第四百八十二話 合身
「すごい……全身を暖かい何かが巡ってる……」
「レニーもか? あたいもだ……」
「これはもしかして、輝力……なのですか?」
「ポカポカするでござる」
「それになんだか……コクピットが光ってる?」
「いや……アタイ達も光ってるぞ……」
ポーラから供給された輝力は機体だけではなくパイロット達の身体にまで輝力を満たし、その身体を輝かせている。正直この現象には俺もスミレも驚いているのだが、キリンやフィアールカが特に何も言わない辺りからすれば想定内なのだろう。
しかし、先程まで枯渇寸前だったというのに、この溢れる輝力はなんだ。背面装備として装着されたポーラから恐ろしい量の気力が供給されているのは理解できているが、その圧倒的な量に驚くばかりだ。
元々、ポーラから輝力供給を受ける予定があったため、このチャージ量はわかるのだが、今もなお日光を受け輝力変換を続けているのには恐ろしさすら感じるよ。
『何を言ってるのカイザー。この機体を動かすためには溢れるほどの輝力が必要なの』
『くだらない事を考えてないでさっさと勝負をつけるの。相手だって待ってはくれないの』
……そうか、今やフィアールカも俺の一部になっている。思考がダダ漏れになる相手がまた一人……って、そこまでアクセス出来るのはスミレくらいなのでは?
『ふふ……私やフィアールカに隠し事が出来ると思わないほうが良いよ、カイザー』
……。
っと、落ち込んでいる暇はないな。そうだ、いくらルクルゥシアが空気を読むとは言え、流石にいつまでも待っていてくれるわけではない。
奴が攻撃をしてこなかったのは、こちらが得体の知れない動きを見せていたから警戒をしていただけのこと。その結果が新たなフォームで、驚異になると察すれば……っと、言ってる側からだ。奴は身体をうねらせ、何かこちらに攻撃をしてこようとしている。
しかし、パイロット達は戸惑ったままだ。合体により、あまりにも変わってしまったコクピット。今まで目の前に存在していたはずのコンソールが消え、一体どうやって俺を操縦すればよいのか困惑しているのだ。
確か、フィアールカから送信されたデータのどこかにその記述があったはずだが……と、俺が探すまでもなく、フィアールカから説明が入る。
『パイロットの皆よく聞くの。今皆はカイザーと深く繋がっている状態なの』
『集中するの。そうすれば自然とどう動かせば良いかわかるの』
俺と……パイロット達が繋がっている? んん……っと、この記述か。
[AMATERASフォームは輝力によりパイロットと機体を一体化させ、より直感的な操縦を可能とする。
それぞれのパイロット達も深く繋がり合い、今までにない程連携が取れた操縦を実現する]
なるほど……それでコクピットやパイロット達まで輝力に包み込まれていたというわけか。
フィアールカ達から伝えられた話を聞いて戸惑う彼女達ではない。直ぐにそれを納得し、じっと意識を集中しはじめた。
その間にもルクルゥシアの攻撃はこちらに迫っている。あまりにも大きすぎるその触手がこちらに向かって伸ばされている。
それでも、動かぬ我々を見たルクルゥシアは訝しんだのか、一瞬その手を引っ込めた。そのまま手を伸ばしていればそれは我々のもとに届いていたかも知れないのに、一瞬であれその手を止めてしまったのは奴の欠点……いや、自然とお約束に沿ってしまう宿命による悲しき行動か。
その一瞬の隙は我らにとって好機となる。
俺の心に、俺の思考空間にパイロット達が現れた。それは彼女達の意識が俺と深く繋がり、操縦可能となったことを意味している。となれば後は安心だ。
「まさかここで君達と会う日が来るとはな」
「……えっと……カイザー……さん?」
「ああ、俺だ。戦闘中、君達に操縦を任せている時はここからこうして見させて貰っているのさ」
「えっとその……色々と伺いたいことがありますが、今は時間がありませんわね」
「そうだな。気になることは有るだろうが、それは全部終わってからのお楽しみだ」
「うっし!約束だぞ、カイザー!」
「ああ、約束だ!」
「私にはこっちのほうがしっくりくるよ、ルゥ」
「……だから、その話はあとだよ、フィオラ」
「今ならアタイも全力であいつをぶん殴れる気がする!」
「頼むぞ、ラムレット」
「では、いくでござるよ、カイザー殿!」
「ああ、任せたよシグレ! よし、ブレイブシャイン!突撃開始!」
「「「「了解!」」」」
しかしなんとも不思議な感覚だ。なんと例えればよいのだろう? 俺の意識内にレニー達が居る、言葉にすればその通りなのだが……今の俺は、コクピット内を俯瞰して見ている状態なのだ。
自立機動時や、意識してそうしている時の自分はカイザーのカメラを我が目とし、カイザーの手足を我が手足と認識し、我が身として活動しているわけだが、やはり誰かが自分の身体を操縦しているというのは元が人間であったせいか、慣れ切る事ができず、操縦に影響を及ぼすことが考えられたため、何か事情がある時――サポートの必要が生じた場合を除き、機体から意識を離し、OS空間に近い場所から俯瞰するように彼女達を見守っていたのだ。
その空間に今彼女達が来ている。
まばゆい光に包まれたコクピットを見れば、そこにもパイロット達の姿が有るのだが、それと同時に自分の目の前にも勇ましい表情でスクリーンを見つめる彼女達が居る。
なんとも不思議な状況では有るが、カイザーはこれまでにないほど滑らかに動けている。
いくら彼女達の練度が上がったとは言え、カイザーという機体は他人の身体に等しいものだ。
『まるで我が身の様に操る』と言う表現があるが、それでも『様に』であって『我が身』ではない。しかし、今の彼女達はこのカイザーという器を我が身として、伝達のロスもなく、一切の無駄を生じぬ操縦を実現させている。
なにが『より直感的な操縦を』だ。それ以上じゃないか。
ルクルゥシアの触手を一つ、また一つと躱し。
また、巨大なそれを物ともせずに巨大な剣――通常であれば、必殺技としてポーラから地上に投下される大光輝剣をその手に持って、軽々と触手を切り捨てていく。
【GhaaaaaaaaaAAA!オノレオノレオノレ!忌々シキ光ドモメ!AAAAAAAA……!マダ、マダ輝コウトスルノカ!忌々シイ忌々シイイマイマイマAAAAaaaaaAAAaaaa!!HiKIII引裂イテITE裂イテ我ガ身我GA身WAGAMIノノノ糧にShGUAaaaAaaaAAaa!!!】
ルクルゥシアの口から呪いの言葉が吹き出し、更にその身体が膨れ上がる。自らから生じた負の感情をエネルギーに変換し、その力を増しているようだが……、どうやら身体の方には限界があるらしいな。
身体のあちらこちらからボロボロと何かがこぼれ落ちては消えていく。
自壊しかかっているのだろう。
一瞬、このまま時間を稼いでいれば勝手に斃れてくれるのではないか? そんな甘い考えが頭をよぎった。
しかし、どうやらそれは不味いようだ。負のエネルギー、魔力のような別のものを溜め込んで崩壊寸前なのはルクルゥシアだけではなく、黒龍のコアもだった。
膨大なエネルギーを溜め込んだコアが崩壊すればどうなってしまうか?
そう考えた瞬間、眼の前にそのシミュレーション結果が現れる。流石スミレ先生、仕事が早い。
その瞬間にルクルゥシアがどの様な体勢をとっているかで結果が変わるようだが、良くて我々の消滅、次に衛星……暫定的に月と呼ぶ星への大ダメージ。一番最悪のパターンは足元に広がる我らが故郷、蒼き惑星へのダメージだ。
無論、どの結末も許されるはずがない。我々が掴み取る未来は、皆が笑顔で暮らす暖かな未来だ。
ルクルゥシア、その身が果てる前に俺達が解き放つ!
誤字報告ありがとうございます!
後なんか、グランシャイナーが大気圏外に出られないような事を書いてしまっていましたが
思いっきり気のせい(以前どうやってポーラまで行ったというのか)だったので
しれっと直しておきました。




