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第四百六十二話 城の秘密

 妖精2体に怪しげなクマとキリンのぬいぐるみ。一見すれば非常にファンシーな空間なのだけれども、私以外の参加者達はどれもえげつない知識と行動力を持っているのだから恐ろしい。


 実際、目の前には既に多数のウインドウが投影されていて『ルクルゥシア城』の様子が丸裸にされている。普通は突入するまで相手の情勢はわからない事の方が多いはずなのに、ここに来て自重をしようと考えない技術チートが炸裂してしまっている。


「カイザー、ここをみるの。すっかり変質してしまっているのわかる?」


「あー……なるほど、これは酷いね……。ナルスレインが聞いたらどんな顔をすることか……」


 ここからでも、遠くに見える堂々としたシュヴァルツヴァルト城だけど、ここに居るファンシーな姿をした者達は皆口を揃えて『ルクルゥシア城』と呼んでいる。その理由が今フィアールカから見せられている映像に示されている。


 城を……侵蝕しているのだ。


 黒龍グランシールは、かつて小山の様な巨体を持つ生命体だった。しかし、休眠中にルクルゥシアに吸収され、混じり合いラグビーボール程度の卵に姿を変えることとなった。


 卵という姿であってもルクルゥシアは全ての力を失っていたわけでは無かったのだろう。恐らくは、その殻の内側から帝国の人間達をジワリジワリと眷属化し、帝国を傀儡化して我が身を復活させるための糧を集めるよう、誘導していったのだろう。


 その糧となる魔素をより効率的に吸収出来る場は何処だろうか?そう、戦場だ。


 グランシールとしての記憶も持っているルクルゥシアは、かつての大戦で数多くの魔素がこの地に溢れ出したことを識っている。


 そしてそれを利用すべく、我が身である卵をコアとして使用させた機体を戦地に送り出し……恐らくは先の戦闘、突如として皇帝機が再起動をしたあの時こそがルクルゥシア孵化の瞬間だったのだろう。


 殻を破り表に出たルクルゥシアは、まだ未熟ながらも黒龍と邪神の力を併せ持つ化物だ。未強化前の私達等赤子の手を捻るようなものだったに違いない。


 さて、話を戻そう。


 そこで孵ったルクルゥシアにより、城内の汚染――眷属化が進む速度が目に見えて上がったというのは、ナルスレインを始めとして白騎士団からも聞いている。 


 そしてその汚染は城に住まう人々だけにとどまらなかった。


 これはルクルゥシアが望んでそうしたのか、結果的にそうなってしまったのかはわからないが……、見た目は立派な城だけれども、その内側はくまなくルクルゥシアの身体が入り込んでいる。


 つまり、目に見える部分、石材や木材、鉱物等で構成される部分を外殻として、その内側に生体的……と言って良いのかわからないが、兎に角奴の眷属を構成している得体が知れない物質と同等の何かが存在しているのだ。


「まさかこんな気持ちが悪いことになっているだなんて、すっかり騙されたよ。私達としたことが、ああ、悔しいねえ、フィアールカ、スミレ」


「アレほど分かりやすい反応を見せていましたし、本来ルクルゥシアと言うのはスキだらけの存在ですからね。それに甘えてまんまと騙されてしまったのは否めません」


「中心でふんぞり返るあの反応こそがルクルゥシアだと思ったの……間違いではなかったけれどアレは……」


 今までじっと城の中央でおとなしくしているように見えたルクルゥシア。観察を始めてから一歩も動かないのは少々おかしいとは思っていたけれど、奴は人間じゃなければ魔物でもない。普通の生命体では無いのだから、そういう事も有るのだろうくらいに思われていた。


 が、動かないのではなく、動けない……いや、動く必要がなかったのだ。


 我々がルクルゥシアだと思っていたものは……確かにルクルゥシアには違いはなかったのだけれども、それはルクルゥシアのコア、巨大な魔石だったのだ。


 黒龍はこの大陸で魔素のバランスを保つために降ろされた存在だ。その役目を果たすためには大量の魔素を貯め込むことが出来る大きな魔石が必要となる。


 魔素を溜め込んだ魔石は強力な魔力を周囲に放つ。我々が捉えていたルクルゥシアの反応、それはコアに蓄えられた魔素から放たれた魔力反応だったのだ。


「まさかあの大きな城と一体化してるなんて思わなかったな……アレが動いたらって考えるとゾッとするな」


「ええ……。念の為に住人達を避難させておいて正解でしたね」


「元々眷属化の手から逃げた人々が多かったというのも幸いだったね。あの規模の都市だ。もし今日まで何も起きていなかったら皇帝直々の令であっても混乱は間違いないし、2日3日で終わるような事にはならなかっただろうねえ」


「その避難も今日でめどがつく予定なの。問題は一応許可を取る必要がある、ということなの」


「許可?」


「あの城は誰のものなの?」


「帝国の……ナルスレインの所有物ってことになるのかな?」


「よく出来ましたなの。お城がルクルゥシアになっているということは、この後カイザーがアレをボッコボコに壊してしまうということになるの」

 

「……ああ、そういう……」


「城だけで住めばいいけどねえ。あんだけ大きな質量を持つものが暴れたら……周囲は酷いことになるだろうねえ」


「城と街が近い街づくりと言うのはこういう時に考えものですね」


「え、ええ……?あ、ああー……それも含めて……ナルスレインに話せと言うことなんだよね」


 ファンシーな生き物たちがみな揃って首を縦にふる。そうか……そうだよなあ。よく考えてみれば巨大ロボが本気で市街戦をしたら周囲はとんでもない事になるよなあ……。


 まして、敵は超巨大なラスボスだ。下手をすれば……あの帝都は跡形もなく……。


 はぁ……アニメみたいに謎空間に転移して戦えればいいのに……謎空間……?そうか、その手があったか。


 私は一つの案を皆に説明をする。上手く行けば帝都だけは被害を最小限に抑えられるかも知れない作戦案だ。


 この作戦を取るならば、ナルスレイン達の力を借りることはできなくなる。我が身内のことはこの手で!と言っていたナルスレインの想いを叶えられなくなることになる。


 ……それも含めて、城を破壊するということ、もしかすれば帝都にも少なくはない被害が及ぶということ……それらをナルスレインやジルコニスタ、リンばあちゃんに話すのは私の役目。


 気が重いけれど、これは避けて通れないよね……。

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