第四百三十一話 情報共有その2
10分ほど小休止を取った後、「皆、喉は潤ったようだね?うんうん、では再開しても構わないね」……と、キリンは話の続きをするぞと高らかに宣言した。喋っているのはキリンなわけで、パイロット達は黙って話を聞いているだけだし、皆の喉の潤いを気にする必要はあまり無いのではなかろうかと思ったのだが、直ぐにそれは誤りであったと思わされることとなる。
「さて、次にシグレくん操るフェニックスの必殺技……、シグレ君何という技だったかな?」
「はい……コホン。フェニィイイックスゥウウ!!インパクトォオオオオオオオオ!でござる」
「はい、よく出来ました。そうだね、フェニックスインパクトだね。この技は……」
「待て待て!何故技名を叫ばせたの? これがマシューやレニーなら自発的にやったのだろうと思うけどシグレだよ?キリンが仕込んだんでしょ!?」
「はっはっは。バレたか。いやなんだ、彼女たちのコールが中々に胴に入っていてね、折角だからこの才能も伸ばそうと常日頃から練習をさせて……」
「今言わせることじゃないよね!? いや、スキだけどさ!」
なんとも疲れるやつだ。普段からこの調子なので話がずれるずれる。頼みのスミレもこういう時はクスクスと笑ってツッコミ役を放棄するし、私がしっかりしないと話が全く進まない。
「さて、そのフェニックスインパクトだが、その秘密はフェニックスの特異な設計思想にあるんだ」
何事も無かったかのように唐突に話を再開するからたまらない。いやまあ話が正しい方向に戻るのは喜ばしいことなのだが。
「特異な設計思想?」
「ああそうさ。私達の身体は自律するナノマテリアルの働きによる"自動修復機能"が搭載されているよね。輝力を媒体に作動するナノマテリアルのおかげで些細な傷なら即時、重篤なダメージでも時間をかければ自動的に修復されるようになっているよね」
そのあたりは流石に私も知っている。アニメ特有の『シーンをまたいだらシレっと直っている』と言うアレに説得力を持たせるためそういう裏設定があるのだと設定資料集に掲載されていた座談会にてぶっちゃけられていたからね。
それでも流石に急を要する様なシーンではメカニックたちが必死に修理をする描写もあって、あくまでもナノマテリアルは軽微な損傷を直すための機能なのだという認識なんだけども……。
「で、だ。通常時は外装に薄くそれらが展開していて、残りは全て内側の深いところに格納されているわけなんだが、フェニックスの場合それらの総量が我々の3倍は軽くあるんだ」
「3倍……!」
「うむ!そしてフェニックスインパクトの使用が確認されると、ナノマテリアルは外装及び内部フレーム表面に厚く展開し、熱に依る損傷を常に直し続けるためスタンバイする」
「……つまり、あの炎は自らもしっかり焼いていると言うことなのかい?」
「ああ、そうさ。あの技を使用中は絶えずフェニックスにもスリップダメージが入っている……が、ナノマテリアルの活躍によりそれらが常時修復されるためプラマイゼロ。ああ、コクピットは若干暑くなるが……」
「はい。あの暑さはリーンバイルの石熱蒸し風呂を思い出します。多少汗ばみますが……、修行と思えば苦ではありません」
修行って……。極地においてもそれなりに内部環境を整えてくれるコクピットがそんな状態になるというのはなんとも恐ろしい話だよ……。
「そしてフェニックスの嘴に該当するパーツは特に熱に強いマテリアルが使用されていて、対象を貫き、そのまま高温の体表で焼いてしまうという恐ろしい技なのだよ」
「いや本当に……本当に恐ろしい技だ……。モードアイギスといったかい?目標の直ぐ側に居た君が防御行動を取ったのも納得だったよ。なんたって周囲が白く灼けていたからね……」
「ああ、フェニックスインパクトの最大の欠点がそれだね。近くに味方がいる場合は巻き込んでしまうんだ。アイギスを使用したので最小限のダメージですんだが……それでも熱に依るダメージはあったのだから恐ろしい技だよ」
そしてキリンはそのまま流れに沿ってアイギスの説明に入る。戦闘時はただのバリアフィールドのように思ったが、後から記録データをチェックした際、どうも何かを装備しているように見えたのだ。
「さて、カイザーやレニー君が私の『アイギス』に興味津々のようだから先に説明させてもらおうか。といっても、話の流れ的にフェニックスの次に話すのが相応しいと思っていたからね、予定調和なのだが……」
言われて横を見ればレニーが目をキラキラとさせて身を乗り出していた。フェニックスが放ったフェニックスインパクトをキリンのカメラから捉えた映像を見てからテンションが上り始め……、それを耐えられるというアイギスの説明を今か今かと待っているらしい。
「うんうん、そうやって期待に満ちた目を向けられると私も説明のしがいがあるというものさ。
まず、モード:アイギスの発動には別途防御兵装『アイギス』の装備が必要となる。これは両腕に装備する縦に長いシールドでね、格闘技のガードのようなポーズを取ると2つが合わさり大きな盾となるんだ。
で、『アイギス』はフェニックス同様にナノマテリアルが多数含まれている。ちょっとやそっとじゃ壊れない強力な盾だ。でも、アイギスはそれだけじゃあない。うん、ご存知の通りフィールドを展開することが出来るんだ……が」
と、一息で全部話してしまうのかと思ったら、ここで一息入れ、モニタの資料を切り替える。どうやら輝力炉からのエネルギーの流れを図に表したもののようだ。
「通常は全身に隈なく回している輝力だが、シャインカイザーは各パイロットの判断で各部位にそれを集中させ、瞬間的にスペック以上の力を発現させたりするだろう?」
「ああ、脚力を上げて跳躍したり、腕力を上げて攻撃をしたり……思えば色々無茶をしてきたな……」
「うんうん、それだよ。それを私の場合、イージスに回すことが出来る。イージスを装備品ではなく、身体の一部分として輝力を回し、バリアフィールドの出力とナノマテリアルの動力源として回すことが出来るんだ。その切り替えコールが『モード:アイギス』かっこいいだろう?」
かっこいいだろうと言われてどうかと言えば、素直にかっこいいと思う……悔しいが、非常にかっこいい。私も『モード:アイギス発動!』とか言ってみたいし、あの護りは非常に強力だと思う。
……もしかしてキリンと合体している時にはそれも使えるのでは……? そのあたりも聞いてみようと思ったのだが、どうやらアイギスに関する話は一度ここでおしまいのようだ。
「さて、次はミシェル君の説明に入りたいとおもうが……彼女の必殺技は先の戦闘で披露することが出来なかった……だから本当はここでは明かさず、次の戦闘で華々しく……と思ったんだが……!」
「流石にそんな悠長な事をしている暇はないぞ。次に着陸する時は既に戦地、そしてその後は休む間もなく決戦だ」
「ああ、勿論わかっているさ。で、だ。ミシェルくんの発表ついでにやっておきたいことがあるんだよ」
「む……?」
「レニー君、カイザー。君たちだけ新必殺技が無いというのも寂しい話じゃないか。どうだい? VR訓練で新たな技を身につけるというのは。その訓練の中でミシェルくんの技も披露すれば一石二鳥!時間も節約できて更にお得だ」
この提案に断るような私じゃあない。勿論、私が何か言うよりも先にレニーが『やります!』と身を乗り出して賛成したのだが。




