第五十一話 蜂探し
今日は朝からレニーがやたらと張り切っていた。
昨日ギルドで話していた内容を聞いていたので事情は察しているが、空回りしないといいのだが………
「ほらほら!カイザーさん!きちんと索敵して下さいね!っと、それはスミレさんのお仕事か……スミレさんなら安心ですね」
さり気に俺をディスってきた!? ともあれ、やる気があるのは良いことだ。キランビとやらもそうだけど、魔獣の知識が無いのは痛い。なので先に本を欲しかったんだけどしかたないよな……金貨1枚じゃ……
今日はビークルモード……もとい、馬形態では無く人型で森を歩いている。あれは街道や原野のような所じゃ無いとその機動力を活かせないし、いつ魔獣が来るか分からないしね。現状頭突きや蹴り程度しか攻撃方法を持たない馬形態は戦闘には向かないのだ。
それに今はマシューも一緒だ。人型と馬型では移動速度に差が…あ!……そういえばマシューにアレを……っと、何か思い出しかけたところでスミレに話しかけられ引っ込んでしまう。
『カイザー、何か居ますね。この反応は……ブレストウルフ……どうしましょう?』
「む!獲物か!ここはあたいに任せてくれ!」
戦術モードにはいったスミレの声はリンクしている僚機全体に届く。退屈そうに後ろを警戒していたマシューが嬉しそうに許可を求めてきた。
「ん、いいけど気をつけてねー」
「おう!あれくらい敵じゃ無いよ!」
と、元気よく駆けだしていったが今言う"気をつけて”はマシューを心配して言った言葉では無い。折角だから素材が欲しいので壊さないように、と言う意味だったんだけど……
間もなくナイフをぶらぶらさせながらマシューが戻ってくる。手ぶらで。
「ちぇー、一匹しか居なかったよー」
「あれ?マシュー、素材は?」
「あっ、すまねえ……燃えちゃった……」
現場に行くと自らのタンクにより炎上したブレストウルフが無残に転がっていた。タンク傷つけちゃうとこうなるんだよね……。それ故買い取り金額が高いわけだが。
「私なら兎も角、マシューまでそれじゃあダメだよ……」
レニーが自虐めいた文句を言っているが、その通りだな。レニーは大雑把だから魔獣素材はマシュー頼りな部分もあったのだが。
幸い今回のクエストは討伐だけ出来れば良いと言うクエストだ。使い物にならなくとも、討伐の証拠を持ち帰ればさえ成功扱いになる。
なぜならキランビの素材はそれほど必要とされないためだ。使いにくいその素材は買取価格が安く、それに対してそこそこ面倒な相手のため好んで狩られることが無い。しかし、増えすぎると脅威となるため定期的にクエストとして発注されるらしい。
こうして昇級クエストになっている辺り、それでも最近は受注するハンターが少ないのだろう……。
「レニー、キランビの生息地っていうのは決まってるのかい?」
「うーん、それが年によって違うんですよね。普通の蜂と同じような生態で、毎年違う場所に巣を作るので……。ただ、その蜂のような生態って言うのがあるので、ある程度見当はつけられます」
「なるほど、その蜂が俺が知ってる蜂と同じなら俺も何となく分かるな」
別に巣を駆除するわけでは無い。そもそも巣の駆除となると今の我々では返り討ちに遭うのが関の山だ。しかし、巣を見つければその近くを哨戒している個体を見つけることが出来るだろう。
「レニー、キランビがどういう場所に巣をかけるかわかるか?」
「ええと、キランビは確かグーモが掘った穴を奪って巣を作ることが多いですね。グーモは斜面に横穴を掘るので……探すなら斜面でしょうか」
「よし、スミレ、この辺りの地形を調べ斜面を探してくれ。見つかったら周辺のスキャンをして獲物を見つけよう」
『了解カイザー、では始めます』
広域にわたるスキャンなので結構リソースを喰う。いざという時咄嗟に動けない程なので、マシューに頼んでオルトロスで警戒して貰う。
『こっちは異常な~し』
『こっちも異常なしーマシューはー?』
「いやいやあたいたち同じとこに居るからな?」
なんだか力が抜ける会話をしているが、仕事がきちんとしてれば文句は無い。二人になってこう言う任務……いや、クエストが本当にやりやすくなった。マシューのサプライズ加入は嬉しかったな……。
『カイザー、発見しました。レニー、マシューモニタを見て下さい』
共有されたデータをチェックする。……ふむ、ここからそれほど遠くは無い場所にエネルギー反応がみっちり詰まった場所があるな。アレが全部キランビだとするとゾッとするな。人間だった頃、渓流釣りに行って蜂の大群に追われたことがある。幸い近くに車を停めていたのでそこに逃げ込み難を逃れたが……、いつまでもしつこく車に体当たりをする蜂は恐ろしかったな……。
それ以来蜂が苦手なのでなるべく巣に関わるクエストは受けたくないな……。
「さて、行きますか!カイザーさん、マシュー!」
「お、おう……いいかレニー、くれぐれも巣に近寄りすぎるなよ?いざとなったらコントロールを強制的に奪うからね?いいね?」
「ん?なんだカイザー、蜂が怖いのか?なさけねえ」
『マシュー、蜂の巣を馬鹿にしてはいけませんよ。聞いたでしょう?2級パーティでも全滅することがあると』
「そ、そうだぞ!良いか、単体だと弱い魔獣でも群れとなれば脅威度は上がるんだ!わざわざ危険な場所に行く必要は無いんだからな!」
「カイザーさん……なんだか必死ですね……。私も危険な思いはしたくないので巣には行きませんってば……」
「はっはっは、わかったよ。よし、カイザーが怖がらないようあたいがバッチリ倒してやるから心配すんな!」
くそー!司令官的なポジションの威厳がどっかに飛んでいった音がしたぞ。
……ともあれ、向かうとするか……気は向かないけど……。




