第四百二十七話 逆転の蒼き炎
感情が無いと思われる眷属達も突然現れたグランシャイナーに軽く動揺しているように見える。恐らくは予期せぬ障害が突如として現れたため、プログラム的な混乱が生じているのだろう。
リブッカ達はと言えば、標的をグランシャイナーに変え、船体側面にガツンガツンと体当たりをし始めている……が、残念ながらいくら魔鉄鋼とは言えあの装甲に穴を空ける事は叶うまいよ。
「シグレから聞いた話より随分と愉快な状況じゃないか。あたいが来たからにはもう安心だぞ」
「お花畑にやってきた動物さん……と言うにはちょっぴり大きすぎますわね」
「レニー！カイザー殿！待たせたでござる！」
マシュー達が口々に何かを言いながら船から姿を現した。
「お姉ちゃん大丈夫？採集は得意だろうけど狩りは苦手でしょう？なんでシカなんか連れてきちゃったの」
「フィオラ……あれはどう見てもあちらから勝手に来たように見えるぞ……」
続いてフィオラ達が乗るキリンも姿を現す。これで全員集合、合体可能だが今は個別の火力がほしい。他には白騎士団を率いるジルコニスタとナルスレインの姿もあるが、彼らには眷属化したシュヴァルツの相手を頼みたい。
「キリン！例のものは用意出来ているな？」
『マギアディスチャージだね？ああ、勿論さ。既に白騎士団に装備させてある。後は彼らに任せると良い』
「ああ、それを聞いて安心した！ よし！ブレイブシャイン一同はこれより鹿狩りとする！合体はせず、各機協力して討伐にあたってくれ」
「「「了解！」」」
リブッカの数は4体。対するこちらの戦力は5機である。アレは1機ではうまく対処するのは難しい。なので、2機と3機に別れ、1体ずつ確実に対処することにした。すると残る2機が好き勝手暴れることになるわけだが、そこは……。
『そんな時に私が活躍するの！ グランシャイナーはただのお船じゃないのよ！ちゃんと攻撃用の装備だってあるんだから！』
船に体当たりを繰り返すリブッカにレーザービームが撃ち込まれる。魔鉄鋼と相性があまり良くは無いようで、致命傷を与えることは出来ていないが、それでも足止めには十分だ。
「ありがとうフィアールカ！ではそちらもクルーと協力してリブッカの対処にあたってくれ！」
『言われなくてもなの！』
俺、カイザー率いるチームＡはマシューと2人の肉弾コンビ。キリン率いるチームBはシグレとミシェルのテクニカルトリオである。
リブッカの行動パターンは既に全機に向けて共有済みだ。それぞれのパイロットはAIよりその情報を受け取り、対処法を考えていることだろう。
「というわけでマシュー。あいつは頭に厄介な代物をつけている」
『ああ、あのでっかい角だな！ヒッグ・ギッガを思い出して嫌な汗がでるけどさ、今のあたい達なら行けるだろ！』
「頼もしいな！ ただ、奴はああ見えてなかなかに機敏に動く。そこで……」
ザックリとではあるが作戦を提案する。まあ、これもスミレ先生の監修した作戦なのだが、それ故かマシューも素直に了承し、間もなく討伐ミッションが再開した。
「ほらほら！こっちだよ！こっち……だよおおおおお！」
誘い役の俺を操るレニーが出さなくても良い優しい声を無理に出しながらリブッカの頭部をガントレットで殴りつける。無論、その拳は角によって受け止められ、多少のダメージは伝わっているのだろうが、やはり決定打には欠ける。
……が！
『ばかめ！腹ががら空きなんだよお！』
そう、今は仲間が、マシューが居る。兵士達が乗る機体を使って同じことをしようと思えば出来なくもなかったのだが、攻撃力に欠けるため彼らを使うとなれば囮役にするしか無い。無論、それをしてしまえば彼らの機体など無残に破壊されてしまうだろうから言い出せなかったのだ。
が、ブレイブシャインの僚機達ならその心配はない。ダメージは負うがいくらでも修復可能だし、コクピットに影響が出るようなダメージが予想された瞬間パイロット保護機能により緊急射出される。
何より、俺の装甲は他の機体より若干頑丈に出来ている。囮役ならどんとこいだ。
「逃さ……ないぞおおおお！！」
角をガッシリと押さえ込み、レニーが気合を入れる。その間にもマシュー操るケルベロスの拳が容赦なくリブッカの脇腹に突き刺さる。
「クルェエアアアアアアアン」
それを嫌がり、頭を振ってなんとか抜け出そうとするが……そうはさせない。体ごと左右に振られてしまってはいるが、この手は放すわけには行かないのだ。
『いいぞカイザー！レニー！お前らが良い重しになって得意の素早さとやらが活かせてないらしい！このまま決めてやるぜ！』
「うん……っ！やっちゃえマシュウウウウウウ！」
『うおおおおおお！！！！ヘルズ・フレイムゥウウウウウ……ナッコォオオオオオオオ！！』
何やら必殺技の掛け声の様なものが聞こえる。見れば青い炎に包まれたケルベロスの拳がリブッカの腹部に突き刺さろうとしていた。
轟音、そして吹き飛ぶ我々。
リブッカと共に吹き飛ばされてしまい、衝撃で角から手が離れてしまったが……、もう拘束の必要はないだろう。
「凄い凄い！マシュー凄いよ！そんなかっこいい技何時覚えたの！？」
『へへ……初めてにしては上出来だろ？』
決めポーズを取るマシューの前に無残な姿となったリブッカが転がっていた。
……いやほんと、いつの間にそんな技を覚えたんだ……。
