第四百五十九話 むかしばなしその1
新機歴12月20日21時
各国の要人たちが端末越しに、また同室で見守る中、会議と言う名目で始まった私からの報告会が始まった。
「お集まりいただいて有難うございます。今日集まってもらったのは、私という"存在"が何者なのか?そして何故今こうしてここに居るのか?ルクルゥシアとの対決を控えた今こそ皆様に知っておいて貰いたかった、大切な局面だからこそ、今知っておいて欲しい……その思いで、急ではありますが時間を取らせていただきました」
というか、私自身も今日知ったばかりなのだから仕方がないでしょう?と、いつもなら言い訳をして場を和ませてるんだけど、流石にこれから発表する内容を考えるとそんなマネは出来ないので控えておく。
「では、まずこの世界の昔話。神話の時代よりも過去のお話から始めましょう……」
と、話したところで、アズベルトが口を挟む。
「神話の時代よりも過去……?カイザー、君はそんな昔から生きている存在……なのかい?」
言った後(しまった)と言う顔をしているので、驚いて思わず口に出てしまったのだろう。別に質問は禁じていないし、あったほうがスムーズに行くこともあると思う。なのでその旨を伝えつつ、簡単に答える。
「詳しくはこれからの話しの中で説明をしますが、流石にその時代にはまだ私達はこの世界に居ません。何故……識っているかといえば、神から、おそらくはこの世界の創造神からその知識を預けられているから。そう答えるのが適切なのかな」
っと、油断をすると口調が砕けてしまう。そして私がチラリと出した情報で既に場はざわざわとし始めてしまった。
「お気持ちはわかりますが、静粛に。突飛な話に聞こえるかもしれませんが……まずは聞いて下さい」
そして私はデータベースにひっそりと隠されていた情報を開示していく。
◆
この世界には魔素という元素が実在している。これは知っての通り魔導具や機兵の運用になくてならない存在である。
その魔素が何故この世界に存在しているのか? その理由は単純で、不敬を承知で言えば馬鹿らしい理由だ。
かつて、神はこの世界に生きる人々に魔術を覚え、使ってほしいと考えた。そして魔物を放ち、剣技や魔術でそれと戦い、生命体として強くなり、成長してほしいと考えた。
神の子である人々は年月が経って文明が発達すると、自然とその願い通りに行動するようになり、魔術師や僧侶、賢者と呼ばれる魔術や神聖術等を使う職業や、戦士や武闘家、盗賊という武器や我身を使って戦う職業などが生まれ、数人で組を作って魔物を狩る彼らのことを『冒険者』と呼んでいた。
術やスキルと呼ばれる特殊技能は魔力を使用することにより発現するものであり、その魔力は体内に吸収された魔素が変換されて生まれるものである。
そして、魔物たちもまた、魔力を使用してスキルや術を使ったり、その生命維持に使ったりと、人も魔物も等しく魔素を使用し、その身が滅ぶ時には魔素として世界に還元し、循環させていたのである。
しかし、そんな時代から数千年が経過すると、いつしかこの大陸の人々は魔術を使わなくなっていった。何故か?発達した文明により、魔物から人間の住処を護る方法が確立され、人と魔物が別れて暮らせるようになったのだ。
勿論、魔物を放っておけば数が増えすぎ危険なため、それを狩る冒険者という存在は減りはしても残っていたし、国家を護るという名目で有能な魔術師達は国に囲われ宮廷魔術師としてきちんと魔術の知識は受け継がれてはいた。
が、この変化が神が想定した魔素の運用にほころびが生じてしまう。
魔素というのは、例えば年間10ポイントの魔素が大陸全土に自動生成されることになっている。生成された魔素は人と魔物が合わせて使い切るように調整されていた。
そして、人や魔物の死により、同じ量、10ポイントが返還されることにより循環がなされていたのだ。
しかし、いつしか人と魔物がさほど戦わなくなり、魔術やスキルの出番が減ってしまった。となると生成された魔素を使い切らないうちに1年が終わり、使った以上の魔素が返還されてしまう。
まずいのは余った魔素が地上に残ってしまうということと、それとは別にまた新たに魔素が生成されてしまうということだ。
そして、創造神は一度運用を始めた世界に直接手を下すことが出来ない。なので、バランスに問題があると気づいても魔素の生成量を変えるということが出来なかった。
魔素が過剰に存在すると様々な悪影響を及ぼす。魔物達にとっては繁殖力が上がり、スタンピードの原因となる他、さらに過剰に魔素を吸収し続けるとあまりにも強すぎる上位種となり、人間族にとっての驚異となる。
人間達にとっても非常に悪い影響を及ぼす。過剰な魔力の生成は命を脅かす。適正が高いものは生存することもあるが、限界を超えて魔素を吸収すると身体が変質化して魔族化してしまうのだ。
魔物は強化され、人は弱り魔族化していく。つまりこのままではこの大陸は魔物の大陸になってしまう、そんな危機に陥ってしまった。
「不敬なのは承知で言うけど、これはもう完全に神の失態だよね。魔素の供給量を可変式にしようと少しでも考えていればこんなことにならなかったと思うんだ……」
思わずつっこみをいれてしまったが、ほんとあの創造神がもう少し考えて世界を作ればよかったのだ。
さて、ここで神も流石になんとかしないといけないなと考えた。でも、自分は直接手を出すことが出来ない。であれば、お手伝いさんを使えばよいのでは?
「もしかしてだがよ、カイザー、あんたはそのために召喚されたのか?」
レインズが顔に似合わず恐る恐るといった具合に質問をしてきた……けど。
「うーんハズレ。私達がやってくるのはもっと後だよ。でもね、ここで呼ばれた存在はレイ達も知らない存在ではないよ」
魔素が溢れるのであれば、それを調律する役割を担う者を置けば良い。単純にそう考えた神は、人里離れた地に調律者として『黒龍:グランシール』を創造し、配置した。
そう、後に何らかの原因によってルクルゥシアと化してしまう黒龍は神の創造した神子だったのだ。
こういうのサクっと終わらせたほうが良いとは思うのですが、文量がそれを許さなかったのでまだちょっと続きます……。




