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第四十六話 達成報告

――そして朝が訪れた。


 ジンとトレジャーハンター達、そして……、マシューに見送られここを発つ時が来た。


 マシューを誘わないことについてレニーは何か言いたそうにはしていたが、最後までそれを口にすることはなかった。家族同様にトレジャーハンター達と話す姿、ギルドを護る役割、俺と同様にそれが頭によぎってしまったのだろう。


 昨夜の様子とは打って変わり、マシューはにこやかに見送りに来てくれた。それが消して強がりではないのは元気そうに振られている尻尾をみればわかる。


「どっかで見張ってやがるんだろうと、不安の種だったバステリオンのやつはもう居ねえ、お前さん方がここに襲撃してきたときはどんな悪夢かと思ったが、結果としてより安全に発掘作業に集中できるようになった。ありがとうな」


「こちらこそ、礼を言う。誤解とは言え迷惑をかけた俺たちを許してくれて感謝する。

 ……そしてマシューとオルトロスというかけがえのない仲間とも出会え、レニーも成長できた。ありがとう!」


 固く握手……は出来ないが、ジンの前に屈んで拳を突き出すとそこにコツンと拳を当ててくれた。



「マシュー…元気でね」


「レニー……ほら、そんな顔すんな!さっさといけって!今日はこれから昇級すんだろ!笑った笑った!」


「う、うん!そうだね!えへへ……、マシュー!また一緒に組もうね!きっとだよ!」


「ああ、すぐに会えるさ!頭領だとか気にすんな!用があればお前らんとこに直ぐ飛んでくよ!またな!」


 盛大に見送られ、俺達はすっかり見慣れた門をくぐり山を降りる。


 

 道中、俺もレニーもスミレも…それぞれがここ数日間の思い出にひたり、普段より言葉少なにフォレムに向かった。


 ◇


「はあー、あのゲートを見ると帰ってきたなあと思うなあ」


 フォレムのゲートを前にしてホッとしたような、嬉しいようなそんな顔でレニーがしみじみと言った。


 正直なところ、俺としてはこの街よりもマシュー達の所のほうが滞在期間が長かったためホーム感が強い。


 それを言ってしまったら神の山や、今は無きあの中間地点がマイホームと言った感じだが、あれは街とはいえないからな……。何処かに基地でも作って落ち着きたいもんだ。


 そして、こっちもまた、マシューたちの所のほうが馴染み深くなってしまった「ギルド」だ。クエストを受けてから結構立ってしまったが、報告期間は特に設けられてないとのことだったのでほっとする。


 ハンターズギルド前にある広場…、駐車場的なスペースでレニーが俺から降りた。クエスト報告用と、資金確保のため多めにジャモ草の束をバックパックから取り出すと手を降ってギルドに入っていった。


------


 ギルドに入るとレニーは昇格手続き、そして例の事件についての報告をしに受付へ向かった。受付は3つあり、そのうち一つ、女性が座っているところが空いていたのでそこで係員に声をかける。


 ランクと身分を証明するドッグタグを渡し、昇級クエストの報告であることを告げ納品した。係員が笑顔がそれを受取り、あとで呼ぶので待っていてくれと言うのを聞いて思い出したかのようにもう一つの要件を伝えた。


「えっと、そうだ。今日は別件の報告もあるんでした」


 係員は書類に向けていた視線を上げ、不思議そうな顔でレニーを見る。


「別件?他にクエストを受けてたの?あなた名義では昇級クエストだけよね?」


「いえ…、ハンター同士のいざこざというか…ちょっと事件に巻き込まれてしまって……」


 ハンター同士のいざこざは良くあることだが、大体がしょうもない決闘騒ぎだ。しかし、事件となると話が別である。係員はレニーが大げさに言っていることも考えたが、他のハンター達が居る中でする話ではないと判断し、2階にある会議室にレニーを案内した。


 

「…というわけで、まんまと嵌められ他所のギルドに迷惑をかけることになってしまいましたが、結果としてパーティ名「ジダニックの牙」メンバーのジック、ダック、ニックの3名を拘束し、大狼山(ケルベラック)のトレジャーハンターギルド、赤き尻尾にその身柄を預かってもらってます」


「なるほど…、ジダニックの牙には前から悪い噂がありましたので、その話が本当であれば処分は早く決まることでしょう。後ほど係員を赤き尻尾に派遣し事情を聞き、身柄を受け渡して貰うことになりますがよろしいですか?」


「ええ、お願いします」


「それで…、赤き尻尾よりジダニックの牙に対して被害届が出された場合、それを食い止め捕らえたということでハンターズギルドよりあなたに報酬が出ます」


「えっ、いやそれは貰えないですよ!私も片棒担がされて襲撃したようなものですし!」


「いえいえ、それに関してはお話によると双方の合意により既に賠償が済み、決着が付いていますので理由にはなりません。


 あと…これは独り言ですが、3級(サード)への昇級条件として犯罪者との交戦というものがあります。3級から盗賊退治や有事の派兵等、対人の依頼をされることがあるのですが、いざという時、敵に刃を向けるのに躊躇して味方を危険に陥れるようなハンターをふるい落とす、というのがその理由です。


 今回の件は十分にその実績として使えますが、それに関して報酬を受け取らないのは行為自体を否定すると取られ、実績として使いにくくなるんですよ」


「ぐ、ぐぐぐ……な、なんてめんどうな……じゃ、じゃあ、それなら…それで…いいです…」


 レニーは正直なるべく人を殺したくなかった。盗賊退治となれば少なからず殺してしまうこともあるだろう、そう考え、ならば殺さずに済んだ今回の件でそれがクリアできるという話は僥倖。断る理由はなかった。


「はい、ではそのように処理しますね。とはいえ、すぐに3級(サード)というわけにはいきませんからね、他にも素材回収のクエストを達成する必要がありますので、それは後ほど調べてみてください」


 と、経緯を細々説明したり、現地の様子を細々と説明したりで結構な時間が経過していた。出されたお茶はすっかり冷たくなっていたが、喋りすぎて乾いた喉にはありがたかった。


「しかし、変わった機兵を手に入れたとは噂になっていましたが、よく現役ハンター3人を拘束できましたねー。話によると機兵に乗っていたとのことですが……」


「いえいえ、それは赤き尻尾のライダーにも手伝ってもらったので…」


 「それでも凄いですよ。レニーさん、もしかして今までは世を忍ぶ仮の姿で実は……?なんてねー」


 と、堅い話が終わり、砕けた雑談タイムに入った頃、扉がノックされ別の係員が顔を出す。


「シェリー、ちょっと」


 シェリー、さきほどまでレニーから話を聞いていた係員は同僚に呼ばれ部屋から出ていってしまった。一人になったレニーはさて、どうしたらいいだろうと困っていたが、シェリーは直ぐに戻ってきて「そのまま待っててください」と言い、また何処かへ行ってしまう。


 もう話すこともないのにどうしよう、そう言えばバステリオンの事話してなかったな、言ったほうが良いのかな?等と考えているとシェリーが戻ってきた。


 これでもう帰れるのかな?昇級したらおっちゃんたちに報告に行かなきゃな、なんて考えていたが、どうやらまだそうは行かないらしい。


「レニーさん、先程の件について、もう少しお時間をいただく必要ができました。どうやら……、関係者が到着したようですので…」


 関係者、ときいてレニーが驚く。まさか連中の仲間が話を聞いて無罪を主張してきたのだろうか?もしそうならややこしいことになるなと、シェリーの様子を伺うと、そちらもなんだか変な顔をしていた。


 間もなく、階段を上がる足音が聞こえ、関係者だというものが係員と共に部屋に入ってきた。



「赤き尻尾、頭領のマシューだ。レニーと捕らえた犯罪者バカどもを連行してきたぞ」


「マ、マシュー?え、ええ?どうしてー?」


 係員の後ろからぴょこんと顔を出したのは見慣れた犬耳少女、マシューだった。つい今朝方涙ながらに別れたばかりなのに、どうしてこんなところに?レニーは驚きのあまり開けた口が閉じれなくなっている。


 マシューはそんなレニーを見て満足そうに笑うと、窓から下に見える機兵置き場を指差し得意げな顔をした。


「へっへっへー、あたいが直々に忘れもんを届けに来てやったんだぞ、感謝しろよな!」



 椅子から立ち上がり窓から覗くと、馬車で連行されてきたジダニックの牙がトレジャーハンター達からギルド職員に引き渡されていた。


「ええっ、ジダニックの牙!?あ、あれは忘れ物って言わないよ!でも、なんでわざわざ今日?後からギルドの人に来てもらうって話だったじゃないの」


「ばーか!あんなのずっと置いてくの嫌に決まってんだろ!だからハンターズギルドの人達と行き違いになる前にって急いで連行してきたんだよ!そ、それよりさ……、お前達、もっともーーっと大事なもん忘れてったろ!」


「えっ……?」


 マシューは胸をドンっと叩き、少し照れた顔で……


「た、大切な仲間を忘れてってどうすんだよ!あたいも一緒に行くからな!仲間なんだから当然だろ!断られたってもう帰らねえからな!」


「うう……う…ましゅう~…」


「カイザーの奴には後で説明すっから!任せとけって……お、おい泣くなって!」


 別れから最短で再開した二人はまるで久々に出会った友のようにそれを喜び合うが、


 ゴホン!と響く咳払いに我に返ると、困った顔のシェリーをみてやるべきことを思い出したのだった。

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