第四百四十三話 港にて
先行して港湾地区に入ったフェニックスより映像が届いたが……中々に酷い有様であった。
本来であれば石やコンクリート、木材などで作られた港の床面が見えているだろう場所を多数の触手が、人間などすっぽり収まるくらいに太い触手が所狭しと這っている。
どうやら海中に向かって伸びているようだが……、念のため"ポーラ"に居る方のフィアールカに調べてもらうとしよう。
「カイザーだ。フィアールカ、余裕はあるか?」
『フィアールカなの。下の方は落ち着いてきたから平気なの。どうしたの?」
「それは良かった。実はな…………」
と、事情を説明すると『ちょっとだけ……20分くらい待って欲しいの』と、一時通信を切られてしまった。どうやら精密スキャンをかけるらしく、少しでも余分なリソースを減らしたいとの事だ。
本来のフィアールカであれば通信をしながらのスキャン程度なら軽くこなせてしまうのだが、現在フィアールカは2体に分離している。おまけに何故かグランシャイナー側のフィアールカの方に集中してリソースを割いているため、ポーラ側は大分余裕が無いのだ。
パソコンで例えれば、メモリ32GBのうち、地上で使っているのが24GB、宇宙側が8GBと言った具合。ついでに言えば地上側は他のPCがあるため、そこまでメモリを割く必要が無いわけだ。
なんでそんな事をしてるのか気になったのだが、どうもフィアールカ本人には聞けず、それとなくキリンに質問をして理由を探った事があったのだが……、どうやらリソースを割けば割くほど人間的な五感をより繊細に感じやすいらしく、食べたり遊んだりのデータをしっかりと残したいのでは無いかとキリンが結論を出していた。
まあ……、長年ソラで寂しい思いをしていたわけだから、その分を取り戻しているのだろうと思えば文句など無いのだが、ちょいちょいこういう時に不便を感じる。
と、一時足を止め待機をしていると……5分もしないうちにフィアールカから通信が入った。随分と早いなと思えば地上のフィアールカからだった。
『ポーラのフィアールカじゃ無くて残念だったの。グランシャイナーのフィアールカなの』
『……なんだかややこしいが……、どうした?何か問題でも起きたか?』
『あっちのフィアールカとは並列化しているから事情はわかったの。上のフィアールカから改めて連絡が入ると思うけど、ここが終わったらそっちに向かうの!お手伝いが必要なの』
「ちょっと待ってくれ、一体何が見つかったんだ?と言うか並列化してるなら君が話してくれてもいいだろう?」
『だめなの。上のフィアールカのお仕事を取るのは可愛そうなの。じゃあ、そういうわけなの!』
有無を言わさず通信を切られてしまった……というか、わざわざわけて連絡する意味が本当にあるのだろうか? なんだか上のフィアールカに気を遣っているかのような態度を取っていたが、どっちにしろ自分だろうに……。
「カイザーで言うところの子馬のような物ではないでしょうか。子馬は貴方とリンクしてはいますが、自立行動を取って貴方の意思と関係なく動く事がしばしばありますからね」
「むう……。馬が妖精体の俺になっていると思えばまあ、わからんでもないか。アレはどちらも俺であり俺の意思で動かしているが、もし分離した場合……俺もきっとアレに気を遣う可能性はあるな……」
なんだか頭がゴチャゴチャしてきた……。人間の体であればまずあり得ない話しだからな。かといって、この体であっても魂的な物は入っていると思うんだ。となれば馬の俺は一体どういう状況なのか……考えれば考えるほどドツボにはまる奴だな……。
クラクラしてきた所でポーラから連絡が入る。
『お待たせしたの。下のフィアールカが思わせぶりな事を言ってごめんなの。でも、これはカイザー達だけの手には負えないの……』
「だから一体何が見つかったんだ?お前まで思わせぶりなセリフだけで終わらせないでくれよ」
『下のフィアールカと一緒にしないで欲しいの!甘味につられた愚かなフィアールカと……それは今はいいの。それより……』
……なるほどそう言うことか。フィアールカからの説明により俺の疑問は融解した。いや、ある程度予想していたことだったのだが、まさかここまで大事だったとはと驚いている。
フィアールカは地上を這い海に垂れ下がっている触手の出所と行き先を調査してくれたらしい。それによれば出所は城の地下に存在する空洞。流石に地下まではハッキリとスキャンすることは出来なかったらしいのだが、それでも場所を特定出来たことは大きい。そもそも、そこで何をしているのかという疑問は海側のスキャン結果で大方検討がつくのだから。
海に伸びた触手の行き先、それは海底だった。
ポーラのフィアールカの依頼を受け、地上のフィアールカは周囲海中を探らせるため、予めグランシャイナーから投下していた自立センサーを使用して海底の綿密な地質調査をしたそうな。
僅かな時間でよくもまあと驚いたが、元々周辺海域の調査をしていた関係でデータを揃えるのが容易かったのと、近場に居たので急行出来たとのことだ。
そして出てきた分析結果をみれば……なるほど納得だ。シュヴァルツヴァルト近海の海底には広大な鉱脈が存在しているようで……、どうやら触手はそれをせっせと集めているらしい。
『ドローンの映像を見て寒気がしたの!触手が……ムシャムシャと鉱石を食べているの!きっと触手の内側を通って城の地下まで運ばれていくのよ……悍ましいの……』
大量生産されている機体はどこから来たのだろう、その疑問の鍵は恐らくこれが正解だろう。海底で素材を集め、城の地下に運び込む。城の地下にはルクルゥシアか、製造特化型の眷属が居て、集められた素材を元にシュヴァルツの模倣品を作っていく。
鹵獲した眷属機は無から作り出されたまがい物では無く、模倣品とは言えきちんと素材を使って作られた物だったからな。
『これは潰す必要があるけれど、思った以上に規模が大きいの……。カイザー達の手には余るから、ここはグランシャイナーのフィアールカに丸投げしてやるの。幸い、港は触手がある以外には静かな物なの。カイザー達はグランシャイナーが到着するまでに住民を集めて避難準備をしておくの』
「わかった。では、また後ほど」
どうやらこの周辺には逃げ遅れた作業員達が居るらしい。鬼の居ぬ間のなんとやら、今のうちに急いで救助しよう。




