第五十二話 蜂退治
案の定、巣に近寄りすぎかけたマシューを必死に止め、巣から離れたところで作戦会議をしている。
「いやあ、すまねえ。身体が勝手に」
「仲間を危険に晒す真似は本当に辞めてくれ……」
俺が怖いのもあるが、何より危険だ。諭すようにゆっくりとお説教をしてやった。
「……さて、こうしていても拉致があかない。俺に良い考えがある」
「おいおい、成功するんだろうなそれ」
失礼な、俺は司令官的ポジションであって司令官では無いのでフラグにはならないはずだ!
「成功もなにも失敗しても別にこちらに被害は何も出ないからな。単純なことさ、奴らが来そうな場所で張ってれば良い」
「来そうな場所?わかるんですか?」
「ああ、蜂と同じような生態なんだろ……?なら……」
1匹で居るところを狙うにはどうすればいいか?それについて思い当たる節があったため、少し移動することにした。
◇
「で、どうして池に来たんだ?」
「簡単なことさ。巣の中はかなり蒸す。となれば室温を快適に保つため中を冷却しないといけないんだ。そのため、蜂は水を口に蓄え巣に持ち帰ってそれを冷却水に使うと言われている。なのでここで張ってれば来るってわけだ」
「へえー!カイザーさんって変なこと色々知ってますよね!本を欲しがるわけですよ」
変なことは余計だい。元々生き物は好きだし、ネットで色々見れたから浅い知識程度はあるしな。蜂の話も漫画かなにかで読んだ知識に過ぎないのさ。
周辺に水場はあまりない。今日は天気もいいし、必ずここに来るはずだ。と、程なくしてスミレから報告が入る。
『カイザー、早速お出ましです』
おあつらえ向きに一匹暢気にやってきたようだ。キランビは水場に着陸するとくちばしで器用に水を吸い上げ外部タンクに補充しているようだ。メカメカしい魔獣の姿は生活を便利にしてそうだなっと、観察している場合じゃないな。
「レニー、マシュー、用意はいいな?作戦通りいくぞ」
まず最初にマシューが飛び出した。駆け寄る足音に気付き、キランビは飛び上がろうとしたが遅い。素早く振られたマシューのナイフで斬られ、その勢いに負け大地を転がる。
「今だ!レニー!!」
「うおおおおおおおおおお!!!!!」
レニーが飛び込んだ勢いそのままガントレットで殴りつける。強烈なその1撃にキランビの体が破裂する。
『対象のエネルギー反応消失。お疲れ様でした』
「ふー!楽勝だったな!」
『楽勝楽勝~』
『ザクッ!パーンだったねー』
「良い作戦でしたよカイザーさん!えへへ、これで私も3級かあ……」
「ほらみろ!失敗なんてしなかっただろ。変なフラグなんてのはなあ……」
拍子抜けするほどあっさり済んでしまったが、こういうのはサクサク終わらせるに限る。無駄にドラマチックな展開になっても疲れるだけだ。
「はいはい、フラグが何かは知らんが助かったよ。しかしキランビって奴は単体だと大したこと無いんだな。うちのメンバーの話聞いてたからさ、実はあたいも少しびびってたんだ……へへへ」
「私も初めてだったのでドキドキでしたが、こんなもんかーって思いましたよ。来たのが働き蜂だったのが幸いでしたね」
まて、働き蜂だったのが幸いだっただと……?そのセリフはだめだ。それこそフラグ、絶対上位種かなにかがポップする奴だ……。
その手の予感は当たってほしくはないが当たるものである。間もなく、警戒するようなスミレの声でそれを悟る。
『……カイザー!新たな敵影1、接近しています!目視可能!レニー!マシュー!構えて!』
「「~~~!!?」」
「ま、またキランビのおかわりか?飛んでるとやりにくいなあ……」
「そ、それだけじゃないですよマシュー……これはさっきのとは違う……」
「これは……ソルジャータイプだとでも言うのか……?」
一部のアリには働きアリの中でも大型の個体が存在し、それらを兵隊アリと呼ぶことがある。攻撃特化型というわけではなく、多くの場合大きな荷物を運ぶなど、その力を利用した運用をされるとのことだが、目の前に居る大型のキランビはまさに姿からしてソルジャー、攻撃特化型だ。
先ほどの個体より大きなキランビは腰の辺りに何かヤバそうな装備が見える……。恐らく、ニードルガンの類いだろう。蜂だけに……。
「いいか、二人とも。分かっているとは思うがこれはさっきのとは違う、攻撃特化型だ。ハンターどもが苦戦しているのはこいつの事だろう、つまりここからが本番だ。気をつけて戦え、いいな」
「逃げろ、とは言わない辺り流石だぜカイザー!もっとも……逃げられる気はしないけどね!」
「飛んでる相手……どうすればいい?マシュー!?」
「え?メンバーは逃げてきた話しかしなかったから、レニーに詳しく戦い方を聞きたかったんだけど……まさかレニーもあたい頼りだったのかよお……」
「おしゃべりは後だ!来るぞ!」
キランビがスズメバチと同じ警告を示す動き、顎をカチカチと鳴らす音がどんどん強くなり……、腰の武装をこちらに向けた。




