね……」


「「はあーーー」」


 オフロに浸かり今日の疲れがどんどん抜けていく。ぽかぽかと身体の芯から温められ夢心地に……ゆめ……


 ゴボゴボゴボ……


「ぶは!」


「うお!おい!レニー、大丈夫か?」


 危ない危ない、溺れるところだった……。このオフロって奴は危険だな!


「そうだ、私は明日3級(サード)に上がるけど、マシューのランクも揃えておきたいよね。5級から4級に上がるためには直ぐだけど3級(サード)の条件は……」


「いやいや、あたい3級(サード)だから」


 ん?ちょっと耳の調子が。


「だから、あたい3級(サード)ハンターだから」


「ええええええ!!!なんで言ってくれなかったの?だったらそのまま護衛受けられたじゃ無いの!」


「お前が話を聞かなかったんだろうが……。いやな、トレジャーハントってのは中々危険な場所が多くてな。ハンターを雇うこともあるんだが、何時も何時も雇ってばかりじゃ居られないだろ?

 だから自分達でもハンターズギルドに登録して運営資金を稼ぎつつ腕を上げるってのはよく有ることなんだよ」


「うー……そういえば何か言おうとしてたもんね。ぐぬぬ、マシューの方が先輩だったとは……」


「はっはっは。まあ2級(セカンド)の壁は厚い。大きな実績を作らないとなれないからな。頑張って二人仲良く狙おうぜ」


「そうだね……うん、がんばろー!」


 カードは身分証代わりに持ってるものだとばかり思ってたけど、よく考えたらトレジャーハンターギルドのカードでいい物なあ。もっとはやくランクを聞いておけば良かった……。


 こうして私たち二人はのぼせるまで風呂に浸かることとなり、湯上がり後は気絶するように眠りに落ちていった。



  ◇


「おはようございます。昨日はお楽しみだったようですね」


 ギルドに行くとシェリーさんがにこにこと待ち構えていた。何がお楽しみだったってそりゃまあ狩りのことだよね……。


「討伐証明のキランビを出したいので表に来て貰えますか?」


「はいはい、ってまるごと持ってきたの?しょうが無いわね……」


 困った顔でカウンターから出てきたシェリーさんを連れカイザーさんの元へ。足をノックするとキランビを目の前に転送させてくれた。


「え?今どこからキランビが?ええっ?」


 しまった、おうちから物を取り出せる仕組みは内緒だったか。ま、今更どうしようもないし良いよね。


「私の機兵の新機能ってことで!はいはい、ほらほら!キランビですよ!2つありますよ!」


「うーん、新機能って…………あら?キ、キランビだけじゃなくてキランビルも討伐したの……?」


「キランビル?って、このソルジャータイプですか?」


「ええそうね。キランビだけでも数が増えればかなりの脅威になるんだけど、各巣に4体居ると言われてるこのキランビルはさらに脅威度が高く、2級(セカンド)向けの依頼として出されるのよ」


「せ、せかんど……」


「どおりで強かったわけだ……」


「よく倒せたわね……。まあいいわ。うーん……今日昇級しても3級(サード)だし、残念ながらクエストとしての報酬は出せないけど、キランビルの素材はキランビと違って需要があるし、良かったら買い取るわよ」


「本当ですか?」


「ええ、ほら、この針を飛ばす器官と羽根、そしてクチバシ。これらは欲しがる人が多いのよ。クエストの達成実績としては残せないけど、討伐実績としては残せるから是非売ってちょうだいね」


 と、端末が震えている。カイザーさんかな?シェリーさんに背中を向けて小声で話しかける。


「はい?カイザーさんですか?」


『私ですよ、レニー。羽根は私が欲しいので売らないでちょうだい。いいですね』


 それだけ言うと端末は静かになった。羽根?前も集めていたけど何に使うのだろう?スミレさんはパーツを集める趣味があると言っていたけど、研究でもしているのかな。


「っと、シェリーさん、羽根は欲しい人が居たのを思い出したので、それ以外お願いします」


「アラ残念、羽根はアクセサリーの素材にもなるし、私もちょっと欲しかったのよねーなんて。いいわ、じゃあ会計と昇級手続きするから少し待っててね」


 係員達がキランビ達を奥に運ぶのを見守り、シェリーさんとともにギルドに戻る。


 どうでもいい話をマシューとしているうちに用意が出来たようでカウンターに呼ばれた。


「はい、それでは今回の報酬です。キランビ討伐の報酬は銀貨10枚。本来の討伐クエストではなくて昇級クエストなので少ないけど我慢してね。そしてキランビルの素材がなんと金貨1枚!」


「き、ききんか1まい?」


「ばか、声がデケエよ」


「キランビルは個体数が少ないのもあるけど狩るのに苦労するの。それにあの針を飛ばす器官、アレが無事だったのが大きいわね。あれは武器の元になるから高く売れるのよ」


 それにしても驚いた。まさか金貨1まいだなんて……


「そして、これね。おめでとう!これであなたも一人前ね!」


 3級(サード)に書き換えられたドッグタグを手渡される。4級になったばかりなのでどういう反応をしたら良いのか困ったが、素直に嬉しさが勝ってしまう。


「ありがとうございます!」


 さて、3級になったことだしいよいよ例のクエストを……


「あれ、レニーさ、キランビルの稼ぎがあればあのクエスト受けなくて済むんじゃないか?」


「あっ、そっか!別に慌ててアレを受けなくてもいいんだ。なんというかなるようになっちゃったね」


 あははーっと、二人で笑っているとフラフラとこちらへ向かってきた人が崩れ落ちる。


「そ、そんな……おふたりのお帰りを今か今かと待っていましたのに……あんまりですわ……」


 その場にへたり込みしくしくと泣き始める謎の少女。一体私たちが何をしたー?

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