第四百六十四話 迷い
作戦決行は明日早朝。
普段より早めに夕食を取り、明日に備えてそれぞれテントに入って英気を養う。
ルクルゥシアが城を取り込むまでに巨大化していると知ったブレイブシャインパイロット達は驚いてはいたものの、誰一人として畏れることはなく、それぞれが必ず倒そうと決意を新たにしていた。
そして現在時刻は22時を過ぎた頃。早めにテントに入ったこともあり、既に辺りはシンとしていて、起きているものと言えば見張りの兵士くらい。皆明日に備えて眠りについている……と思ったのだが、誰かがムクリと起き上がり、テントから出ていくのが見えた。
誰か……というか、レニーなのは一緒に寝ていたので分かっているのだけれども、一体どうしたのだろうか。トイレであるというのならば問題はないのだけれども、レニーが向かった方向にトイレはない。
まさか寝ぼけているのではあるまいな。
と、レニーの元に行ってみれば、丘の上に腰掛け、遠く見える帝都を見つめていた。
「レニー」
声を掛けると少々驚いたようで、ぴくんと身体を震わせ、こちらを向いて安堵した様な表情をうかべる。
「カイザーさんかあ。へへ、寝られなくてさ」
隣に腰掛け、話を聞いてみれば、寝袋に潜り込んだは良いものの、寝付くことが出来ずにずっと悶々と考え事をしていたらしい。そしてどうにもこうにも本気で寝られないため、頭を冷やすためここにやってきた……と。
「前にさ、ルッコさんと帝都を歩いたことがあるんだ」
「レニーが一人でこっちに飛ばされた時だね」
「うん。私さ、帝国の人達ってもっと怖いと思ってたんだ。国交は殆ど無いし、入ってくる情報といえば技術を独り占めして、いつかトリバに攻め込むために力を溜めてるーとか、そんなんばっかでさ」
帝国は不気味な存在として語られることが多い。曰く、好戦的な人種であり、国外の人間と見れば問答無用で襲いかかってくる。曰く、機兵に大して異様な執着を見せていて、その秘密に触れようとしたならば二度と祖国の土を踏めなくなってしまう。
さらには、口には牙が生え、かつて大陸に居た知恵ある魔物の様な姿である、とか、散々な言われようである。それもこれも、地続きでありながら、半鎖国のような状態を長年続けたのが原因なのだけれども、それにしてもあんまりな話なのだ。
帝国と和平を結び、友好条約が結ばれているとは言え、それはあくまでも現在の皇帝であるナルスレインと彼が興す新たな『シュヴァルツヴァルト帝国』の話。
前皇帝はルクルゥシアによって命を散らしてしまって入るのだが、ルクルゥシアがその身体を使い、帝国を掌握している以上、傍から見ればクーデターによる内紛状態にしか見えないのが現状である。
なので、あくまでも和平を結んだことを知っているのは各国の上層部及び、軍組織のみ。機密であるというわけではないので、何処からかその情報が漏れることは特に禁止はしていない。あくまでも大々的に発表はしていないというのが今の状況だ。
なので、未だ多くの人々は帝国に対して敵対心や恐れを抱いていることだろう。
「でもさ、当たり前の話だけど、帝国の人達も私達と同じだったんだ。変わらない姿……優しい人、面白い人、楽しい人達が居て、悪い人、嫌な人、つまらない人も居る。私達と変わらない人達が変わらない生活を日々頑張って送っていたんだ」
「そうだね。リンばあちゃんもジルコニスタもナルスレインも……リリィやアランだって今じゃいい仲間だし、この間寄った村の人達も気のいい人たちだったよね」
「明日……あそこで戦ったらさ……お城はしょうがないけど……街だって壊れてしまうかも知れない。私達が……壊してしまうかも知れない。人々の暮らしの場を、思い出が詰まった街を壊してしまう……そう考えたらね、なんだか胸がいっぱいになって……眠れなくなっちゃってさ……」
それで……街を眺めながら思いつめた顔をしてたわけか。
「レニーは……優しいね。人の気持ちを考えられるいい子だ。流石私の相棒だよ」
「えへへ……」
「確かに……、被害は避けられないかも知れない。ジルコニスタやナルスレイン、リンばあちゃんとはその辺りの話もキチンとして、許可……というわけではないけれど、覚悟はしてもらっている」
「うん……そうだよね。この国の人達には話しておかないといけないよね」
それでも、街を瓦礫に変えてしまうことには代わりはない、それを私達が、私達の手によって破壊されてしまう。その事実がある以上、レニーの表情が晴れることはないだろうな。
「まだ不確定だから詳しくは話していなかったけどさ、上手くルクルゥシアを誘導する事が出来るかも……知れない。それが叶えば、城はしょうがないけれど、街の被害は最小限に抑えられる。だから……そう悲観する事はないかも知れないよ」
作戦はあくまでも作戦。こちらの都合に相手が乗るとは限らない。けれど、そこに希望が有るならばそれにかけてみるのも良いだろう? そんな具合にレニーに話してみれば……思った以上に元気が出てくれたようだった。
「壊れないかも知れないし、壊れちゃうかも知れない。でも、壊れないかも知れないという希望があるならば、私はそれに乗りたい。より良い未来が有るならば、私はそっちの未来を、明るい未来を掴みたい!」
あっ……これはこのセリフは……
「つかめる未来が有るならば、掴んで離さず手に入れてやる!新たな朝日に輝く未来を掴んでやるぜ!」
「……TV版シャインカイザー41話……最終決戦を前に竜也が叫んだセリフだね」
「はい!私達も彼らと同じ宿敵……ルクルゥシアと戦い、この地を護らなければいけないんです。だから、竜也達と同じく、僅かでも希望があるならばそれを掴んで離さない……うん、掴めばいいんです」
「ああ、掴んでやろう!そして、皆で新たな明日を迎えるんだ!」
「ふふ、カイザーさんもノリノリですね」
「言うなよ、言われると恥ずかしいんだから……」
「あはは……はー、よし!元気出た!カイザーさん、戻りましょっか」
「うん。明日に向けて……たっぷり眠ろう!」
立ち上がり私に向けて手を伸ばすレニーの表情にはもう迷いは残っていなかった。他のパイロット達のメンタルも不安では有るが、リーダーであるレニーが引っ張ってくれると信じている。
……頑張ろうな、みんな。
誤字報告ありがとうございます。めっちゃ助かってます。




