第五十三話 ソルジャー
キラリと腰の辺りが輝き、バシュっと音と共にギラリと鈍く光る何かが射出された。幸いな事に俺もオルトロスも飛びのいて当たることは無かったが、地面に突き刺さっているそれは予想通り鋭い針だった。
結構な太さがあり、俺の装甲でもヤバそうだ。これは当たったらいてえぞ……。
「くそー!降りてこない上に飛び道具があるのかよ!」
「うー……卑怯なり……」
次々と放たれるニードルを避けながら隙を伺うが、自らリスクを高める真似をしない知能があるのかこちらに向かってくる様子は無い。
「もー!こうなったら!!さんざん練習したアレで!!!」
レニーがニードルを避けながら石を拾い投擲する。特訓の成果もあり、以前より安定して飛んでいく。
マシューに夢中になっていたキランビは石に気づくのが遅れ、上手いこと命中した!が、致命傷にはならなかった。
「そんな!?なんて硬さなの!?」
「ストレイゴートみたいにゃいかねーってわけかよー!」
投石のダメージにより若干動きが鈍くはなったが、激昂し攻撃頻度が上がっている。弾切れという概念があるのであれば消耗戦に持ち込むという作戦をとれなくもないが、相手が魔獣という謎生命体である以上それに期待するのは危険だろう。逆にこちらが輝力切れで敗北するのが目に見えている。
「ちくしょう、他になにか飛び道具が……うちのライフルでもありゃ楽勝だったのによう」
飛び道具?そうか!いや……しかしあれは……。だが、ここは賭けてみるしか無いのか。
「レニー!リックが言ってたこと覚えてるか?ガントレットの秘密機能だ」
「あ、はい!何かボタンを押せって……」
「うむ、何か危険そうなので試してなかったが、あれは俺が思うに飛び道具だと思うんだ。恐らくガントレットから何かを飛ばす仕掛けがあるのだと思う」
「なるほど!ならばここを打開するチャンスになるかもしれませんね!やってみます」
「何が起こるか分からんから気をつけろ!マシュー!適当に投石して相手を引きつけてくれ!」
「わかった!レニー!頼んだぞ!ほら!こっちだ!蜂やろう!」
左に右に避けながら器用に投擲をするマシュー。いいぞ、ソルジャーの目が完全にあちらへ向いている。激昂して判断力が落ちているおかげだろうな。
「よし、レニー!当てろよ!」
俺の声を合図にレニーが両腕を前に突き出し、腰を下げて下半身を支える構えをとる。良い判断だ。何が起こるか分からないが反動が来る可能性は高いからな。
「いっけえええええ!!!!なんかでろおおおおおおお!!!!」
何が出るのか分からないためか、技名を叫ぶに叫べず変な雄叫びを上げる。さあ、何が起きる!何か起きろ!
ゴウ、と音がしてソルジャーに向かい飛翔していく……ガントレット!
ガントレットはソルジャーに到達するとその身体をガシっと捕らえる。
突然身体をつかまれ、戸惑うソルジャーだったが振りほどこうとした瞬間、強烈な力で地面に向かって引っ張られていく。
分離したガントレットにはワイヤーが仕込まれていて捕らえた獲物を引き寄せられるようだ。差し詰めワイヤードロケットパンチと言ったところか。
「……名付けてジェットガントレット……!」
あ、やっぱ言うんだ、必殺技……。
間もなく大地に叩きつけられ、ショックで動けないで居るソルジャーにマシューの影が忍び寄る。
「さっきから……さっきからチクチクチクチクチクチクチクチクうざったいんだよおおおおお!!!!」
「チク」と言うたびに1発殴り、ボコボコに殴っていく。素材を破壊しないためナイフを使わない冷静さは残っていたようだ。
「……マシューもうやめよう……その蜂さん……もう……」
「はあ……はあ……やったな……!」
輝力も絶え絶えだったが、なんとか撃破しその場にへたり込んだ。
「頑張ったなみんな……頑張った……今は休め……今……」
強大な敵を撃破し、勝利の味をぐっと噛みしめる。戦士たちの休息だ……。
『カイザー…言いにくいのですがこの場は危険です、直ぐに退避しましょう』
疲れた顔で嫌そうにするパイロット達だったが、モニタに映った敵影を告げる赤点の数を見て青ざめる。
『今ならまだ間に合います。走って!』
スミレの声を合図に慌てて駆け出す。残った輝力を絞り出し、フラフラになりながらも駆け抜けて漸く安全地帯まで退避した。
「はあっはあ…これは……しんどい……死ぬわ……あたい……」
「さ……さっきの……群れは……いったい……」
「恐らくだが、撲殺されたソルジャーから緊急アラートでも飛んだのだろう。蜂の毒にはフェロモンが含まれていてな、それをつけられると敵認定され、群れから追い回される羽目になるんだよ……。蜂の魔獣だ、似たような機能があってもおかしくは無い」
「うええ……アラートって言うか、殴った時出てた体液になにかそういうのが混じってたのかな……」
「……マシュー、あとでオルトロス綺麗に洗おうね……」
群れに警戒し物音に怯えつつも暫く身体を休め、漸く街に帰り着いたのはゲートが閉まるギリギリの時間だった。




