第四百四十九話 破壊大作戦
というわけで、完成した対アネモネ決戦兵器、それはリモート制御可能なマギアディスチャージ爆弾だ。
ジルコニスタ達白騎士団が装備しているのは榴弾タイプで、着弾後に周囲及び被弾した対象に効果を及ぼす物である。
特化方はそれをリモート制御可能にしただけ……なのだが、結果として非常にエグい事になった。
リモート制御仕様にした理由は言うまでもなく、投入箇所から対象までの距離が有るというだけのことで、むき出しの魔力炉に直接作用させるため……という事なのだったが……。
フィアールカ達により、頭を潰され動きが鈍った触手をヤマタノオロチがスッパリと途中から斬り落とす。
その断面から内部にマギアディスチャージボムを投げ込み、コンベヤで運ばせるというのが作戦だった……のだが。
「マギアディスチャージボム、対象まで10秒……8秒……5、4、3……起動」
淡々としたスミレのカウントダウンが終わり、無情にも起動スイッチがONになった。
――瞬間、大分動きが鈍っていた触手達がビクン!と大きく跳ね、以後沈黙。本体が停止したことに寄るショック反応かなにかだろうと思った瞬間……遠くから響く鈍い轟音。
「……あっ」
スミレが珍しい声を上げた。その理由はもちろん……スミレとデータを共有している俺にも分かっている。
「城の一部が……崩れたな……あれは一体……なぜ……」
シュヴァルツヴァルト城……、居館でこそ無いが、兵士が詰めているであろう城壁塔が跡形もなく崩れ落ちてしまった。
「……アネモネの機能停止と何らかの関係はあるのでしょうが……少々お待ち下さい。データを収集しますので」
先程崩落した精製場と思われる部屋にはアネモネの解析に向かったドローンが何機か送り込まれている。どうやらそれらの機体は崩落に巻き込まれず健在のようで、今もなおデータを送り続けている。
スミレはそのデータを元に事故の原因を探っているようだ。
「ああ……なるほど……そういう事ですか……私達は……悪くない……悪くないです……ね」
「どうした?なにかわかったのか?」
なんだか歯切れが悪い独り言を言っているスミレに声を掛けると、苦笑いと共に状況を報告してくれた。
「アネモネが潜伏していた地下施設……いえ、地下施設だと思っていたのがそもそもの誤りだったのです」
「誤り……?」
「あれは言わばアネモネの巣。これはあくまでもデータに基づいて導き出した推測ですが、ルクルゥシアによって地下深くに産み落とされたアネモネは、あたりに漂う魔素や、城に詰める人々から溢れ出る魔力を吸収し、地底で成長。身体の成長とともに触手を伸ばし、それを柱としながら巣を拡張……」
「キリンの様な真似をしていたのだな」
「キリンが聞いたら怒るでしょうね……それでその……、我が身を構造物として作られていた地下施設というわけですので……それを制御していた本体が機能停止してしまうと……」
「……つまりは、支える力を失った"柱"達が次々と倒れ、重さによって崩落した……ということか?」
「……そうなりますね。最も、マギアディスチャージ発動により、地底のアネモネ本体が多少暴れたのも確認できましたので、我々のせいというよりは、アネモネの自爆、つまり悪いのは全てルクルゥシアということになります」
……凄い責任のなすりつけ方だ……! 状況が状況だし、誰も文句は言わないと思うのだが、スミレとしては城にダメージを与えた原因が自分に有るという状況は避けたいのだろう。
たまにスミレはそういった謎の矜持を振りかざすからな……。
そもそも、これからルクルゥシアと戦うにあたって城が無事であるという保証は一つもないのだが……、きっとスミレならば
『我々の攻撃により、城が崩壊するのはまずいですが、ルクルゥシアが城を破壊しながら派手に登場した、というのであれば問題はありませんし、好都合です。既に壊れているものを壊した所で責任は最初に破壊した者に向かいますから』
なんて酷い事を言うに違いない。
……なんだかスミレが睨んでいるが、この思考はスミレと共有しないよう念入りにブロックしている……はずだ。
「……カイザー?なにやら妙な事を考えていませんか?」
「なんでもない。ああ、それよりもだ!アネモネの討伐は終わったんだ、避難民を連れて港へ向かうぞ!」
「……? はあ、そうですね。フィアールカからもそちらに向かうと連絡が入りましたし、移動準備を始める頃合いでしょうね」
なんだか釈然としない顔をしているスミレだったが……、直ぐに仕事に移ってくれたので助かった。まあ、我々は仕様上忘れるということがないので、後からじっくりと詰問される恐れもあるのだが。
マシュー達が道路上の触手を片付け、進路を確保した頃フィアールカから『着いたの』と連絡があった。
支度が終わった避難民達をぞろぞろと連れ、港に行くと見慣れた帆船が主張たっぷりに停泊していた。
「な、なんだあの船は……でっけえ!」
「待て、よく見ろ!あの船、海じゃなくて宙に浮いてないか?」
「なんだか俺達が知ってる船とは何処か違うぞ……」
人々が口々に船の感想を述べ、驚きの声を上げている……が、とりあえず乗ってもらおう。
「感想は後だ後!まずはそこのタラップから乗り込んでからゆっくり話せ!」
ケルベロスのハッチを開け、マシューが人々に『さっさと乗り込め!』と声を張り上げている。マシューはこういう時にやたらと頼りになるんだよな。流石トレジャーハンターギルドのギルドマスターさんだ。
一通り収納が終わると、フィアールカから通信が入った。
『とりあえずはこれで全員なのね?』
「ああ、俺達が連れてきたのはそれで全部だ」
『ん、わかったの。避難所まで運搬後、再び自由行動に入るの。何かあったら呼んでほしいの』
「了解だ」
現在平原に急ピッチで避難所が作られている。
その避難所にはこれからの戦いに備えて避難をしてもらうという目的も有るが、我々が来る前から既に壊されてしまっている建物も少なくはなく、それらの建物を修復するまで生活をする場所としても使ってもらうつもりだ。
フィアールカはこの後自由行動となり、ドローンを使って逃げ遅れた人々を誘導・救助する予定である。
そして我々は一度ナルスレイン達と連絡を取り、可能であれば合流後城を目指そうと思う。




