第四百四十七話 ルクルゥシアの目的とは
触手から身を護りながら対策兵器の生成を進めている。
触手達も若干弱ってきたのか、動きが鈍くなってきたようなので、マシューに頼んで少々"いたずら"を仕込んでもらった。この結果によっては俺の作戦も変更を考える必要があるのだが……まあ、大方予想通りの結果が返ってくることだろう。
魔獣という存在が居るためか、なんとなく気にはしていなかったが、冷静に考えればこの触手に痛覚らしいモノがあり、ダメージに反応しているのは少々気になる。
体育館くらいはありそうな本体を持つこの触手達の本体はおそらくルクルゥシアの眷属だ。これは根拠としては弱いが……、少なくともこれまで遭遇した魔獣達は何処か動物や昆虫の面影を残した物達であり、如何にも魔族らしい禍々しい姿のモノは居なかった。
ここで思い出したいのがアニメシャインカイザーに登場するルクルゥシアのモチーフだ。シャインカイザー4期で明らかになる全ての黒幕である敵対組織【ルノィエ・ルー】は幹部達の手により邪神ルクルゥシアの復活を果たし、自らもその眷属となって化け物のような姿に変わっていた。
その化け物の様な姿というのが、所謂SAN値がまずい事になる系の……アレ。ルクルゥシアやその眷属達は例の神話に登場する邪神達をモチーフにしたとしか思えない中々に凄まじい見た目をしているのだ。
で、現在そこらを破壊しながら暴れまわっている触手達だが、サイズがサイズだけにぱっと見では『なにか黒っぽい大きな触手が這いずり回っている』ようにしか見えないのだが、フィアールカやフェニックスから送信されてきたデータと俺がスキャンしたデータを元に全体図を導き出してみれば……イソギンチャクを2つ繋げたような……それでいてどす黒く、ヌルヌルと蠢く中々に破壊力が……精神的な破壊力が有る姿が浮かび上がる。
そんな姿のものがこの世界に居るとは考えにくい。なのでこれはルクルゥシアが生み出した眷属であろうと結論づけたのだが、そうすると奴らが感じている痛覚、これが気にかかる。
この世界の魔獣達は機械生命体ではあるが、きちんと痛覚を備えている。痛覚というものは生命活動に危険が迫っていることを伝えるアラートとして必要なものであり、元の有機生命体だった頃の身体から引き継いだ仕組みだと考えられる。
アニメ作中のルクルゥシアが出来たことと言えば、幹部達を眷属化した事と、その幹部達や配下の兵士が乗り込む機体の生成である。
幹部達の姿はルクルゥシア同様、どちらかと言えば有機生命体と言えるヌルヌルぐちゃぐちゃとしたものであり、少なくとも機械の体では無かった。
そしてルクルゥシアが生成する機体はあくまでもロボットであり、乗り物である。痛覚なんてもちろんのこと、俺達とは違ってパイロットが乗り込まねば動作することすら叶わなかった。
……ああ、これまで感じていた違和感の正体はそこか。
ルクルゥシアの配下は現在確認できているもので3種。パイロットを必要としない眷属、眷属化したパイロット、そして今駆除に動いている触手――仮にアネモネと呼ぼうか。可愛らしい名前だが、イソギンチャクを英語でいうと『Sea anemone』と呼ぶらしいからな。
その中でルクルゥシアが直に生み出した存在は眷属だ。不定形の眷属はアネモネが回収した資材を元にルクルゥシアが生成しているのだろう機体に潜り込み、それを身体として利用している。
おそらく最初の内は帝国軍の機体をそのまま使用していたのだろうが、急ぎ大陸を手中に収めるために製造工場の一部としてアネモネを生み出し、生産の助力としたのだろう。
さて、そのアネモネに痛覚が備わっている。明らかに機械で構成された身体であるというのにだ。当初はこのアネモネもまた、眷属の乗り物的なものだろうと推測していた。城の地下深くに巣食う本体に乗り込んだ眷属が触手を操り、海底から鉱石を採掘しているのだろうと。
しかし、フィアールカの攻撃によりその推測が誤りであると判明した。
痛覚を持っている。
フィアールカの攻撃を痛がり暴れるその反応は正しく生命としての反応だ。少なくとも眷属が操る機体のそれではない。
これはよく考えるとかなり厄介な事実だ。
機体を身体とする眷属はあくまでもルクルゥシアの分体であり、ざっくりと乱暴に言ってしまえば奴の身体の一部である。痛覚と言ったものはなく、あくまでも原始的にルクルゥシアから受けたプログラムに沿って行動している。
しかし……アネモネは痛覚を備えている。ざっくりとしたデータしか取得できていないが、身体の組成はこちらの世界における魔獣と近い。
……ルクルゥシアは……新たな生命体を創造しているのだ。
奴がテンプレ通り良く喋る悪の親玉だったのならば、べらべらと話してくれていだろうが、あいにく奴は不気味と無口であり、未だ何をしたいのかわからない。
そもそも俺が知っているルクルゥシアとは違う存在が、劇場版のルクルゥシアがベースとなっているのだ。こうして新たな生命体を生み出している以上、ヤツの狙いは俺が知っている『世界を全て破壊し無の闇に染める』という拗らせた分かりやすいものではない筈だ。
……もしかして奴の狙いは世界に深遠から来たような生命体を蔓延らせる事ではなかろうか。
「生成作業完了」
「ぬお!?」
なんだかゾッと寒気がした所ですみれが声をかけてくるものだから少々ドキリとしてしまった。
「何を驚いているんですか。出来ましたよ。さあ、さっさと"アネモネ"を駆除しましょう。まったく、あんな気持ちが悪い物になんて可愛らしい名前をつけているのですか……」
「……くっ!」
アネモネを破壊すれば奴の"神様ごっこ"に大きな支障が出るのは間違いない。さあ、盛大に邪魔をしてやろうじゃないか。
どうも過去に書いた分に『ルクルゥシア』を『ルクルァシア』と書いている箇所がいくつか有るようなんですが、とりあえず気が向いたら直していく方向で……!




