第四百八十話 咆哮
迫る触手を4の剣で切り払い、降り注ぐ岩塊を5の刃で返し覗く瞳を両の刀で斬り裂く。
懐に入れたからと言って、ルクルゥシアの攻撃が緩くなるということはなく、その巨体のあちらこちらからランダムに生成される触手は油断を許さず、それから放たれる精製された岩塊は重く鋭くて、少々掠っただけでも局部フィールドを揺らがす程の威力。
「これは……中々に……きついね!」
「キリンの訓練を思い出す辛さだ……な!」
レニーとマシューが辛そうな声を出す。
短期決着。それしかないと踏み、無茶を承知で飛び込んだのが功を奏してルクルゥシアを構成する下部、約12m程の範囲に渡る触手群はさっぱりと切り拓かれ、その範囲を今もじわじわと広げている。
しかし、パイロット達への負担もかなりのものだ。多量の輝力を消費する百華繚乱で使用している輝力は、その半分以上を輝力炉から賄っては居るが、パイロットからの供給もゼロではない。
今も吸われ続けている輝力、そして一瞬の油断が命取りとなるギリギリの戦いは、精神的に多大な負担を強いている。
「でも……、キリンの訓練はこんなもんじゃないよね、お姉ちゃん」
「うう……こんな所であの訓練のありがたみを理解するのは嫌だな」
……こんな時でも呑気な会話をしているのだから、この子達には敵わないな。
手を休ませること無く、ルクルゥシアの身をなます切りにする俺達だが、適当に攻撃しているわけではない。俺達が目指す物、それは奴の身体の中心部に存在する。
スミレ達の解析により、奴の中心に強大な魔力を発する器官が確認されている。それこそが現在の奴をその姿に繋ぎ止めている要石、巨大な魔石である。
ここでおさらいだが、ルクルゥシアは俺や僚機達と同じく別世界の存在、もっと正確に言えば別世界である日本に住む人間たちが創作した物語の中から喚び出された存在である。
その物語というのは言わずもがな『真・勇者 シャインカイザー』だ。この作品は所謂ロボットアニメと呼ばれるものであり、ジャンル分けするならば『SF・ロボット作品』に分類されることだろう。
そう、SFなのである。いくら邪神と呼ばれる存在であっても、登場作品がSFである以上、その身を構成するルールは『科学寄り』に解釈され、構成されている。
ルクルゥシアは『不定形のわけがわからない未知の存在』として解説されてはいたが、その体内に魔力を発生させる器官と言う物は存在していない。つまり、奴は本来魔石を持たないのだ。
現在奴の体内に存在する魔石は、本来黒龍のものなのだ。
黒龍を甘い言葉で籠絡し、我が身の糧として取り込んだ際に得たものである。取り込む際にかなりの無理をしたようで、成長するまで自我が薄くなっていたらしいのは我々にとって幸運だったが、こうして成長した今、奴は本来の知能と力を取り戻し、黒龍の魔力を合わせてさらなる強敵となっているわけだ。
しかし、それもその魔石が有るからこそだ。
魔石を取り払ってしまえば奴は本来持っている以上の力を出すことができなくなる。それどころか、ここまで無理をしていたのだから、そのまま自壊する事も予想される。
つまり、我々の勝利条件とはルクルゥシアの体内から黒龍の魔石を救い出すこと。
開幕からラッシュをかけているのはそのためなのである。
現在、残存輝力値は安全圏をやや超え、アラートが点灯している。しかし、それと同時にルクルゥシアの身体もまたアラートを鳴らしていることだろう。
「もう少しです、みんな!頑張って下さい!」
「「「「うおおおおおおおおお!!!」」」」
機体から放たれる斬撃が速度を上げる。
魔石まであと僅か。
まるで巨山を掘削している重機のように、ルクルゥシアの巨体を斬り刻んでいく。
『GhhoAaaaAaaaアアアア!!!ヤメロヤメロ!ヤメロオオオオ!!!』
ルクルゥシアが焦る声が機内に響く。
キン、と薄皮一枚斬った所で紫色の光が漏れ出してくる。
「見えた!黒龍の魔石だ!」
「このまま周囲を掘削し取り出して下さい。何が起きるかわからないので、なるべく魔石は傷つけないように」
「GhrRrrrauaaaaaAAアアアアアア!!!」
紫色の光が徐々に徐々に強くなり、魔石が露出していく。我々の勝利は目前である……そう確信した時であった。
「RrrrrrrrrraaaaAAAAaaaaaAAAAA!!!!ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ!!!GhaaaaarrRrrrrrrrr!!!GhaaarrRrrrrr!!!ユルサヌユルサヌユルサヌ!!!GhaAaaAAAAAA!!!」
ルクルゥシアの咆哮が機内に響き、強烈な負の感情が辺りを埋め尽くす。あまりにも凄まじいその感情はパイロット達の心を揺さぶり、攻撃の手を止める。
ほんの数秒ではあったが、一同は呆然とし、次の行動を取れなくなっていた……そんな我々を救ったのはスミレの声であった。
「だめ!カイザー!みんな!直ぐにその場を離れて!」
「なっ!?くっ! シグレ!シグレ!しっかりしろ! 精密駆動モード解除!速やかにサブウィングを展開!ブースト全開だ!下がれえええええええええ!!!!」
「あ……ああ!りょ、了解でござる!フェニックス!」
ルクルゥシアに向いていた身を翻し、ブーストを点火した瞬間、コアを中心として多大なエネルギーが放出されるのが観測される。
「黒龍コアの魔力値急速に上昇中……いえ、それだけではありません!カイザー!」
「っくっ!出力全開!残りの輝力を全部回して飛べええええええ!!!」
足元の惑星から、それに重なるように浮いているルクルゥシアから離れるべく残存輝力を全てブースターに回して全速力で離脱する。
しかし、その速度に劣らず……ルクルゥシアの身体が見る間に膨れ上がっていく。その質量は既に計り知れない……、それまで見えていた地上の惑星を覆い、こちらからはその姿が見られなくなるほどだ。
『こちらアズベルト!カイザー、一体何がどうなっているんだ?君達は無事なのか?空が……闇に覆われて……何が何だか……』
『ナルスレインだ!何が起きている?カイザー!お前達は無事なのか!?まだ戦っているのか!カイザー!』
『レニーちゃん?大丈夫なの?レニーちゃん!フィオラちゃん!』
地上から次々に届く通信。ルクルゥシアが日光を遮り日蝕の様な現象が起きているらしい……。
それぞれに『無事である』と返すのがやっとだ……。まさかここに来てこんな隠し玉を出してくるなんてな。
「カイザー、残存輝力値……10%を切りました……これよりパイロット達の輝力頼りになります……」
こうなることは分かっていた……理解した上で用意はしてあった。しかし、想定外の事が起きてしまった。これは……不味い……。
パイロット達も残存輝力は兎も角、緊張から普段以上に心身ともに疲労していて、これ以上無理をかけるのはあまり良くはなさそうだ。
再度の百華繚乱発動はどう考えても不可能であるし、何よりルクルゥシアは回復をした上でその身体を何十倍にも巨大化させている。
正直に言おう、手詰まりだ。予定では太陽光にて輝力の充填をしていたポーラよりその供給が始まり、一気に勝負をつけるはずだったのだが……、ルクルゥシアが負の感情を爆発させ、それをエネルギーに変えるなど全くの想定外。
そこまで予想出来ていなかった俺の責任だ……。
機内の空気は重く沈み込んでいる……が、パイロット達の目にはまだ闘志が残っている。まったく俺には勿体無い立派な子達だ。出来るならばこの子達と共に勝利のポーズを決めたかったのだが……同シミュレーションをしてもここからでは難しい……いや、不可能だよ……。
出来れば言いたくなかった、けれど現実をキチンと見つめ、言わなくてはならない……このセリフは俺が言わなくてはならないんだ。
「すまん、皆……俺の作戦ミスだ……。奴の力を侮っていた。言いたくはないが、このまま行くと俺達は…‥」
敗北する……、その言葉が俺の口から放たれる瞬間、それは遮られ、重く沈みかけていた俺の気力が浮上する思わぬ援軍が到着した。
『こんな事もあろうかとー!なの!』
『なんとか間に合ったのー!』
「カイザー、当機に向け、2機のエネルギー反応……グランシャイナーとポーラです」
「何…!?ポーラは……兎も角、グランシャイナー……だと?」
城までは護衛としてつけてはいたが、あの船は地上に置いてきたはず。あの艦の役割はもう終わった筈なのだが……。
……一体何がどうなっているのだ?
『わたしとキリンが居れば不可能は無いの!』
『下のわたしががんばった成果なの!』
『万が一のための保険というやつだよ、カイザー』
一体どうしてこの場にやってきたのか、何時そんな改装を施していたのか、理解が全く追いついていないが……この状況を打開してくれるのならば、なんでもいい。ああ、なんでもいいさ!一度諦めかけた勝利の道を照らしてくれるなら大歓迎!
「よし!この際お前達が何をやらかそうとも歓迎してやる!フィアールカ!キリン!良くわからんが頼むぞ!」
『『まかされたの!』』
『後悔しないでくれよ ふふ……いや、後悔させるもんか。私はいつだって君を喜ばせるために居るのだからね』
彼女達が何を成そうとこの場に現れたのかはわからない。しかし、この状況での援軍は何より心強く、消えかけていた俺達の未来は再び明るく光り始めた。
宇宙で駆けつけてくれた援軍達の力……ともに勝利へと向かう光は何より嬉しかった。
誤字報告ありがとうございます。どうも誤字に甘い目をしているみたいなのでめちゃくちゃ助かっています。




