第四百六十一話 決戦前日
新機歴12月21日10時12分
明日の決戦に備えて各自思い思いに身体を休め……というわけには行かず、今日も忙しく救助活動が続いている。
とは言え、こちらにはグランシャイナーがついているのだ。要救助者の位置はレーダーにて把握できているため、白騎士団とグランシャイナーが力を合わせ、事は順調に進んでいた。
そして、我々ブレイブシャインも避難所にて細々とした仕事をしている。
何を悠長なと、思うかも知れないが、既に最終決戦に向けての訓練が完了している以上、今はパイロット達のメンタルに気を配った方が結果としては良いのだ。
子供達の世話をするレニー、食料調達に出掛けたフィオラとラムレット、マシューは機兵のメンテを手伝いに行き、ミシェルは食堂で腕を振るう。そしてシグレは何やら鳥を使って連絡を取っているようだ。
「連絡用の鳥だっけ」
シグレに声を掛けると、少々驚いたような表情を向けたが、見られてまずいものではないようで、直ぐに笑顔に変わった。
「ええ。半島に住む仲間達へ現況報告をしていました」
リーンバイルには『草』と呼ばれる諜報員が存在している。私も時代小説等で同様の存在を見かけたことが有るけれど、日本の雰囲気をそのまま神によって移植されてしまったような土地がリーンバイルなので、その『草』という存在もそのままその影響を受けて同様の意味合いを持つ存在として産まれたのだろうと勝手に思っている。
草というのは、その土地の住人として代々住み着きながら、本国への連絡をしたり、必要であれば敵地にて情報操作を行い撹乱するという、中々に凄まじい存在だ。
長きに渡ってその土地に住んでいるわけなので、誰が見ても余所者だとは気づかれることはなく、敵地に溶け込んで任務を全うするある意味最強の戦力だ。
リーンバイルは大陸各国に草を放っているが、真に監視対象として目を光らせていたのはシュヴァルツヴァルトだった。神託により、良からぬことをやっている帝国を見張るのだと長きに渡って監視をしていたわけだけど、その『良からぬこと』とは紛れもなく、黒龍――いや、ルクルゥシアの存在を指していたのだろうな。
しかし、その草達の能力を持ってしてもルクルゥシアという核心には触れることは出来なかった。
その辺りは腐ってもラスボスさん……というわけなんだけど、それはさておき。
監視対象であるシュヴァルツヴァルトと同盟を結び、真の敵であるルクルゥシアの存在が明らかになった今、草の任務は終りを迎えたとも言える。
なので、シグレはここの所、半島内で帝都以外の場所に暮らす草達との連絡を密にしていたようだ。
「彼らはリーンバイルの国民であり、シュヴァルツヴァルトの国民なんですよ。当家としては彼らが戻ってくるというのであれば、喜んで迎え入れる用意は出来ていたのですが、長年住み慣れたこの地を永住の地に選んだ者達も少なくはないのです」
リーンバイルに帰ることを選んだ者達もいくらかは居て、彼らは既に島に帰還を果たしたらしいのだが、多くの草達はこのままシュヴァルツヴァルトに残る事を決めたそうだ。
「皆、帝都から離れた土地に根を下ろしては居ますが、何が起こるかわかりませんからな。念の為、備えるように連絡をしていたのですよ」
「そうだね。被害は最小限に抑えたいけど、備えるには越したことはないね」
「ええ。同胞に伝えておけば、何かあっても各地で救助活動ができますからね」
「ナルスレインも一応は各地に指示を送っているようだけど、それも万全ではないだろうしね。ありがとう、シグレ」
「なんのなんの。私はただ、自分が成すべきことをしているだけですので」
どこか照れくさそうな顔をして何でも無い様に言うけれど、彼女がコツコツと連絡を取り続けていたのは知っているし、毎日欠かさず中継役を務めるというのはそう簡単に出来ることじゃあない。
戦闘においてもシグレは縁の下の力持ちだ。彼女の索敵にどれだけ助けられていることか。グランシャイナー? だめだめ。あれの索敵能力は確かに凄いけれど、隠密行動に全く向かないからな。
ま、目立っても良いという状況であれば大いに戦力となるし、無論役に立ってもらうけどね。
一通り皆の様子を見たので、私達に割り当てられているテントに戻ると、スミレとフィアールカ、そして見るからに中身が分かってしまう縫いぐるみがわいやわいやと何やら話し合っていた。
「ただいま……っていうか、その縫いぐるみ……麒麟なんだよね?」
私が声をかけたのはキリンの縫いぐるみ。麒麟ではなく、キリン。動物園に居るあのキリンである。
「よくわかったね!そうさ、これも私さ。どうだね、カイザー。妖精体は怒られると思ったんでね、自重してまずは縫いぐるみから始めてみたのだが」
「……いや別に怒りはしないけど……なんでまたキリンに……」
「麒麟の縫いぐるみなんてかわいくないからに決まっているだろう? まあ、そんな事はどうでもいい。わざわざこの姿を取ってまで話に来たことが有るんだ」
どうやら麒麟はテント内で会議をするためだけにこの姿を取ったらしい。これは確実に建前だな。例え、機密性が高い会議をするとしても、わざわざこんな事をしなくともグランシャイナーの一角を使えば、ロボの麒麟であっても悠々と参加することは出来る。
あの言いぶりではきっと、既に妖精体の用意もしていることだろう。ティターニアを装備したときから予感はしていたんだ。いくらスミレが優秀だとは言え、彼女に彼処までの兵装を短期間で作れるスキルは無いはず。
確実に麒麟とフィアールカの協力があったはずだ。そして、麒麟が対価として妖精体の技術提供を望まないわけはない。
まあ、いいんだけどね……。
ため息を一つ付き、妖精とクマ、キリンが集まる混沌とした会議に参加することにした。
今後、完結に向けて脳が音を上げる可能性が高く、ちょっと投稿が遅れることもあるかも知れませんが、遅れたらお察しいただいて、生暖かい目でお待ち頂けると幸いです。なるべくがんばりますが!




